私は心からあの方をしていると、そう思っていた。

けれど、それは違ったのかもしれない。

されるように仕向けられただけの、偽りの心。

そうでも思わなければ私は、正気を保ってはいられなかった。

――フルバート公爵家長、アロナ・フルバート。彼はい頃より、イギルキア國の第三王子であるルーファス・ダオ・アルフォンソとの婚約が決まっていた。両親はアロナの心よりも、將來にしか目がいかなかった。厳しい妃教育に耐えられず弱音をらせば、まだであろうとも折檻をしてそのに教え込んだ。

それを繰り返されるうち、彼は悟る。

（ああ、この人達に私の訴えは屆かない）

上げても意味のない聲は、上げない方がいい。

従っていれば、叩かれる回數もいくらかは減る。

を殺し、自分を捨て、ひたすらに両親の駒となる。

十歳を迎える頃には、アロナの群青の瞳からはが消えていた。妃教育というものは、それは厳しく辛かった。けれど何より彼の心を壊したのは、全く寄り添ってくれなかった家族の存在だったのだ。

フルバート公爵家には男児が三人居り、児はアロナ一人きり。家名を何よりも重んじるフルバート家にとって、であるアロナは結婚以外に価値がなかった。

兄達も厳しく躾けられていたが、アロナとは違う。母のグロウリアは期待の眼差しで彼らを見ていたし、父のサムソンも同様だった。なくともアロナには、そう見えていた。

期の、折檻は當たり前で、見えない場所には常に傷やあざが絶えなかった。ある程度長してからは、代わりに毎日小言を言われるようになった。アロナ自のことはもちろん、婚約者であるルーファスについても苦言を呈された。

「あの男が第三王子で本當に良かった。第一王子であったならば、この國は他國に侵略されていただろう。なよなよとしていて気概もなく、あれはただの腑抜けでしかない」

（どうして私に言うのかしら）

きっと、自の娘が第一王子の婚約者になれなかった鬱憤を晴らしているのだろうと、アロナは思っていた。

もちろんそれをそのままルーファスに伝えたりはしないが、両親や兄達の馬鹿にしたような態度はどうしたってけていた。

アロナにとって、ルーファスは唯一の希だった。自死という道を選ばなかったのも、彼が居たからに他ならない。い頃のアロナは、心を保つ為無意識に拠り所を求めた。それが、ルーファスだったのだ。

王族らしい金の輝く髪に、素の薄いヘーゼルの瞳。きりりとした男らしさはないが、笑顔が可らしく人柄が滲み出るようならかな雰囲気が彼にはあった。

々事務的といえばそうかもしれないが、なくとも彼は両親のようにアロナを道のような扱いはしない。紳士的な態度で、まっすぐにアロナの目を見て話してくれた。

そんな當たり前のことが、彼にとっては何よりも嬉しかった。將來この人の妻になれる自分は幸運だと、そう思った。

ただひとつだけ、引っ掛かる點があった。それは王妹の娘三人、つまりはルーファスの従姉妹に當たる人。

彼らは常にルーファスに張りつき、彼の婚約者であるアロナにとても辛く當たっていたのだ。

周囲に気付かれないよう、実に巧妙に。