《ネコと和解せよ〜ネコとカフェ店長の謎めく日常〜》13話 無償の
翌日、杏奈は意外とスッキリと目を覚ました。
ミャーは、もう起きていてテレビを見ていた。ケーブルテレビで放送中の海外ドラマを見て、うっとりとした聲を上げていた。こうして見ると本當に人間っぽい。というかちょっとオバチャンっぽい。
ただ、昨日あんな事があっても元気そうなのは救いだ。
杏奈も白湯とグリーンスムージーを飲み終えると、一応ミャーに餌をやり、支度を整えた。
『本當はエサ食べなくてもいいのよねぇ』
「だったら、今まで何で食べていたのよ」
『一応最初は普通の貓のフリをしていたのよねぇ。でも気分的に食べたい時はあるのよね』
そんな下らない會話をしながら、クローゼットから貓用のキャリーバッグを出す。
安全なものだが、人間っぽいミャーをここにれるのは微妙な気分になる。
『いいわよ。別に。っていうか自分で歩くのも面倒なのよねぇ。疲れるわ〜』
ミャーは、おばさんっぽい事を言いながら、自分からキャリーバッグにっていった。
という事で、ミャーを藤也の教會に運ぶために出かけた。
そういえば杏奈は藤也の教會には、一度も行って事がなかった。杏奈のアパートから細い道を歩き、5分程度で教會につく。杏奈のアパートと商店街のちょうど中間地點にあった。
會社勤めのサラリーマンや子高生たちは続々と駅に向かっている。この時間は田舎町でも人通りが多い。ミャーも大人しく完全に普通の貓に擬態していた。々と空気の読める賢い貓だ。
藤也の教會は住宅街に埋もれるうにあった。一見普通の民家で教會とはわからない。道理っで今まで意識して気づかなかったわけだ。
二階建てだった。ニ階に禮拝堂があるようだ。外付けの階段で二階の禮拝堂に行けるようで、ちょっと二世帯住宅っぽい。
杏奈はキャリーバックを抱えながら、一階の玄関のチャイムを押す。
玄関の扉には、変なポスターがってあった。真っ黒い背景に黃い文字で「神様はあなたを死ぬほどしています」とある。どうやら「神と和解せよ」とか言ってるキリスト看板のパロディらしい。こんなに勝手に作っていいのか首を傾けたくなるが、確かにこうして見るとちょっとけれやすいような気もした。
ミャーはキャリーバッグを勝手にあけて、顔だけだしてポスターをしみじみと見ていた。というか貓なのに人間のように目をうるうるさせている。
さすがに杏奈もちょっと引くが、顔だけ出しているミャーはちょっとかわいい。
『本當に神様は、人間をしているのよ』
「本當に? 私も?」
『そうよ。だから神様の子供である隣人をお互いにしましょう、大切にしましょうって言ってるの。敵だって神様から見れば大切なする子供。神様は本當に人間を全員してるの』
こうして聞くと、杏奈もちょっと泣きたいような気持ちにもなる。自分は一般的な日本人で信仰心のようなものはないが、無償ので見てくれている人がいれば本當にいいなと思う。特に杏奈は婚活に失敗しているし、カフェ店長という立場も別にセレブじゃない。年齢も著々とあがり、もう若くない。
だから、そう言った外側の條件ではなく、無償なで見てくれる方がいるとしたら、心はとても休まるんじゃないかと考えた。最初は涙を浮かべるミャーにドン引きしたが、こういうのもアリだと思った。もっとも一般的日本人らしく、カルトみたいなのは、気持ち悪いので、宗教やりたいとは思わないが。
「あれ? 寢てる? 返事がないわ」
『二階の禮拝堂じゃない? 行ってみよう』
ここでキャリーバッグを下ろして、ミャーを出す事にした。ミャーは勝手にポンポンと軽や階段を登り、二階の禮拝堂の方にってしまった。
「ちょ、待ってよ。ミャー」
杏奈はワンテンポ遅れてついていく。アラフォーに片足突っ込んでいる杏奈は、階段を登るのもそうそう軽やかにはいかなかった。
禮拝堂は、シンプルそのものだった。椅子が並び、教壇の上には説教臺とピアノが置いてある。華なステンドグラスやイエス・キリストや聖母マリアの彫像などはない。どことなく大學の小さめな教室のような印象だった。
藤也は、禮拝堂の後ろの方でテーブルをだし、眠そうに食パンをかじっていた。寢癖もつき、顔もむくんでいる。普通に支度を整えれば6ヶ月ぐらい寢不足な坂口健太郎に見えなくもないのに、本當に貧弱なサブカル系モヤシ男にしか見えなかった。
「よぉ、杏奈」
「杏奈って呼ばないでよ。朝食に食パンだけ?栄養偏るわよ」
『いいじゃない。朝食にパンを食べるのはエジソンがトースターを売るための謀よ』
ミャーが下らない謀論を披したが、昨日は斷食したので、朝はパンを食べるのだと藤也はをはった。
「斷食?」
「そうさ。健康にいいんだよ」
「ちっともそんな風に見えないんだけど」
杏奈はため息をつき、禮拝堂のそばにあるキッチンに行ってみた。キッチンというか給湯室といったじだが。
冷蔵庫の中にはろくなものがってなく、杏奈はさらにため息をつく。ただ、末のスープはあったので、お湯を沸かして作った。これで栄養のバランスがとれるわけないが、食パンをかじっているモヤシ男を見ると、人間としてが痛くなるというものだ。カフェ店長としても、しもじい人を見るのも気分は良くない。
「はい、スープよ。これぐらい飲みなさいよ」
「おぉ、杏奈。子力たけーな!」
揶揄われたのか褒められたのかは微妙だったが、藤也は膝の上にミャーをのせて、スープをちびちびと啜っていた。
ミャーのアニマルセラピー効果か、暖かいスープのおかわからないが、藤也は々顔が良くなってきた。
「ところで、ミケ子の事は何か気づいた事ある?」
藤也はゆっくりと首を振った。
「本當に悪魔崇拝者?」
杏奈は、疑問を口にする。
「それはわからんよ。ただ、銃価が関わってる可能もあるな」
「この町の銃価の信者がやったという事?」
『私はそんな気がする』
ミャーは、銃価の犯行だと思っているようだった。ただ、証拠はなく「カルトだから」という理由だけでは弱い。
「でも証拠はないわね」
「そうなんだよなー」
珍しく藤也は杏奈の意見に同意した。意外と素直なのかもしれないが、謀論好きの牧師だなんて、どこからどう突っ込んでいいのかわからない。
「とにかく、ミケ子を殺した犯人が捕まえられるよう祈るよ。この町の平和と安全も」
藤也が祈りはじめるとミャーも床に降りて祈り始めた。
奇妙な景だ。貓が祈っているなんて。人間ぽおいミャーだが、今までで一番奇妙な姿に見えた。
『本當のには霊が無いので、神様に祈ったり、禮拝したり、賛する事はできないの』
祈り終えたミャーは、そう言った。
「へぇ。意外」
「ミャーの言う通りだぞ。本來人間だけかこうやって神様をする事ができるんだ」
そういう藤也は、しマトモな人にみえた。さすがに本職の話をしている時は、堂々として見えた。
『だから杏奈も悔い改めなさい』
って貓に言われても。
普段冷靜で気の強い杏奈ではあるが、ちょっと怖気付く。
『神様と和解するのよ!』
ミャーは艶々のをしいからせて、んだ。熱い気持ちのミャーに化されたようで、藤也はさっそく資料を持ってきて一緒に何かやり始めていた。
「なんなの、この人達……」
ドン引きしている杏奈の姿にミャーも藤也も気づいていなかった。
まあ、何か打ち込めるものがあるのは良い事かもしれない。杏奈は死んだ目になりながら、禮拝堂を後にした。
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