《後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりをけて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜》暴き出す謀略ですわ!
「な、なんの話ですか、ヴェロニカさん」
「ヒューに言ったんじゃないわ。わたしは、オーエンに言っているのよ」
ヒュー・グランビューがびくりとを反応させた橫で、微だにしなかったのはオーエン・グランビューだった。
「君はとんでもない勘違いをしているようだ。さっきから聞いていたが、オレとベス中尉が共謀し、王都を襲う計畫を立てていたと言うのか」
落ち著き払ってオーエンは言う。
彼は元婚約者のアルベルトの學友で、ヴェロニカも數度顔を合わせたことがある。學生の頃は、どちらかと言えばあまり目立たない生徒で、會話をした記憶はほとんどない。だがアルベルトと彼は、しきりに議論をわしていた。
こうして顔を突き合わせ會話をするのは初めてなのではないか。貫くような視線を全でけ止めながら、ヴェロニカは言った。
「しだけ違うわ。王都を襲い國を変えるというのは、アーサーを引き込むための偽餌に過ぎなかったのでしょう。あなたは政敵を排除するために、アーサー・ブルースの思いを利用したのよ。陛下を殺すとでも言ったのかしら」
ざわっと、人々がどよめいた。グランビュー兄弟から距離を取るように空間が空いていく。
焦ったようにヒューは言った。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。話が全然見えません!」
「なら、分かるように説明するわ」
ヴェロニカは、ウェイターからワイングラスをけ取ると、一気に飲み干す。
「ひとつひとつ、確認していけば分かることよ。ミシェルとシャルロッテが一年前の婚約式で出會って手を組んだ頃」――レオンが気まずそうに顔を逸らすのが目の端に映る。――「アーサーはまだ、反なんて考えていなかった」
いち軍人として、真面目に警護に當たっていたはずだ。
「彼が反を目論んだのは、もっと後だったのよ。ロスが王都で商売を初めて、彼が訪ねて來たことがあったと言っていたわ。今から三ヶ月ほど前のことね。その頃だったんでしょうけど、何か変わったことがあったかしら? 考えても分からないのよ」
聞いている周囲に問いかけると、なんとレオンから返事があった。
「建國式の出席リストが出揃った頃だろうか……」
ヴェロニカは彼に笑いかける。
「ありがとうございます殿下。そうだったんですね。では、リストを準備したのは、誰だったんです?」
「それは――」
レオンがヒューを案ずるように見た。バトンを渡されたヒューが答える。
「兄貴から言われてオレが。ほとんど昨年踏襲ですけど。だけど、數人、後から兄貴が追加してました」
ヒューが息を呑み、傍らの兄に顔を向けた。その表は、信じがたいものを見るかのように、困に満ちている。
「オーエン、なぜ追加したの? ……なんて自明ね。それこそアーサーの協力を得るための撒き餌だったのよ」
父がハラハラとこちらを見ているが、止めにることはなかった。
「アーサーの軍人としての仕事は、ほとんど國政に絡む、地での業務だった。有能さを考えれば順當ね。
その中で知りたくもない闇をたくさん見たのでしょう。例えば、司祭夫婦のテロ活に加擔する、貴族たちとか――」
會場にいる數人が、素早く視線をわすのを、ヴェロニカは見逃さなかった。
「アーサーは、正義が誰よりも強い人だった。國を裏切る彼らを許せなかったんでしょうね。軍が貴族に手を出すことは難しい。だけど野放しにしておけば、いずれまた、同じ組織が作られる。葛藤は計り知れないわ」
ヴェロニカは、拳を握りしめた。
アーサーと友のキスをした。そのことを、彼はロスに言わなかった。ヴェロニカも、誰にも話していない。あの時初めて、彼の心にれたのだ。
彼は善人だった。
だからこそ、兇行に走った。
彼は死んだ。
誰も彼の思いを知らない。ヴェロニカを除いては――。
ヴェロニカが彼の意思を伝えなくてはならない。心をけ取ったのだから。
「アーサーが正しく変えらえていたらできたはずのことを、このわたしがすだけだわ」
の渦に飲み込まれないよう表を取り繕いながら、オーエンに向けヴェロニカは言った。
「あなたはリストを手土産に、同じ志を持つ人間のフリをしてアーサーに建國祭襲撃の話を持ちかけた。渡りに船だわ。神の救いに見えたのかもしれないわね。アーサーは乗ったのでしょう」
それが三ヶ月前のことだ。
でも、とチェチーリアが疑問を投げかける。
「グランビュー家が軍にそれほどの影響力を持っているんですの? オーエンさんのお話を、アーサー・ブルースはなぜ信用したんでしょう」
カルロが答えた。
「アルフォルト家が國政の舞臺から姿を消し、我が家も一歩離れた立場を取った。軍部に影響力のあった貴族のが薄れたんだよ。
軍部は、スポンサーを求めて彷徨い、目を付けたのはグランビュー家だった。グランビュー家は目立った家ではないけれど、至るところに間者がいる。実際、この國を裏でっているのはグランビュー家ではないかと言われるほどにはね。表だっては知られていないが、今や軍への一番の出資者はグランビュー家なんだよ」
あけすけに話すカルロを咎める者は誰もいないのは、未だ父の権力も健在だということだろう。
「後は、わたしも知っていることよ。アーサーは特殊工作を行う人材を求め、ロスを仲間に引き込もうと酒場にった。それを知ったミシェルとシャルロッテは、それぞれ個人的な理由から、ロスとわたしを引き剝がそうとしたのよ」
子供らしい単純な作戦だが、まんまと嵌められた。
「でも、ですよ」ヒューが言う。
「エリザベスさんと兄貴が共謀してるって、どうしてそう思うんです? 兄貴から招待客の話を聞いて、エリザベスさんが単獨でアーサーへ話を持ちかけたっておかしくない。二人は親が深かったんだから。
……そんなに危ない橋を渡っても兄貴にメリットなんてない。アーサー・ブルースに上手く罪を著せられる保証なんてないでしょう。途中で、自分の罪も見するかもしれないのに」
黙っているエリザベスに睨まれても、ヒューの目は訴えかけるようにヴェロニカだけを見つめる。どうか勘違いであってくれと言わんばかりの懇願だ。
だがヴェロニカは告げる。
「オーエンはアーサーが國賊になり得る人だということを知っていた。未來において、誰を殺し、どうやって王都を襲うかを知っていた。ヒュー、あなたはチェチーリアに、聖の話をしたでしょう? それを、誰から聞いたの?」
「それは……」
「オーエンからだったんでしょう? じゃあオーエンは、誰から聞いたの?」
エリザベスを見ると、何も言わずに無言で――憎々しげにヴェロニカの斷罪を待っている。ならば、と続けた。
「エリザベス・ベスは、軍での出世をんでいた。シャルロッテの話を教える代わりに、かねてから繋がりのあったグランビュー家を後ろ盾として求めたんでしょう。
想像だけど、オーエンが計畫に乗ったのはシャルロッテが語った話の中に、グランビュー家の敵が殺されるという容が含まれていたから。だけど都合の良い人間まで殺されてはならないし、不要な人間だけ消えてくれればいい。アーサーの味方でいれば、コントロールできるもの。わたしたちの監に気付きながら、昨日まで助けにらなかったのは、政敵が全て死んだからでしょう?」
大勢の人間がいる広間には、ヴェロニカの聲だけが響き渡った。
「聖とアーサーが結びついたのも、大方、エリザベス・ベスが導したんじゃないかしら? 二人が一緒にいれば、アーサーこそカルト宗教の協力者ということになる。彼が全ての罪をかぶる土壌が、より強固なものになった」
アーサーはシャルロッテをスケープゴートとして差しだそうとしていたが、哀れな羊は自分自だったのだ。
エリサベスとオーエンの二人は、立ち盡くしたままヴェロニカの言葉を待っていた。
心の中で、アーサーに語りかける。
―― これが、わたしからの弔いよ。今から、あなたの本當にやりたかったことをするわ。
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