《キチかわいい猟奇的とダンジョンを攻略する日々》ようこそ実力至上主義のベースへ
「ほほお~~~~ぅ、そうかそうか、よぉーく分かった。……そんじゃ、死ねや」
「ちょっ!? な、何でそうなるんですか!」
第一層ベース。
約一ヶ月ぶりに訪れた彼の地は、相変わらず活気で満ち溢れ、が芯まで休まり、心がほっこりと安らぐ(俺はそうでもないけど)、囚人達にとって唯一にして絶対不可欠な希の都。
まさにユートピア。
そんな夢の楽園に辿り著いた矢先……俺は速やかに本部へと連行され、一息つく間もなく鬼面の厳ついオッサン――凩剛健に今日までの全てを洗いざらい吐くように強要された。
そして、張り詰めていた神経が解放されたことでドッと押し寄せる疲労を苦心の末に追いやり、盛大にメンチを切られながら懸命に話した結果が……「死ねや」である。
解せぬ。
「てめえ、連れ戻しに行った連中をことごとくシカトして、挙句これっぽっちも連絡もよこさず一全何をやってたかと思やぁ……俺の娘と隨分まあ楽しく好き勝手に過ごしてきたみてぇだなあ。ああぁん!?」
「………………え、えーっと……」
あ……あるぇー?
おっかしいなー、そーゆーふうに解釈しちゃう?
まあ……そりゃ、多の腳は施したけどさ。
特に、コブラソルジャーに手足の骨をバッキバキに折られて死にかけた時のことはオールカットしたけどさ。
だって、そんなリアクションに困るくらいマジな苦労話なんてしたら、芽を無駄に不安にさせるだけじゃん?
このオッサンに「やっぱてめぇじゃ力不足だカス、うちの娘に二度と近づくんじゃねえ」って言われそうじゃん?
だから、なるべくバラの人生を歩んだ勝ち組のごとく努めて明るく語ったんだけど……。
…………あるぇー?
「しまいにゃ、こんなファンクラブなんぞ作りやがって……! 舐めてんのかコラ、ぶっころ決定だぞクソガキャアア! あぁぁああんッ!?」
「い、いやいやいやいやいや! ええぇ~~っと……た、田辺さん、助けてくださいっ!」
誠に憾だ。
理不盡だ。
そう強くじるものの、もちろん正面切って歯向かうことなどできない。
すかさず俺は、年長者であり良識人である田辺さんにすがった。
しかし、田辺さんは救いを求める俺から目を逸らし、渋面を浮かべて搾り出すように苦しげに言葉を吐き出す。
「…………すまん、天地。その、何というか……うまくフォローできない……」
…………いや、謝られても……。
そんなにか?
俺はそんなに罪深い言を取ってしまったというのか?
「ひ、芽……お前は俺の味方だよな? 頼む、このオジサマに何とか言ってやってくれよ」
ついには妹にまで哀れな子鹿のように助けを乞う……が、何とも形容しがたい絶妙に微妙な表で眉をひそめられる。
「お兄ちゃん……ごめん。私……私は、お兄ちゃんを助けたい、けど……ちょっと複雑、かな……」
「なっ……! そんな、お前まで……なぜだ! なぜなんだっ!」
俺は愕然として思わず聲を荒げた。
だが、続いて芽の口から遠慮がちにぽつぽつと発せられた一言一句が深々とに突き刺さる。
「例えるなら……RPGで、敵に追われる私を『ここは俺に任せて先に行け!』って、逃がしてくれた人がいて……數年後に、その人を助け出そうと、危険を顧みず、敵國に乗り込んだら……いつの間にか、どこかの知らない誰かと、幸せな家庭を築いてて、私のことなんかすっかり忘れて、楽しそうに暮らしてた……みたいなじ、かな……」
……あれ?
何だそれ、ガチのクソ野郎じゃねーか。
……………………ん? あれぇー?
「……………それは……その…………スミマセン。……って、違う違う、誤解だ! 俺は片時もお前を忘れちゃいなかったし、今はまだマユとはそういう関係じゃ――――」
「あ゛あ゛ッ!!?」
「……えっと、何でもないです。と、とにかく、俺は俺で々大変だったし頑張ったんです。ホントそこはマジで信じてください!」
いつの間にか手にした巨大なバトルアックスをぷるぷる震わせるマユパパのリアルな殺気によって、間一髪のところで俺は冷靜さを取り戻した。
危ねえ……うかつな発言で死ぬところだった。
あと數秒取りしていたら致命的なワードを口走っていたであろう。
「チッ!! まあいい……とにかく今後の話だ。日比野兄……いや、天地。てめえはマユのお目付け役を解雇! 今日からベースでの労働を命ずる! 以上!!」
「……え…………?」
オメツケヤクヲカイコ……?
ベースナイデノロウドウ……?
イジョウ…………?
「え? えっ? ええええええっ!? な、ななななんでですか!?」
「バカ野郎! 最初からそういう話だったろうが! てめえのレベル! スキル! 人柄! 何一つ安心して任せられる要素がねえっ! 何が調味料(シーズニング)だ、アホか! おとなしくここで料理でも作って貢獻してりゃいいんだよ、適任だろうが!」
「ぐっ…………!」
機をバンバン叩きながらまくし立てるヤクザに対して、悔しいが反論の余地が一切なく、を噛んで聲を詰まらせる。
くそっ……完全に論破されてしまった。
こんな見るからに脳筋のオッサンに……。
「言っとくが、一人で勝手に行こうなんて考えんじゃねえぞ。てめえじゃ速攻で魔のエサになるのがオチだ。いいか、分かったか? てめえに選択肢はねえんだ、諦めやがれ」
「ぐぐぐ…………っ!」
「天地……悪いけど俺もゴウさんに賛だ。意地悪で言ってるわけじゃなく、お前のステータスやスキルは戦闘向きじゃない。自分の命をもっと大切にするってのもそうだが、マユちゃんが大事だと思うなら、他の人に任せた方がお互いのためにもベストなんじゃないか?」
「ぐぐぐぐぐ…………っ!」
「私は……お兄ちゃんを信じて、ずっと一緒にいるって、決めてる、けど……ここにいるのが、一番安全だし、できればいてしい、かな……」
「うっ…………」
分かってる。
もっともな話だ。
俺みたいなカスよりマユの力になれるヤツなんて腐るほどいるんだ。
ただ好きだから……そんな理由で誰も得しないエゴを貫こうとするなんて、迷この上ない。
そりゃ反対されるに決まってる。
だけど……。
だけど……やっぱり俺はマユの所へ行く。
誰に何と言われようとも……マユは俺のことなんて待ってないだろうけど……あっさり死ぬ確率の方が極めて高かろうが…………それでもだ。
合理的な理由なんざ一個もねえ。
ただ、俺がそうしたいからだ。
俺は生涯マユに命を捧げると心に誓ったんだ!
「……………………みんなの言うことは正しいし……心配してくれるのはありがたいし……無謀は百も承知ですが……俺は、行きます。たとえ一人でも、絶対に」
「お兄ちゃん……」
「…………そうか……………………」
てっきり烈火のごとく激怒されるかと思ったが……マユパパはたった一言だけ呟いて、仏頂面でしばらく俺を睨みつけるだけだった…………。
「じゃあ仕方ねえ。勝手にどこへなりと行きやがれ。…………ただし、俺をぶっ倒すことができたらな」
――――なーんて、そんなことはなかった。
「ゴ、ゴウさん、何言ってるんですか!? レベル差を考えてくださいよ、天地が勝てるわけないじゃないですか。そんな、力で一方的に従わせなくても……」
「いや、口で言っても分からねーんじゃ仕方ねえよ。てめえも文句はねえだろ、天地」
「ッ…………俺が勝ったら、マユのお目付け役として認めてくれるんですか?」
心配そうにオロオロする田辺さんと芽をよそに、俺は意を決して目の前の威圧的な大男に力強く問いかけた。
數秒の間を置いて、挑発的な笑みとともにからかうような軽口が返る。
「へっ! そんときゃ、むしろこっちからお願いしますと土下座して頼んでやるぜ。オマケに、てめえの舎弟にでもなってやるよ」
「その言葉…………撤回はなしですよ」
日比野天地…………レベル4。
凩剛健…………レベル38。
勝算は全くない。
あまりにも結果が分かりきった勝負。
この場では言うことを聞いたフリをして、後でこっそりと抜け出す……という手段もある。
というか、それが最も現実的だし確実だ。
しかし、俺はそうしない。
このまま逃げて、いつまでも非公認のままベストパートナーを気取って自分勝手な寄生生活を続けるなんて、凩マユファンクラブ會長としてあるまじき行為であり、一人の人間としても最低のクズだ。
こんな狀況になったついでだ……ここらでハッキリとけじめをつけてやる!
「お兄ちゃん…………何で、そこまで…………」
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