《後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりをけて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜》二人でいるのが幸せですわ!

馬屋に向けて発砲する兵士を見て、ヴェロニカはをなで下ろした。ロスがまだ生きているのは間違いない。

だが、それも時間の問題だろう。彼を守る木の壁には無數のが開けられ、今にも崩れ落ちそうだ。

(だけどそうはならないわ。わたしが來たんだもの)

ヴェロニカは威嚇ついでに、兵士に向けて発砲した。さすがの彼らも混したようで撃が瞬間、止まる。

すぐさま馬屋を飛び出して來たのはロスだった。

満面の笑みで迎えるヴェロニカを見て、ロスは――愕然とした表を浮かべ、瞬時に怒鳴った。

「お前は馬鹿なのか!? なんで戻ってくるんだよ!」

ロスに腕を摑まれ城壁のに引きずり込まれながらヴェロニカは愉快に思う。その間にも、ロスは言った。

「命の価値は違うと言っただろう、俺の言った意味が分かっているのか!?」

「分かっているからよ」

ヴェロニカの命よりも、ロスの命は重い。なくともヴェロニカの中ではそうだった。いや、あるいはもっと単純な理由だ。ヴェロニカはロスと離れたくなかった。

その間も、銃弾が浴びせられていた。

ヴェロニカがロスに加勢したことで一時的には隙が生まれたが、相手側に、こちらがたった二人しか居ないことがばれてしまった。

兵士達の數が増えたようにじる。もう、戦相手とも蹴りが著いたのだろうか。

ロスの眉間に、ますます皺が寄る。

言った意味が伝わらなかったかと、言い聞かせるように続けた。

「わたし、今、とても嬉しいの。

あなたが、わたしのためにまぬ仕事をしてくれて嬉しい。あなたが、わたしのために命をかけてくれて嬉しい。あなたが、わたしと一緒に生きたいって、思ってくれたことが嬉しい」

――だけど、もし一緒に死ぬことができたらもっと嬉しい。

その言葉は、めておくことにした。

ロスは黙った。苦蟲を噛み潰したような表に、ついかっとなってしまう。

「お前が死んだら、俺も死ぬくらい言ったらどう!?」

ミシェルはかつてそう言った。だがロスは、首を橫に振る。

「俺は死なない」

「言ったわね!」

ロスは兵士に向かって數発撃つ。いずれも命中したようだ。ヴェロニカも撃とうとしたところで、ロスにを押さえられ、止められた。

目線を抜かりなく敵側に向けている夫に向かって、ヴェロニカは言った。

「……わたし、あなたと結婚して、男の人と連絡を取るのをやめたわ。太らないように気をつけたし、いつも綺麗な格好をして、料理も頑張って、あなたの前で他の男の人を褒めたりもしないし、嫌なところがあってもぐっと我慢したのよ。いい奧さんになろうって、必死に努力してたのよ!」

「俺がいつそうしろと言った?」

「いいえ、あなたはひとつも言っていないわ!」

そのことを考えると、いつも不安が広がっていく。

ロスはそんなことは言っていない。それどころか彼は――。

「あなたはわたしに何もまなかった。してないんじゃないかって、本當は、いつも思ってた」

銃を撃ち合う音が、しばらくの間続いていた。ヴェロニカの告解は暗い闇に溶けていく。

即座後悔に襲われる。――言うまいとしていたことを、ついに言ってしまった。幻滅されたのではないか。

ロスはヴェロニカを、強いだといつも言う。だからそうあろうと思っていた。

自信満々で、余裕のある人間のように振る舞い、いつだって笑顔を作っていた。

だが本心では、いつか彼が離れてしまうのではないかと不安で堪らなかった。そしてそれを、どうにか隠そうと一人で闘していた。

「俺はただ」

やがて、ロスは兵士達に目を向けたまま、振り返らずに言った。

「ただ、お前が生きてりゃそれでいいんだ」

目を見張った。

なんて程度の低い単純で簡単な要求なのだろう。葉えてあげるのは容易い。今だって彼のみは葉い続けているのだから。

「それならあなたは」

「おい待て」

言いかけたヴェロニカを、ロスは手で制した。

「お前は話し続けないと息ができないのか? しは俺にも話をさせろ。

さっき黙っていたのは、お前が戻ってきて、心の底から嬉しかったが、それをどう表現していいのか、全くわからなかっただけだ。世の人間全て、考えを言葉にするのがお前ほど得意なわけじゃない。俺はここで死ぬつもりはないし、お前も死なすつもりはない。さっきはそう言いたかったんだ」

振り返った彼の目は、らかくヴェロニカを見つめていて、思わず魅ってしまった。

「一緒に死ぬために結婚したんじゃない。一緒に生きるために結婚したんだ。それとも、そう思っていたのは俺だけか?」

彼の漆黒の瞳に、がいくつも反する。

誰にも瞳は付いているのに、彼の目だというだけで、そこに宇宙が潛んでいるかのように壯大で、どんな寶石よりも価値があるものに思えるから不思議だ。

ヴェロニカは、思い切り首を橫に振った。ヴェロニカだって、ロスと一緒に生きたいに決まっている。

(なんだ、そうだったのね)

心が弾んだ。

こんな火薬とと、死とうめき聲が混ざった場所なのに、なんてロマンチックな気分なのだろう。暗い夜の中、彼だけが輝いているようだった。

彼といれば、どこだって世界は黃金る。

「なら、二人して生き殘らなくちゃね!」

ヴェロニカは楽しくなり、ロスが止めるのを振り切り、銃をぶっ放しながら、心の底から朗らかに笑った。

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