《後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりをけて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜》雪渓は踏み抜くリスクがあるのですわ!
森の木々が風になびく音が、幾人もの嘲笑のようにヴェロニカにはじた。
ミシェルは乾いた聲を発する。
「いつ気がつかれるかと思ってたけど、思ってたよりも遅かったよ。オレの裝技が結構高いってこと? それともあんたが鈍いのかな」
口元は笑っているものの、その目は爛々と、奇妙な輝きに満ちていた。
ヴェロニカは恐れをなした。
裝が趣味の人間、というだけではない。個人の趣味嗜好に口を出すほど愚かではない。
このミシェルは、恐らく集落にいた男たちと同類なのだ。
人を殺しても平然としている、武裝し、他人に害をもたらそうと畫策している、そんな人間の一人だ。
初めから、ミシェルは拐などされていなかった。だから縛られてもいなかった。あの馬屋にいたのは、ヴェロニカを見張るためだ。しかしヴェロニカがそれに気がついていないと知り、同じく拐されたを偽った。金持ちの娘と言ったのも、姉がいるということも、噓なのだろう。
(そしたら、今、一緒にいるのは、なんのため――?)
どうせ愉快ではない理由に決まっている。
ミシェルの粘り著くような視線に、元婚約者を思い出す。己のにを任せた人間に、共通する輝きだ。
できることはただ一つ。逃げることだけだった。
だがヴェロニカが背を向け逃げようとした瞬間、それは瞬く間に葉わぬ夢と変わる。
「逃がすか!」
「きゃあ!」
背後からミシェルに抱きつかれるように捕らえられ、數歩すら走れないまま地面に押し倒される。
朝が殘っていたらしい濡れた落ち葉が、不快に纏わり付いた。
片手に銃を持ったミシェルは、ヴェロニカにのしかかりながら、もう片手で抑えつける。
「殺そうかとも思ったけど、やめた。あんたすごく綺麗だから、汚したくなる」
逃れるようにもがくヴェロニカの服や顔に容赦なく泥が付く。だがしも拘束は解けない。
ミシェルの力は強い。一どうして気がつかなかったんだろう。
腕は逞しい、聲も低い。
骨格も、顔つきも、どこからしさはあるものの、よく見れば男のものだ。
格好やたたずまいからヴェロニカはミシェルがだと思い込んでいた。だから気がつかなかったのだ。
こいつが男であることに。
「オレのになるなら、生かしてやるよ」
ヴェロニカはもがくのに必死だ。ミシェルのその聲は、どこか遠くから聞こえてくるようだった。
ミシェルがヴェロニカの服に手をかける。この男が、何をしようとしているか想像ができないほど、鈍いヴェロニカではない。
恐怖がないわけではなかったが、それ以上に怒りが沸いていた。
(なんて卑劣な人間なの!)
力でをねじ伏せようとする男――一番嫌いな人種だった。
ロスは、ヴェロニカに護をいくつも教えてくれていた。
だが、ヴェロニカは知っている。
どんな技よりも、男が束の間けなくなる必殺技があることを。あえてかは知らないが、ロスはこれを教えてくれなかったが。
「この……、離しなさい!」
ヴェロニカは、ミシェルに平手打ちを食らわせると、時を開けずに間を渾の力で蹴り上げた。
――“そこ”は言うなれば出した蔵で、モロに急所ということを、ヴェロニカは知っていた。
ミシェルは、ぐう、とうめき聲を上げ、ドレスの上から間を抑え固まった。
即座、長銃を奪い取るとヴェロニカは立ち上がる。
腹が立っていた。
逃げる前に、ひと言文句を言わなければ気が済まない。だからんだ。まるであの男の口調のように――
「“くそったれ野郎”! 誰の許可があってわたしにれてるの!? わたしにれて良い男は、この世界でたった一人だけよ!」
それはミシェルではない。
「二度と顔を見せないで! 見たら撃ち殺すわよ!」
そう言うと、銃を握りしめたまま一目散に走り出す。
すぐに撃ち殺せばよかったかもしれない。だがが移りかけていた人間を、容易く殺すことはできなかった。
(王都に帰ろう。ロスのいる家に)
……もう離婚になってもいいや。
こんな森で正不明の裝年に襲われかけるよりは、絶対にましだろう。
なにを恐れていたんだろう。もし振られたら、もらえるだけの謝料と謝罪をぶんどって、父と妹に思い切りめてもらえばいいだけの話だ。その後で、結婚を申し込んできた男たちの釣書を、妹と一緒に味しよう。
森の木の葉を踏みしめながら走っていると、背後から既に回復したらしいミシェルの聲がした。
「ああちくしょう! ヴェロニカ! 王都に戻っちゃだめだ!」
*
彼は追ってくる。
ヴェロニカは逃げる。このままでは、捕まってしまう。
捕まった後、自分のに何が起こるかなんて、考えたくもなかった。
逃げることに必死だった。
――地形を知らない森の中では、四方八方不用意にき回るな。や崖に出くわすことがあるからな。
思えばそれは、ヴェロニカのきを制限したい目的もあったのだろうが、出會ったばかりのロスに、そう言われたことがあった。だから結婚前も結婚後も、ヴェロニカはずっとそうしていた。
だが今、それを実行するだけの余裕はなかった。
だって、追われているんだから。
銃を撃つ暇さえないほど、走っていた。
木の葉が揺れている。
(森が怒っているんだわ――!)
あの牝鹿を殺したからだ。
必要がないのに、いたずらに命を奪った罰。自然はヴェロニカを敵とみなした。
(そんなはずない!)
腐るほど繰り返された生と死の営みを、ヴェロニカが早めたところでたいした影響はないはずだ。どの道あの鹿は長くは生きられなかった。怪我を負った獣は自然界では不利だ。だけどあの鹿の命を、奪う意味はあったのだろうか。食べることもなく、牡鹿にも見捨てられ、ただ一人きりで殺された――。
ヴェロニカは混していた。
いつの間にか、雪の上を踏んでいた。高地の雪は、たとえ季節が夏でも秋でも溶けない氷として地面の上に留まっている。山の中に殘された固い雪は土にまだらに汚れていた。
仕方がなかった。
雪渓は時にアーチ狀になっていて、下になにもない空は、衝撃が加われば崩れることがあると、知識では知っていたが、考えている時間などなかったのだから。
不注意にも足が、地面を踏み抜いたことも、このときばかりは、誰も責められない。
稜線を走っていたはずのヴェロニカは、突然の支えがなくなったことに気がついた。
「きゃあああ!」
を氷の塊に打ち付けながらヴェロニカは落ちていく。
もう何も考えられない。
次々にじる痛みに、ただ耐えることしかできなくなった。
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