《【電子書籍化決定】人生ループ中の公爵令嬢は、自分を殺した婚約者と別れて契約結婚をすることにしました。》あともう

(…さすがに疲れたわ)

馬車に揺られること數時間。ここまでの遠出を想定していなかったアロナは、馬車の扉が開けられた瞬間アルベールに視線を向ける。

スッと片手を前に差し出した彼に甘えて、アロナは先に馬車を降りた。

「ロファンソン様より先に降りてしまい、申し訳ありませんでした」

「なぜですか?謝る必要はないでしょう」

これが父親だったなら夕食抜きの刑に処されているだろうと、彼は思う。優しかったルーファスでさえ、アロナを先に降ろすという考えはないだろう。

彼はむしろ先に降り、エスコートしてくれた気がする。それも決して悪くはないが、アルベールの気遣いの方がありがたかった。

「雪道は案外揺れが激しいですから、酔ってしまうのも仕方のないことです。し休みましょうか」

「そこまで酷くはありませんので、休む必要はありません」

アルベールは意外と気遣い屋だと、アロナは思う。自が寒冷地に慣れているからといって、他者にもそれを強要したりしない。

(押しかけ令嬢から契約相手に格上げされたからかしら)

それとも、常からこうなのか。もしも特殊癖の持ち主でなければ、この方は本當に引く手數多だっただろうと思う。それこそ、王族との結婚も夢語ではない。

麗しい令嬢達のみどろの爭いを想像すると、ぞくりと背筋が震える。

「やはり寒いかな?」

「いえ」

アロナはそう答えながら、キツネの皮を今一度しっかりと羽織り直したのだった。

(本當にこの人は、一どこへ連れていくつもりなの…)

馬車を降りてから、さらに歩くことしばらく。アルベールは従者や護衛すらついてくることを許さず、ただ黙々とアロナの斜め前を歩いている。

「安心してください。剣の心得はありますので、萬が一危険があってもあなたは必ず僕が守る」

「はぁ…」

普通、これだけの形に「守る」などと言われれば、多なりともが高鳴るものなのだろう。

しかしアロナの脳は、別の答えをはじき出していた。

(安心したいのはそこではないのだけど)

正直そんなことよりも、目的地を教えてほしかった。歩き始めてからさすがに何度か尋ねたが、明確な回答は得られないまま。

日頃外を歩くという習慣のないアロナは、慣れない土地ということもあり疲弊していた。

「疲れたのならば僕が背中に背負いましょう」

「私は荷ではありません」

苛立ちもあり、つい嫌な言いをしてしまったと、アロナはすぐに反省する。

「申し訳ございません」

「気にする必要はありません。ご令嬢にこんな場所を歩かせる僕が悪いのですから」

(それはもっともだわ)

だってもう、雪道というよりも雪山を歩いているのだから。

ちらちらと舞い散る雪が、アロナの群青の髪のに落ちる。一瞬で溶けてしまうが、そののコントラストは幻想的だった。

「もうしですから」

「そう祈ります」

もう彼は、辺境伯を気遣う余裕などとうに雪の中に落としてしまった。

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