《【電子書籍化決定】人生ループ中の公爵令嬢は、自分を殺した婚約者と別れて契約結婚をすることにしました。》ルーファスとの再會
しばらくの後、アロナは両親と共に宮殿へ招待された。そこは見知った顔ばかりで、特に張することもない。
「相をしたら許さないからな」
父であるサムソンが、耳元で囁く。それに対して、アロナは返事をしなかった。
(ここで大失態を犯せば、ルーファスと婚約しなくて済むかしら)
しかしすぐに、それは愚策だと首を振る。あの父親のことだ、國の王子と婚約を結べないとなれば、怒り狂い何をしでかすか分からない。
殺されるならばまだ良いが、に塗れた魔の老人などに嫁がされるのは、流石のアロナでも寒気がする。
これまで通り一旦ルーファスと婚約をわし、彼が十八となるまでにどうにか穏便に婚約を破棄する策を考えなくては。
その時には、ルーファスの代わりとなる誰かが必要だ。王族と並んでも遜ない家柄の男を、じっくり見定めようとアロナは思う。
例え自死を選んだとして、またここまで巻き戻されては意味がない。ルーファスと破綻しエルエベ達に殺されなければ、もしかすればこの負のループを止めることができるかもしれない。
(もう、未練はないわ)
アロナの初は、流し続けた涙と共に地に染み込み跡形もなく消え去った。それは養分となり、いずれ小さな花を咲かせる。アロナにとってはもう、それで充分だった。
ルーファスを恨み彼に復讐を誓ったところで、なにがどう報われるというのだろう。
彼にはルーファスをする以外のものが、欠落していた。両親からの厳しい躾に耐える為、心が無意識に分厚い防を作り出していたのだ。
そのすらなくなった今、アロナの中には何もない。
死にたくないというよりも、死んで再び同じ時を繰り返すことがなによりも嫌だった。だからそうならない為、策を講じる。考えているのはそれだけだった。
謁見の間にて、アロナは初めて國王陛下並びに王妃陛下への目通りがかなった。
「お初にお目にかかります。フルバート公爵家令嬢、アロナ・フルバートと申します」
両親に続き、アロナも定型通りの挨拶をしてみせる。群青の瞳は、至って冷靜だった。
「ルーファス。こちらへ」
「はい」
アロナが聞き知っている聲よりも、ずっと高い。一國の王子らしからぬらかな笑みを浮かべながら、ルーファスが姿を現した。
(ルーファス…)
心がなくなったからと言って、が痛まない訳ではない。けれど彼はそれを無視して、無表を貫いた。
堅苦しい挨拶が終わると、ルーファスはアロナの手を引き庭園へと駆け出す。
「あれ見て、凄いでしょう?」
ルーファスが指差したのは、立派なカスケード。幾重にも重なり落ちていく滝は、確かに圧巻だった。
ヘーゼルの瞳をきらきらと輝かせながら、純粋な笑顔を私に向ける。子供らしいルーファスの振る舞いを、アロナは複雑な表で見つめた。
この時の彼に、まだ罪はない。といっても、いつからエルエベ達を優先するようになったのか、彼には知りようもないが。
「殿下」
「ルーファスでいいよ、アロナ」
「ルーファス様」
アロナは、一つの案を思いついた。
「私は、異が苦手なのです」
「えっ?」
「ですから、ルーファス様に失禮な態度をとってしまうかもしれません」
到底、五歳児が吐く臺詞ではない。けれどルーファスは全く疑うような素振りを見せず、哀しげに目を細める。そして握っていた手を、ぱっと彼から離した。
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