《後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりをけて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜》お姉様との再會ですわ!
剎那、ロスは素早く振り返ると、向けられる銃口を握りしめ、弾が発せられる前に兵士の一人を蹴り上げた。
銃を奪った彼は、そのまま兵士に向かって撃ち続ける。
ヴェロニカは、呆気にとられながらその景を見つめていた。
なんということもない。彼はまだ諦めていなかったのだ。
「ヴェロニカ!」
雪が舞い散る中、黒い銃が投げ出される。
ロスが奪った別の銃を、ヴェロニカは慌ててつかみ取った。
「諦めるな、生き殘るんだ――」
耳に聞こえる言葉が、現実か幻想か分からない。分からないがどちらでもいいことだ。ロスがヴェロニカに向けて言っていることに、変わりは無いのだから。
ヴェロニカも銃を撃った。
戦う力がある限り、戦い抜くのがこの自分だ。ロスには、それをいつだって見抜かれている。
普通であれば、凍えそうなほど寒い吹雪の晩なのに、雪は熱気でたちまち溶けていった。
もしもロスと出會っていなければ、今だってヴェロニカは自分が何者かさえ分かっていない世間知らずの貴族の娘だったはずだ。ロスはヴェロニカの目を開かせた。
ロスがシャルロッテとに落ちる世界が正しいとするならば、この世界は間違った世界だ。ヴェロニカがロスに出會った瞬間、世界は形を変えてしまった。それが、とても嬉しかった。
「わたし、あなたに出會えて本當に良かった!」
そうんだ時だ。
戦う男たちの背後に、さらに多くの兵士の姿が見えた。ロスさえも、束の間圧倒されたようだ。
だがあろうことかその集団は、他の兵士達に向かって発砲し始めた。
背後からの攻撃に、兵士達は混し、れ、躙されていった。
ロスとヴェロニカは、再びに隠れる。戦っていた男達が皆倒れると、ロスはその集団に銃を向けた。
と、そのの一人が躍り出る。
「待て、撃つな! 國軍所屬、エリザベス・ベスだ!」
軍人らしくよく通る聲だった。
見ると、それが間違いなくエリザベスであるとヴェロニカにも分かる。
「……どうしてあの人がここに?」
ロスは銃を下げるつもりはなさそうだ。片手でヴェロニカを制するように抑え、もう片方の手で銃を持つ。
「なぜいる」
ヴェロニカと同様の疑問を彼は投げかけた。
「ご挨拶だな。お前達を助けに來たというのに」
「その人數でか?」
ロスは彼を疑っている。にじみ出る汗の匂いからそれをじた。
この世の全てを疑ってかかる男だから、仕方の無いことで、ヴェロニカにしても疑念はあった。しかしこの場に似つかわしくないほどの明るい聲が雪の中に響いたとき、ヴェロニカは一切の思考を捨て去った。
「お姉様ー!」
兵士の群れの中から、小柄なが躍り出て、ヴェロニカにまっすぐ走り寄ると抱きついてくる。
「チェチーリア!」
驚きつつも、最の妹をしっかりと抱き留めた。今になって撃たれた左肩がずきりと痛む。
「お姉様、無事でよかった! ロスさんも……! はやくお父様に知らせなくちゃ!」
「何があったの? どうしてあなたがここに?」
一人で來たのかと尋ねようとしたとき、チェチーリアが後方を振り返る。そこにはグレイとアルテミスがいた。
ロスが破顔する。
「アルテミス!」
怪我はすっかり良いらしい。アルテミスも嬉しそうに大きく吠えながら、ロスに飛びかかった。尾が千切れんばかりに揺れていた。
「トモーロス、貴様がこの方たちに固執するのも分かる気がするよ」
エリザベスが苦笑し、ヴェロニカを見た。
「あなた達が戦っていたおかげで、我々を拘束していた兵士の多くが移した。そこにチェチーリアさんが、待機させていた部下を呼んでくれたんだ」
「王都を襲うという計畫も、すぐに知れることになります。アーサー・ブルースの目論みは、打ち砕かれますよ」
グレイがそっと付け足した。
形勢は逆転どころではなかった。
アーサーの私兵達は國軍により捕らえられ、降伏していた。
だがこの場に、妹とその婚約者までいるとは思わなかった。
「エリザベスさんが偵察に行くというので、付いて來ちゃったんですわ! でも、お役に立ったでしょう?」
チェチーリアが誇らしそうにを張った後、しかし不思議そうな顔になる。
「だけど待機してた部下さんたちは、し數がなかった気がしますわ」
瞬間、エリザベスの顔にわずかな焦りが見えたのを、ヴェロニカは見逃さなかった。だが彼の表にどんな意味があるのかまで、分かるはずもない。
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