二度目の人生も、家族は彼にを與えることはなかった。一度目の人生だと思っているものが夢か幻か、もしもそうであるならば、しくらい施しを與えてくれてもいいのにと、アロナは見えない神に向かって呟く。

言う通りに出來なければ罵倒され、折檻され、鍵のついた地下に閉じ込められる。けれど母はいつも「これはあなたの為」だと言った。

実際アロナは、高位貴族の間でも完璧な淑として名を馳せていた。優な所作と知的な話し方。々想に欠けてはいるが、その容姿もとても素晴らしかった。

アロナはことあるごとに賞賛され、それにより両親は確信していた。自分達の教育に間違いはなかったのだと。

（二度目の人生では絶対に死にたくないわ）

十五になった彼は決意する。今度こそ、するルーファスと幸せになるのだと。今生きているこの世界でもやはり、あの三姉妹はアロナを徹底的にめていた。

もちろんそれは辛いことなのだが、二度目だからかし慣れたような気もしていた。

自の死因は、刺客に毒矢でられたこと。數日間苦しみ抜いた末にアロナは死んでしまったので、その後のことは彼には分からない。

けれどきっと、ククルは罪を償っていない。ともすれば傷心のルーファスに白々しく寄り添い、まんまと自分が居た場所に座っているかもしれない。

そう思うと、アロナのは潰れそうに痛んだ。そして二度と、ルーファスの傍から離れないと誓う。

アロナは、刺客が狙いやすいであろう場所には徹底して近寄らなかった。

「ねぇアロナ。今日はいい天気だよ。一緒に庭園を散歩しない？」

「申し訳ございません、ルーファス様。私は日に當たると気分が悪くなってしまうのです」

「そうなんだ。それなら仕方がないね」

しょんぼりと悲しそうな顔を見せるルーファスに、アロナも泣きたくなる。本當はこんな噓、吐きたくない。けれど全てはしい彼との未來の為。

アロナは罪悪を必死に押し殺し、ただ自分ができ得る行を取り続けた。その結果、以前は迎えることの出來なかった十六歳の誕生日を無事に迎えることが出來たのだ。

（嬉しい…これで私は、ルーファスと）

一人部屋で涙を流し、生き延びたことを喜んだ。しかしその幸福も束の間、數日後に開かれたガーデンパーティーでアロナは死んだ。

今回の死因は、服毒。矢に塗られた神経毒ではなく、食べに混されていたものを口にした。

「アロナに喜んでもらいたくて」

はにかんだ笑顔でそう口にするルーファスに、アロナは無表で答える。心では、その可らしさに悶えていた。そして彼は幸せな気持ちのまま、ルーファスから貰ったマフィンを口にする。それを誰からもらったのか、彼に聞かないまま。

しばらくの咀嚼の後、彼は泡を吹き白目を剝いて倒れた。

（ああ私は、また…）

今度は、懐古する時間すらなかった。

「アロナ！ああアロナどうして！」

びくびくと小刻みに痙攣するを、自分の意思では止めることが出來ない。ルーファスの泣きぶ聲を遠くで聞きながら、涙も流せないまま彼の心は々に壊れた。

（しいルーファス。ごめんなさい…）

死に際、思いを馳せる相手は彼以外にいない。きっと何度死を繰り返したとしても、後悔はルーファスだけ。彼を悲しませてしまったこと、ただそれだけだ。