《ネコと和解せよ〜ネコとカフェ店長の謎めく日常〜》番外編短編・藤也のモテ本

これは中學生時代の藤也の語である。

藤也は聖書の真理が本當かどうか疑っていた。両親はクリスチャンだったが、まだ信仰は持っていなかった。

「藤也、聖書というのは本の中の本なのよ。世の中の本は全部聖書に中にあると言っていい。下らない自己啓発やモテテクニック本を読むぐらいなら、聖書を読むべきよ」

これは藤也の母が言っていた言葉だが半信半疑だった。

當時、藤也は學級委員長の町田英に片想いし、片っ端からモテテクニック本を収集し、塾読していた。このは藤也にとって初だったので、どうすれば良いかわからず、モテテクニック本に頼る事にした。

ただ、聖書を読むと自分を殺して隣人の為に生きる人間が與えられるのではないかとじた。モテテクニック本の小手先の駆け引きを推奨するような所は薄っぺらく思ったが、お手軽な本を読むのも中々楽しい。モテテクニック本によると清潔が重要という事で、眉を整えてみた。

藤也は放課後、地平商店街の糸原書店に向かった。チェーン店の書店ではないので、店長の糸原の好みの歴史小説の特設コーナーなんかもあるが、ベストセラーやメディア化本、ビジネス書など手にしやすい本もまとまっている。

藤也はモテ本を買い漁っていたので、糸原はモテテクニック本の新刊を全部荷してくれるようになっていた。モテテクニック本のコーナーが拡充していたのは、気のせいでは無いだろう。

「あれ、柏木くんじゃん」

モテテクニック本コーナーによりによって片想いの相手・町田英がいた。よりによって一番會いたくない相手だった。モテテクニック本を買い漁っているなんて顔から火が出そうだ。

しかし、町田の手には手には向けのモテテクニック本がある。なんでも町田は部活の先輩と付き合っていて相手に喜んで貰う為にモテテクニック本を読んでいるという話だった。

次元というかスタート地點が違う。モテない人は、小手先のテクニックを學ぶ為にそんな本を読むものだが、町田は相手の為にモテテクニック本を読むわけだ。

この時點で失決定なわけだが、町田は嬉しそうにレジに向かっていたので、どうでも良くなってしまった。

ふと、聖書に持っているものは益々與えられ、持たないものは奪われると書いてある事を思い出す。モテテクニック本を一つとっても與えられているものと與えられていないもので、こんなに考え方が違う。あり得そうな気がしてきた。

「やっぱり聖書の真理ってガチか? そういえば聖書には喜んで與える人ほど與えられるとか書いてあったような……」

そんな事を考えていたら、クラスメイトの橋口杏奈が書店にってきた。ぶりっ子だが、妙に気が強い。中は男かもしれない。

杏奈は音楽雑誌コーナーへ直行し、ビジュアル系バンドが載った雑誌をニヤニヤしながら選んでいた。今はビジュアル系ブームでクラスの子達はラルクやグレイにキャーキャー言ってる。ミーハーな杏奈を揶揄いたくなった。

「よぉ、橋口。そんな悪魔崇拝やってるようなミュージシャンの追っかけ楽しい? ラクリマのこのマーク見てみろよ、これは古代エジプトのホルスの目だぜ。マリスミゼルもイルミナティっていうモロ結社な曲出してるじゃん」

「は? なんか言った? そんな事言ってるから、あんたはモテないのよ。子のささやかな趣味を否定するとか最低〜」

その杏奈のセリフは、今の藤也にとってはなかなかの殺傷力があった。

「持ってないものは、ますます奪われるってガチかも……」

藤也の口から、け無い聲が溢れた。こうして藤也の淡い初は幕を閉じた。

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