《キチかわいい猟奇的とダンジョンを攻略する日々》あたしが隣にいるうちに
ふおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!
ぬああああああああああああああああっっ!!
まさか……。
まさか、マユが俺のことをす、すすす、すっ、好きだなんて……。
しかも、いい、い、一番……ナンバーワン、だと?
あぁ……か、無量だ……。
たぶん嫌われてはいないと信じていたが、俺のことなんてパプアニューギニアの政治事くらい興味がない可能は殘念ながら捨てきれないと思っていた。
「あっ……あっ、ありがとう、マユ。そんじゃ、まあ、えっと……これからも、よろしく……」
「……ん……」
有頂天になりすぎて心が天高くに幽離しながらどうにかそれだけ言い終えると、マユは小さく頷いて頭を俺のにこつんと當てる。
あ、危なかった……これ以上マユの悩殺スマイルを直視していたら、脳神経と心臓がオーバーヒートして俺は間違いなく死んでいただろう。
それはあまりにもダサすぎる。
「………………」
「………………」
と思いながらも、なんとなく良い雰囲気の沈黙が流れている中で、俺は気の利いた言葉をかけることもなく、ついさっき永久保存してバックアップも作したマユの笑顔と言葉を脳でひたすら延々とループ再生して、かにニヤついていた。
だって、しょうがないじゃん。
いまだかつて、マユに好きって言ってもらえたことなんて……なんて……。
…………ん?
あれ?
そういえば……。
ふと、一か月ほど前の記憶が鮮明に蘇る。
あれは……そう、樹海でマユとの再會を果たし、お祝いを兼ねて激レア素材であるファフニールの心臓を使った必殺料理(スペシャリテ)を振舞った時のことだ。
最高にキチかわいいマユが、ファフニールの心臓と謎のキノコのオリーブオイル炒めをダイナミックかつキュートに頬張った直後、急に人が変わったように弱々しくて慎ましくて可憐なじに豹変したのだ。
そして、自分のしてきた行を悔いて何度も何度も謝って、ぼろぼろと泣いて、最後に今と同じように、俺に言ったのだ……「大好きだよ」と――。
「そうか……あの時も……そうだったんだな……」
てっきり、俺は魔法料理の効果によって心が壊れる前の、サユとアユが知るかつてのマユが一時的に復活したのだと、そう思っていた。
しかし、それは大きな勘違いだった。
あの時のマユは……今、ここにいるマユだ。
誰よりも俺がよく知っているマユの、普段は必死に押し隠していたレアな面が顕現していたのだ。
なんてこった……なんで気づかなかったんだ、俺は……。
この神世界のマユに、俺はすでに一度會っていて、あまつさえ會話までしていたんじゃないか。
つーか、會話どころの話じゃねえ。
好きと言われて舞い上がった俺は、妙なハイテンション狀態でテンパりながら告って……。
いやはや……よもやよもやだ。
マユファンクラブ會長として不甲斐なし。
があったらりたい。
「うぉっ――――!?」
幸せの絶頂から一転、慙愧の念に堪えない緒不安定な俺の心などお構いなしに、突如として窓の外から強烈なが放たれて俺の目を直撃した。
くらくらしながらマユと一緒に窓からを乗り出すと、先ほどまで空一面を隙間なく覆っていた暗雲がいつの間にか綺麗さっぱり消え去り、眩しいくらいの満天の星空が広がっていた。
「はぁ~……すっげえ……! けど……なんだってんだ、一……」
深夜でも人工的なが溢れた現実の現代日本ではあり得ない素晴らしい景に、しばらく口をアホみたいに開けて見ってしまう。
何かやばいことの前れ、ってわけじゃなさそうだが……。
「……大丈夫……もうそろそろ、戻れるってことだから……」
「え? 戻れる、って……」
どこに? とは聞くまでもない。
この神世界からだろう。
代わりに、なんで分かるのかと聞こうとした俺は、隣で星を見上げるマユのどこか寂しそうな、あるいは不安そうな橫顔を見て咄嗟に言葉が出なくなる。
「……マユ……どうした……?」
「…………あの、ね……あたし……素直じゃなくて……わがままで……自分勝手で……きっと、これからもずっと……」
マユは縋るような目で俺を見つめ、そっと俺の手を握り、まごつきながら小さく呟いた。
「だから……いつか、あたしのこと……嫌いになっちゃうかも……しれない、けど……」
「そんなことない! 絶対ない! 百億パーない! あり得ないっ!」
そう即答すると、マユの手にしだけ力がる。
俺はその手を強く握り返す。
「あ、あたしなんかより……もっと、もっといい人が……いっぱい、いるけど……」
「いないいない! そんな人間は存在しない! 今後も一生現れないっ!」
再び即答すると、マユの表の曇りがしだけ晴れる。
その様子を見て、俺はようやく悟った。
神世界という心の奧底で、マユの本心とこんなに近くで直接向き合えるなんて特殊な狀況は、もうこれが最後だろう。
そして、その貴重な時間が、もう終わりに近づいているのだ。
マユはそれが分かっているから、今のに普段は見せないようにしていた弱さや悩みを吐して、そんなもんはくだらないと俺に一蹴してしいのだ。
隣にいられる、最後の一瞬まで――――
「も……もう一度、聞かせて……あたしのことが……好き、だって……」
「……ああ……何度でも言ってやる。俺はマユが好きだ」
正直、一回でもすげえ恥ずかしいのに何回も面と向かって真剣にを告げるなど、非モテキャ歴イコール年齢の俺には前代未聞で、張のあまり悸がやばくて今にもゲロを吐きそうだ。
だが、自分の価値や存在意義にどうしても自信が持てないマユに対して、ここで逃げたり茶化したり誠実に向き合わなかったりしようものなら、俺は後世まで語り継がれるレジェンド級のへたれゴミカス野郎確定だ。
「……もう一度……お願い、もう一度だけ……」
「他の誰でもなく、マユが好きだっ。他の誰よりも、マユが大好きだっ」
繰り返し、力強く想いをぶつけると、その分だけマユの心を縛る鎖は破壊されていく。
長い夜が明けたようにを取り戻した世界で、マユの心もまた闇の淵から抜け出ていくのをじる。
マユに助けられてばかりの俺が、言葉だけでも、しだけでもマユの助けになる……いつかそんな日が來ればいいなと、ずっと願っていた。
「……てん……ちゃん…………」
「前も……こうやって好きって言ったのに、意外と心配なんだな、マユは……。そんなマユも好きだ。どんなマユも好きだ。ありのままのマユが好きだ。いつも好きだ。いつでも好きだ。いつまでも好きだ」
いい加減しつけえと言われてどつかれても仕方がないのバーゲンセールだが、マユは一言一言を大事そうに噛み締めて頷く。
そして、マユがようやく不安の消え去った晴れやかな笑みを浮かべた、その時――――俺達を見守っていた星々が、一際強く輝いた。
「うっ!? まぶしっ……!」
かつてないレベルの……いや、つい最近も経験した殺人的な閃が俺の目を直撃し、俺は強制的に目を閉じることを余儀なくされた。
脳まで突き抜ける刺激で頭がぐわんぐわん回転すると同時に、突然無重力空間に放り出されたような奇妙な浮遊がを満たす。
これは、もしかして……。
そう思った俺は、最後にもう一度マユの顔を目と心に深く刻もうと試みる。
が、今だけは心底忌々しいにやられてしまった両目は、どんなに気合をれても頑として開いてくれない。
「マユ……っ!」
徐々に薄れていく、の覚。
遠ざかる意識。
ああ……ちくしょう。
もっと話したい。
もっと伝えたい。
膨れ上がる渇と後悔の中、俺が最後にじたのは……を包む溫かいと、心に直接響くようなマユの優しい聲だった。
「――てんちゃん……ありがとう。これからも、よろしくね――――」
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