二人が本當の意味で心を通わせてからおおよそ十日後、アロナとアルベールは揃ってルタの窟に足を運んでいた。

アロナが唐突に彼に飛びついたあの日、アルベールは本當はルタについて話をするつもりだった。それがいつのまにかプロポーズの場に変わっていたのはなぜなのか、理由は彼にも良く分からないが。

アルベールが一人で窟へ行った際に、何度もルタに「アロナを連れてきて」とせがまれていたのだ。

正直に言えば、アルベールはアロナにルタを會わせることが憂鬱で仕方なかった。けれど、神龍の長の言うことをいつまでも無視するわけにはいかないし、これからアストフォビアで暮らしていくにあたりアロナも避けては通れない道である。

それは分かっていても、嫌なものは嫌だった。

「アロナ！會いたかったよ！」

相変わらず、息をするのも忘れてしまうほどに綺麗な場所だと、アロナはほうっと息を吐く。するとすぐに、一つの影がたたっと近づいて來た。

そして反応するヒマもなく、力強く抱き締められる。

「アストフォビアに來てるって聞いてから、早く會いたくて仕方なかったんだ。ロファンソンの城まで行こうと思ったんだけど、セリカに止められてさ」

「あ、あ、あの？」

「え？ああ、そういえばこの姿で會うのは初めてだったね」

蒼くる湖に照らされた橫顔。アロナがその姿をまじまじと見る前に、アルベールがぐいっと彼の手を引いた。

「ルタ様、冗談が過ぎます！」

「ちょっとアルベール。の再會を邪魔しないでくれない？」

「それは抱きつかなくてもできます」

「嫌だ、僕はアロナとくっつきたい」

駄々をこねるような口調でアルベールと口論しているのは、人の姿をしたルタだった。

「驚きました、ルタ様だったのですね」

「そうだよ。アロナのおかげで元気になったから、こうして姿を変えることができるようになったんだ」

にこっと笑うその顔は、この暗がりの中で見てもとてもしかった。他の神龍達と同じように、神的な白銀の髪と瞳。すらりとびた手腳は細長く、ただの布切れのようなものを著ていてもその素材の良さが隠しきれていない。

男ともとも言い難い、中的なしさを湛えていた。

「ルタ様、お久しぶりでございます。こうして再びアストフォビアの地を踏み、ルタ様のお姿を拝見できたことを、心より嬉しく思います」

ドレスではないため裾を摘むことはできないが、アロナは出來うる限りの優雅なカーテシーをしてみせた。

「他人行儀な挨拶はなしだよアロナ。君は僕の命の恩人なんだから」

「そんな、私は」

「親のキスとハグをしよう、ほら」

屈託のない笑みでアロナに距離を詰めるルタを見て、アルベールがさっと彼を背中に隠した。

「なに？アルベールもしてほしいの？」

「アロナの分も僕にお願いします」

「ええ、あんまり気乗りしないんだけど」

「そうおっしゃらずに」

アルベールは口角を上げながら両手を広げると、すっぽりとルタをに収める。小柄なルタは、苦しそうにじたばたと手足をばたつかせた。

「おみならばキスも」

「もういいよ、アルベールのはゴツゴツしててい！」

ぷはっと息を吐いたルタは、を尖らせながらそう口にする。そんな二人のやり取りを見ていたアロナは、どんな表を浮かべたら良いのか困ってしまった。