《キチかわいい猟奇的とダンジョンを攻略する日々》反逆の天地 「必要なものは……結果だ!」

実に……実に、気持ちのいい目覚めだ。

ドラゴンをワンパンで散できそうなくらいが軽く、全に力が溢れている。

加えて、聖水で丹念に二度洗いしたかのように心は眩く燦々と輝き、かつ瑞々しく清々しい。

習慣として毎朝飲んでいるダンジョン産コーヒーモドキの味も、いつもより心なしかコクが深くまろやかな酸味で、格別に味い気さえする。

「ああぁ…………何っっっって最高な気分だ!!」

今では信じられないことだが、し前まで俺の心は荒れていた。

理由は他でもない。

あの日比野天地とかいうクソボケカスガキが、俺の最の娘と生意気にもアバンチュールを送っていやがったせいだ。

しかも……しかもだ。

それだけでも気が狂う大慘事だってのに、何よりやりきれねえのは、その悲劇に俺自の責任も多分に含まれてるってこった。

何を思ってか知らねえが、マユがクソガキを連れ去るのを止められなかった、あの一瞬の油斷!

まさかマユとイイじになるとは知らず、する娘の意思ならば……と思い、クソガキを全力で強引に連れ戻さなかった軽率さ!

不覚……この凩剛健、一生の不覚!

二人が仲睦まじく笑う姿が載った新聞を見た時の絶と言ったらなかった。

それから俺は毎夜悪夢にうなされ、眉間の皺は日を追うごとに深くなり、二十四時間ずっとイライラムカムカソワソワハラハラしていた。

「だが……んな糞わりぃ日々はもう終わった! がはははははははっ!」

およそ二週間前。

クソガキ日比野天地がひょっこりと姿を現した。

話によると、新種の魔によって一層まで飛ばされたらしい。

俺は、立場上絶対に危懼すべき未知の兇悪な魔に心から謝し、思わず小躍りしたい歓喜と目の前のボケナスを八つ裂きにしてやりたい憤怒を神がかった自制心で押し殺し、菩薩のような無の境地の維持に努めて、野郎が今に至るまでの話を黙って聞いた。

そんな殊勝な俺に、あろうことかマユとのキャッキャウフフを楽しげに語るという予想の斜め上を行く好戦的な煽りを長々と繰り広げるクソガキャアァアアア!

完全にブチギレた。

ブチ殺す五秒前だった。

しかし、俺も鬼じゃねえ。

第一層ベースのリーダーとして、を任せて処刑するわけにはいかねえ。

殘念至極だ。

腸が煮えくり返って蒸発しそうだ。

今ほど己の地位を恨めしく思ったことはねえ。

だが、仕方ねえ。

雑魚の分際でしつこくお目付け役に固執し続けるガキに、そんなことしてやる義理も理由もねえってのに親切にも可能を與えてやった。

俺を倒せたら好きにしろってなあ。

つっても、俺に勝つなんざ天地(・・)がひっくり返っても無理だがなっ!

日比野天地(・・)だけにな!

ガハハハハハハッ!!

にしても、まさかマジで決闘をけるとは思わなかったが……おかげで一発ぶん毆ってちっとばかし気も晴れたぜ。

『番(つが)い結びの羅針盤』を取り上げて、新しいお目付け役も早速派遣したし……ようやく憂いが消えて、萬事丸く収まったってとこだな。

……まあ、彰人にはやりすぎだとか大人気ねえだとかグチグチ小言を言われちまったし、あれから日比野妹には終始ゴミを見るような蔑む目で見られるようになっちまったが……そいつぁ甘んじてれてやろう。

アイツのためを思ってのことだったとはいえ、まあ、何だ……俺もほんのちったぁ悪かったと思わなくもねえし…………。

「ゴ、ゴウさん! その、天地が……」

「ああん?」

第二層ベースは、平らにならした通路が口から中央を真っ直ぐ貫くようにび、その両サイドに箱型の綺麗な建がきっちり碁盤目狀に整然と並んでいた。

対して、ここ第一層ベースは、街づくりゲームで小學生がポチポチいい加減に建てまくったように「建築様式? 何すかそれ?」と言わんばかりの歪な建(っぽい何か)がランダムに立。

しい景観という概念が完全に欠如した無計畫の産と言える混沌の迷路であり、限りなくマイルドに言っても猥雑なスラム街である。

一応フォローするならば、これは息苦しい規則でガチガチに束縛することなく個々の自主と獨創、ひいては自由を重んじた結果であり、決して二層と比べて一層の文化レベルが低いわけではない。

例えるなら、綺麗な額に収まったしい伝統的絵畫と、型に囚われない奔放で挑戦的なストリートアートの違い、みたいな?

まあ、個人的には二層の方が落ち著くんだが……。

「おうおう天地よぉ。てめえ、あんだけ余裕で瞬殺されて、よくもまあリベンジなんざ挑めるもんだなぁ。しかも、たった二週間しか経ってねえじゃねえか、舐めてんのか? 俺だって暇じゃねえんだぞコラ」

「ふふ……あまり強い言葉を遣わない方がいいです。弱く見えますよ」

「…………てめえ、どっからその自信が出てくんだよ。怒りを通り越して呆れたぜ。まあいい、とっととぶっ飛ばしてやっからかかってこいや」

およそ二十メートルの距離を置いて相対する俺と凩剛健ことマユパパがいるのは、そんなゴチャゴチャとした第一層において唯一、スッキリかつ手れが行き屆いた――と言っても、木の柵で囲っただけの単なる更地なのだが――広大な空間、闘技場だ。

リーダーの格を反映したような街並みに裏切ることなく、気盛んなゴロツキみたいな人間が多い一層ベースでは、ここでの戦闘訓練と稱した喧嘩や決闘が一番の娯楽となっている。

拳をポキポキ鳴らしながら、刺すような鋭い視線を送るマユパパ。

ゆっくりと準備をしながら、頑張って強キャラ満載のセリフを吐く俺。

どっちが勝つか賭けながら、お祭り気分に囃し立てて勝手に盛り上がるヒマなギャラリー。

ちなみにオッズが悲しいことになっているのは言うまでもない。

「――――おい、いつまでストレッチしてやがんだ。んなことしたって意味ねーっつんだよ。やる気ねーならこっちからやってやんぜコノヤロー」

「……ふ、せっかちな人だ。そんじゃーまあ仕方ない……そろそろやります、か……」

野次馬の中で心配そうに見守る芽と田辺さんを見つけて微笑みかけていると、業を煮やしたマユパパが苛立ちながら聲を荒げる。

狙い通り、強者の余裕でクソザコひょろガキの俺に先制攻撃をプレゼントしようと悠然と待ち構えてくれていたが……さすがに、時間稼ぎはもう限界のようだ。

「さあ、初お披目ので今度こそ認めさせてみせますよ! マユのお目付け役にふさわしいのは……この俺だってことをっ!」

この日のために鍛冶職人に拵えてもらった小弓を引き絞り、狙いをつける。

長年の相棒である鉈には悪いが、マトモな接近戦で勝ち目はない。

「弓、ねえ……。まさか、そんなもんで勝てる気になってんのか? だとしたら萬死に値する愚かさだぜ。んなもん當たるわけねーだろうが、バカかてめえは。ガハハハハハッ!」

矢を向けられても一ミリもじることなく、腕を組んで嘲笑うマユパパ。

「それは、やってみないと分かりませんよ。……凩さんこそ、用のバトルアックスを使わなくていいんですか? 負けた時に『素手だったからなぁ~』って言い訳しないでくださいよ?」

「ほざけっ! アリ一匹潰すのに、んなもん逆に使いづれえだろうが。素手でも手加減が難しいってのによぉ、ザコの相手すんのも大変だぜ。ったく……」

たしかに、そんな見ただけで失神しそうな恐ろしい兇を使われた日には、命が星の數ほどあっても足りない。

これで負けたら本気で恥ずかしい挑発をドヤ顔で繰り返しながら、心かなりホッとする。

この圧倒的レベル差で、俺に見いだせる勝機はわずか一つ。

それはすなわち、相手が完璧に舐めプ狀態であることだ。

「男に二言なし! 俺が勝ったら舎弟になってもらいますよ――――食らえっっ!!」

「おーいいぜ~。絶対にありえねえけどなあ――――よっと」

の力を込めた一は、仕事で疲れたを鞭打った二週間の練習の甲斐あって、上出來な軌跡を描いてマユパパの土手っ腹へと吸い込まれていった。

が、マユパパは相変わらず腕を組んだままニヤニヤと笑い、軽く上を捻っただけで難なく躱す。

コンチクショー。

あまりにも結果の見えた勝負に、外野からは早くも失笑が起こり始めている。

「……ま、お前がマジだってのは認めてやるよ。その一點だけは評価してやる。だから、せめて恥をかく時間を短くするために……一瞬でカタをつけてやるよっ!」

続く第二、第三も最小限のきで回避したマユパパは、ついに腰を深く落として構え……右足を大きく踏み込ん――――――

「ッ!!?」

――――だ……と思った、その剎那。

その巨……でなくとも信じられない、ほとんど眼では捉えられない驚異的なスピードでマユパパが一瞬のに俺の目前まで迫った。

うすら笑いの消えた、背筋の凍る酷薄な瞳に映るのは……口を真一文字に引き結び、あらぬ方向に標準を向けたままの間抜けな俺。

速い!

速すぎるっ!!

越えられない無なレベルの壁。

完全に前回のリプレイ。

また、このまま一発KOか……。

誰もが、そう思っているだろう。

だが…………!

俺の狙いは、まさに今、ここだ――――!

「!? ぐっ――――!??」

勝利を確信していたマユパパの表が不意に曇った。

そして、ほぼ同時に小さくいて瞬時に飛び退く。

マユパパの想定外の行にどよめく場外。

何が起こったのか、それを把握できているのは俺とマユパパだけだ。

いや……おそらくマユパパも、ことの重大さにはまだ気づいていないだろう。

「チッ! てめえ…………そうくるかよ……!」

「くく……くくくくく…………ハーッハッハッハッ!!」

憎々しげに俺を睨みつけて舌打ちするマユパパを見ているに……見ているに……じわじわ……じわじわと……心の奧底から高揚が湧き上がり…………そして、抑えきれずに発した。

やべえ、笑いが止まらない!

何が何だか分からずにざわつく集団に囲まれて……俺はどう見ても悪役のように高笑いを続けた。

なぜなら、この瞬間、すでに…………勝負は決したのだから。

「勝った…………! 計畫通り………………!!」

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