《キチかわいい猟奇的とダンジョンを攻略する日々》日比野さんちの今日のごはん
「天地ー! レックスベアカツ丼とスレッジボアハンバーグとコカトリスのバンバンジー……あと適當にサラダよろしく~」
「あ~い、承知いたしましたぁー」
「おーい天地~。何でもいいから酒ねえの、酒ー」
「えーっと……果実酒なら何種類かありますけど、在庫がないから一人一杯だけですよー」
「オッケーオッケー、それ適當なのとナッツ盛り合わせ頼むわ」
「はいはーい、了解でーす」
「ごっそさん。やっぱ天地の料理はうめぇなー、この調子で頑張れよ~」
「あ~~……まあ、ぼちぼち頑張ります…………」
マユパパとの決闘から早二週間。
俺は慘敗した。
それはもう、圧倒的で一方的で目も當てられなかった。
言い訳をするのもバカバカしく、いっそ清々しいくらい綺麗な完敗だった。
というか、試合開始の合図と同時にマユパパの姿が消えた――――と思ったら後頭部に衝撃が走って気絶、ハイ終了~という笑える有様だったから、もはやシュールなギャグでしかなかった。
うん……。
乾いた笑いしか出てこない。
「ごめんねぇ天地、疲れたでしょ。皿洗い終わったら今日はもう上がっていいわよ。ご苦労様」
「あ、分かりましたー。お疲れ様です~」
で……このザマだ。
あれ以來、俺はベースに存在する料理店――と言っても金を取るわけじゃないが――にて料理人の仕事を命じられ、毎日毎日毎日毎日ひたすら食材を切り刻み、鍋を振るっていた。
正直、辛い……。
別に料理を作るのが嫌なわけでもなければ、客がムカつくわけでもない。
地上で平和な日々を過ごしていた頃は、將來は料理人も悪くねえなと漠然と考えていたし、見た目は完全にアレな犯罪者の客たちも意外なほど気さくでフレンドリーだし、その辺は全く不満などない。
ただ……俺は人とコミュニケーションを取るのが苦手……というか、ハッキリ言って好きじゃない。
一人で黙々と料理を作るだけなら文句はないのだが、當然ながら接客をする必要があるし、以前は大人気居酒屋を切り盛りしていたという料理長のオバサンにも、どうしたって気を遣ってしまう。
神的にしんどい……。
そして、何よりも俺を憂鬱にさせるのは……マユがいないということだ。
「お兄ちゃん、ただいま。……ふふ、そろそろ馴染んできた、みたいだね」
「芽……。まあ二週間も経てばな。ちょっと待ってろ、何か作ってやるから」
「うん、ありがと」
芽は田辺さんが率いるパーティーの一員としてベース近辺の魔駆除に勵み、仕事終わりに毎日ここへ足を運んでいる。
現狀だけ見ると、外でバリバリ働くキャリアウーマンと専業主夫のようだ。
ほんのし前とは真逆に近い構図なのでリアクションに困るが、死んだ鯖のような目をする俺とは対照的に芽はかつてないほど生き生きとしている。
乏しい表は相変わらずだが、長年一緒にいる俺にはまるっとお見通しだ。
「なんつーか、お前……やたら楽しそうだな。死線をくぐり抜けてきたばかりの冒険者とは思えない面構えなんだけど……」
バカみたいに長い刀の手れをしながらくつろぐ芽に疑問を投げかけると、ほんのかすかに喜びがじられる抑揚のない聲が返ってくる。
「死線なんて、大げさだよ。弱いモンスターばっかりだし、田辺さんは慎重だし。まあ、楽しいのは、そう……かな。本當に、ゲームみたいで、何ていうか……わくわくして、面白くって」
「…………そうか。お前らしいっちゃお前らしいけど……でも気をつけろよ。何があるか分かんねーんだから」
久しぶりに會ったら超絶アクティブになっていて心かなりビビったが、RPGゲームに引くほどハマっていた芽がダンジョンで浮かれるのは、考えてみれば得心がいく話だ。
俺も気持ちはすごく分かる。
「來る前は怖かったけど、実際は思ったよりも、ずっと安全だったのもある、かな。そして何より、お兄ちゃんにも、會えたから。……一人で、マユさんの所に行くって言った時は、驚いたけど……やっぱり、お兄ちゃんは、ここにいるのが一番いいと思うな、うん」
「芽…………」
手早く作った『リザードマンとマンドレイクの回鍋風』を味しそうに口に運びながら饒舌に話す芽に、俺はためらいながらも切り出す。
「あのな……言っとくけど、俺は諦めたわけじゃねーからな。どんな手を使ってでも、あのオッサンに一泡吹かせて堂々とマユの所に戻ってやる」
誰がどう考えても無謀な俺の宣言を聞き、芽は手を止めて真剣な顔を向ける。
「……無理だよ、レベルが、全然違うもん。大、手も足も出てなかった、よね」
「そりゃな、いきなり勝てるとは思ってねーよ。アレは様子見っつーか、どのくらい差があるか試しただけだ。……まあ、想像を遙かに超えてて、テンションがダダ下がりしたのは事実だけど……」
「お兄ちゃんは…………そんなに、ここにいるのが、嫌なの……?」
「んー……嫌っていうか…………」
正直、ここで本心をぶっちゃける必要はない。
ていうか、ハズい。
しかし、危険なダンジョンまで俺を追って來た妹に対して、適當な理由をでっち上げて再び置いていくなど極めて不誠実な行為である。
かといって、芽に安全なベースを離れて一緒に來てくれなどとは言えない。
そもそも、『自反撃』スキルを持つマユと四六時中行を共にするのは困難だ。
ゆえに、俺は誠心誠意を込めて己のありのままの思いを告げて納得してもらうことにした。
「そのー……何というか……アレだ、えーっと……つまり、俺はマユを、す、すすす、す……好きっていうか……そういうアレだから、どうしても行かないとっていうか行きたい、みたいなじ的な?」
「……………………………………え??」
冷靜に。
穏やかに。
落ち著いて。
機械のように平靜に、俺は告白したつもりだった。
……無理だった。
まさに、絵に描いたような挙不審。
くそぉ……サユとアユにはスッと言えるのに……。
なぜだ……なぜ俺は妹にこんな醜態を曬しているのか……。
「え……え? え? 好き……って、お、お兄ちゃんが? マユさん? を?」
「あー……うん、まあ、そう…………」
「……………………」
「……………………」
カチャチャーンッ。
――と、芽の手からするりと箸がり落ちて転がった。
しかし、芽は微だにしない。
口をあんぐりと開け、信じられないと言わんばかりの表で俺をじっと見つめて呆けている。
「あ、してる、みたいな……そんな意味、で?」
「あー……うん、まあ、そう…………」
「……………………」
「……………………」
「……………………ええええええええええええっっ!??」
この時の芽の驚きを、俺は生涯忘れることはないであろう。
オルトロスの咆哮もかくや、という絶に近い驚愕の聲は建の外まで響き渡り、何事かと駆けつけた人々に適當な理由をつけて安心してお帰りいただくのに五分の時間を費やした。
その間ずっと石像のように固まる芽。
どうにか靜寂を取り戻し、芽の向かいに腰を下ろして大きく息をついた後、ようやく話は再開された。
「えっと、えっと……噓とか、冗談じゃ、ないんだよ、ね……?」
「うむ。真面目に超マジで本気の真剣だ」
「……本當の、本當に、人を好きになるなんて、絶対、ぜーーったい、ありえなかった、あの、お兄ちゃんが?」
「うむ。まあ、ダンジョンに來て俺も人として長したってことだな」
「……その……私、マユさんって、新聞の寫真で見ただけ、なんだけど……あの、ちっちゃい子、だよね?」
「うむ。あれでもお前より一つ年上だけどな」
「う、噓……。ま、まあ、それは置いといて……あの、何ていうか、見たじだと、っていうか、噂で聞いたじでも、なんだけど……その、ちょっと……ううん、すっごく変な子、なんだよね?」
「うむ。それがマユの唯一のウィークポイントであり、無二のチャームポイントでもあるのだ」
「………………」
「………………」
「………………お兄ちゃん……疲れてるんだよ、きっと。あっ! もしかして、どこかに頭でも打った? それとも……まさか、呪いとか? そういう邪悪な魔法に、かかってるんじゃ……」
「落ち著け、俺は正常だ……って、このやり取り何かデジャブ……。とにかく、そういうわけだからサクッとあのオッサンを倒してマユの元へ駆けつけたいんだよ。別にここが嫌とかじゃなくてな」
「…………………そう……なんだ…………」
こんなに芽と腹を據えて話をしたのは、父さんと母さんが死んだ日以來だ。
あの時と比べて、話題は稽の極みではあるが。
や、稽というのは語弊があろうか。
なぜなら俺と芽の間に流れる空気のシリアスさは、紛れもなくガチだからだ。
「…………分かった。お兄ちゃんが本気なら、私はもう、何も言わない。でも、なら、私も一緒に行く。そのために、私はここに、來たんだから」
「いやいや、それはダメだ。お前の安全を――」
「マユさんは、一人でも今まで、大丈夫だったんでしょ。こないだの、お兄ちゃんの話だと、充分、安全そうだし。それに、一人でも多い方が、もっと安全だよ」
「……いやいや、でもホラ、お前の獨斷で決められないだろ。みんなが力を合わせて生活してるんだから、そんな勝手な行は――」
「そんなの、関係ない。たしかに、今までいっぱい助けられたけど、でも、これだけは、譲れないから。……っていうか、勝手とか、お兄ちゃんにだけは、言われたくない」
「あ、ハイ、そーすね……スミマセン…………」
「……もし……マユさんと二人っきりに、なりたいから、私が、その……お邪魔って言うなら……仕方ないけど……」
「そ、そそそそんなことは全く全然これっぽっちもねーけど!?」
「そう……。なら、決まりだね」
「え…………あ……う…………」
ナンテコッタイ。
まさか、口下手の芽に討論でフルボッコにされる日が來ようとは……。
こないだはマユパパに完全論破されるし、攻撃力だけじゃなく口撃力まで低いとか救いようがねえ。
を噛んで顔を覆う俺に、芽はなおも容赦ない追撃を仕掛ける。
「まあ……お兄ちゃんが、凩さんに勝てるわけないから、意味ない話だけど、ね。こっそり抜け出して、一人で逃げちゃったらどうしようって、心配してたけど……そのつもりがなくて、よかったぁ。えへへ……」
「ぐぱっっ!!」
そりゃ、普通に考えりゃ勝てないさ。
そりゃ、勝てないけどさぁ……。
悪気が一切ない言葉ほど鋭利に突き刺さるもんはねえな…………。
「よー天地。お前の料理、かなり評判いいみたいだな。すげえじゃねえか」
その後、率直に言って俺が雑魚だから心配は杞憂だと判斷した芽が、どういった経緯でマユを好きになったのかという斷の領域に話題をシフトして俺をしどろもどろさせていたところ、絶妙なタイミングで救世主田辺様が現れてくれた。
T・M・T。
田辺たんマジ天使。
「田辺さん、お疲れ様でーす。いや~、それほどでも」
「あっ、芽ちゃんも一緒か。今日もお疲れ様、芽ちゃんのおかげで大分楽になったよ」
「お疲れ様、です。お力になれて、嬉しいです」
…………それにしても。
「……芽、お前マジでコミュ力上がったよな。地上にいた頃だったら、あうあう言いながら俯くだけだったろうに……何か長しすぎて逆にこええよ」
心(を通り越してドン引き)していると、芽は不敵にしか見えない不用な笑みを浮かべて得意気に語り始める。
「ふふふ。私ね、ここではクールで禮儀正しい、カッコイイ刀使いを演じてる、から。そうすると、ちゃんとできるんだよ。すごいでしょ」
「…………そ、そうか。そりゃ大したもんだ」
つまり、自分が設定したキャラにりきる……ロールプレイすることで自己暗示をかけてる、みたいな?
まさに、ゲーム好きなコイツらしい克服法だけど……。
おあつらえ向きに舞臺が整ってるから演技もしやすいだろうけど……。
うん、我が妹ながら変わったヤツだ。
ぶっちゃけ、俺と話してる時と比べると、まだまだ顔は引きつってるし、聲は半分も出てないが、それでも相當な進歩である。
「そうそう、今日も頼まれてた例のアレ取ってきたぞ、天地」
「マジですか! ありがとうございますっ!」
田辺さんは背負った革袋を慎重に機の上に置き、それを俺は希が詰まったパンドラの箱を開けるようにワクテカ気分でガサガサと漁る。
「お、おいおい気をつけろよ、がなんだから。……にしても、そんなもん一どうするんだよ? しかも、この二週間ずっとだぞ? どんだけ必要なんだよ」
「? 何、それ?」
「フッフッフ……!」
顔のにやけを抑えられない俺を不思議そうに見つめる田辺さんと芽。
たしかに、これは他のヤツから見ればただのゴミ……いや、それ以下だ。
しかし――――!
「これこそが! 俺を勝利に導くキーアイテム! そして……ついに機はした! 俺は明日…………第一層最強の男、凩剛健を倒すっっ!!」
「「……………………は?」」
《書籍化&コミカライズ決定!》レベルの概念がない世界で、俺だけが【全自動レベルアップ】スキルで一秒ごとに強くなる 〜今の俺にとっては、一秒前の俺でさえただのザコ〜
【書籍化&コミカライズ決定!!】 アルバート・ヴァレスタインに授けられたのは、世界唯一の【全自動レベルアップ】スキルだった―― それはなにもしなくても自動的に経験値が溜まり、超高速でレベルアップしていく最強スキルである。 だがこの世界において、レベルという概念は存在しない。當の本人はもちろん、周囲の人間にもスキル內容がわからず―― 「使い方もわからない役立たず」という理由から、外れスキル認定されるのだった。 そんなアルバートに襲いかかる、何體もの難敵たち。 だがアルバート自身には戦闘経験がないため、デコピン一発で倒れていく強敵たちを「ただのザコ」としか思えない。 そうして無自覚に無雙を繰り広げながら、なんと王女様をも助け出してしまい――? これは、のんびり気ままに生きていたらいつの間にか世界を救ってしまっていた、ひとりの若者の物語である――!
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