《ネコと和解せよ〜ネコとカフェ店長の謎めく日常〜》47話 明日への希

「だから、助詞のうしろの詞は原型だってば。あ、この文は第四文型で……」

「あー、英語難しい!」

店が閉店した後、杏奈はマユカに英語を教えていた。

バッグヤードにマユカの悲痛に満ちた聲が響く。

「なんで、英語って難しいの。っていうか文法用語が呪文にしか聞こえないんですけど」

マユカは口を尖らせ、英語のテキストをボールペンでつっつく。

「仕方ないわよ。日本の英語文法は、エリートが作ったじだから、砕けたスラングとか出てこないのよねぇ」

「スラング知りたい!」

「いや、その前にこの問題集を終わらせてしまいましょう」

「杏奈さん、怖っ!」

大袈裟に怖がりながらも、マユカは英語の問題集を終わらせた。

あの事件以來、マユカの家・坂口家は大変そうだった。

母親の梨子は、意識混濁やパニックがあり、神病院に院中だ。先日、自殺未遂騒ぎもおこしたようで、しばらく退院できない話だった。結局梨子の罪は、法に問えない狀態だったが、こうなってしまった以上は、それなりの報いはけているようだった。

まあ、貓殺しに全く関與していないマユカでもさらに學校に行けなくなってしまい、杏奈がこうして勉強を教えて、夕飯も食べさせてやっていた。

救いなのは、マユカの父はカルトを退して家に帰るようになった事だろうか。マユカによると今のところ、不倫はやっていないという。

「ねえ、マユカ。々辛いと思うけど、自殺だけはしないでね」

「え? 自殺」

「昔、私の生徒でも一人いたのよ。それで擔任の先生も責任じちゃって、結構大変な事にもなったし」

「そっか……」

マユカは下を向き、英語のテキストを閉じる。し難しい話題だったが、杏奈は今のマユカを見て、ついつい語ってしまった。

損得勘定好きの杏奈だが、結局困っているマユカを見捨てられない。もしかしたら、用貧乏で一番損するタイプなんじゃないかと最近思い始めている杏奈だが、人並みに良心のようなものはあったのかもしなれない。

「藤也さんにもミャーちゃんにも辛いだろうけど、自殺するなって言われてるんだ」

「へぇ。そうなんだ」

「うん。キリスト教では自殺はダメなんだって」

「それは聞いた事あるね」

「神様は私を死ぬほどしてるから、自殺したら神様を悲しませる事になるんだって。神様は私の事もとっても高価に思っていて大事にしてるらしい」

「そうね。そうかもしれないわね」

杏奈も藤也やミャーが言いたいことは完全に理解するのは無理だったが、神様が人間をしている事はわかる。そうではなかったら、貓のように可いだけのなんて創らないはずだ。

や皮になったり、役に立つものだけ創ったわけでは無いところを見ると、小さくて可の保護や世話をしながらを學ぶように言っているような気もする。損をして利益にならない事をするのもなのかもしれない。損得勘定ばっかりやってた自分ははなかったかもしれないと気づく。特に婚活中に相手の年収ばかり見ていた自分は、結婚できなくて當然だったのかもしれない。

「それに神様は試練も與えるけど、必ず逃れの道も備えてくれてるんだって。耐えられない苦しみも悲しみも神様が一緒に擔ってくれるとか。だから、今が辛くても大丈夫じゃないかと思い始めた」

「そっか」

「いざとなったら教會に間借りして居候してもいいって言われたし、とりあえず死なずにはすみそう」

し笑っているマユカを見ていると、今は辛そうだが、大丈夫そうな気もしていた。

「ところで、杏奈さん。いつものお禮にアイシングクッキー作ったんだ」

マユカは、スクールバッグからラッピングされたアイシングクッキーを取り出した。薔薇や鈴蘭がデザインされたSNS映えしそうな可いクッキーだった。

「これ、マユカが作ったの?」

「うん!」

「ちょっと、マユカ。料理の才能あるんじゃない? 薔薇の花びらも一枚一枚とても綺麗にかけてるじゃない」

珍しく褒められたマユカは、顔を真っ赤にして頷いていた。

「アイシングクッキー作って起業している人もいるし、何かやってみればいいじゃない?」

「うん。勉強以外の何かやってみるよ。とりあえず、SNSに作ったアイシングクッキーの畫像を上げてみる」

「いいね。あと、うちもゴールデンウィークあたりは忙しくなるから、バイトしない? 短期で最低賃金だけど」

マユカをバイトに雇う事は前々から考えていた。しコミュ障ではあるが、仕事ぶりも丁寧だし、し手伝って貰っても良い気がしていた。それにしでもお金が有れば不安も拭えるかもしれないと考えた。

「いいんですか?」

「ええ。ちゃんと出來れば夏休みも來てほしいけど、いい?」

「うわーん、杏奈さん! ありがとう!」

泣いて喜ぶマユカを見ながら、やっぱり損得勘定ばかりは出來ないと思い始めた。しぐらい損しても良い気もした。事件の後、頭の中にある電卓の能が落ちてそうだが、別に良いだろう。

「あと、夕飯も奢ってくれてミャーも時々貸してくれると嬉しいです! ミャーの畫とってSNSにアップしていい? 絶対人気貓になれるわ〜」

「マユカ、あなた意外と図々しいわね」

「いいじゃないですか。ミャーは可いです」

「それは同意ね」

しいい気分になっていた杏奈だったが、ちゃっかり者のマユカには苦笑する他なかった。

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