《【書籍化・コミカライズ決定!】過労死寸前だった私は隣國の王子様と偽裝結婚することになりました》33.名聲の裏側
「お帰りなさい! 兄上! 姉上!」
「待っていましたわ!」
「ああ、ただいま」
「遅くなってごめんなさい」
スエールでの仕事終え、私たちは王都へ帰還した。
王城に戻ると真っ先にライ君とレナちゃんが出迎えてくれた。
駆け寄ってくる姿は可らしくて、私たちの帰りを今か今かと心待ちにしてくれていたことが伝わる。
「兄上! スエールはどうだったの?」
「うーん、そうだな。フィリスが大活躍していたぞ」
「お姉様が? なになに? なにをしたんですか?」
「それは本人の口から聞くといい」
雙子の視線が私にぐっと集まる。
期待に満ちた表だ。
「で、殿下……」
「いいじゃないか。お前が教えてやれ」
スエールでのことを自分で話すのは恥ずかしい。
戦闘が終わった後、騎士の皆さんから多大な謝をされた。
英雄だとか、勝利の神だとか。
壯大な褒め方もされて、いろんな意味で疲れて帰ってきた。
殿下だって私がどんな気持ちか知っているくせに……。
意地悪ですね。
「ねぇ姉上何したの?」
「教えてほしいです!」
「え、えぇ……」
こうも無邪気に詰め寄られると斷れない。
殿下もだけど、二人もずるい。
◇◇◇
「レイン、フィリス、此度はご苦労であった」
「ありがとうございます。父上」
スエールでの戦いは陛下にも報告する。
私と殿下は二人で陛下に頭を下げる。
「うむ。特にフィリス、君の活躍は騎士団長からも報告をけている。付與の力で騎士たちを守護し、最後には自らが戦場に立って支援したそうだな」
「は、はい!」
「まことに勇ましい。騎士も國民も、君には深く謝していた。よくやってくれた」
「ありがとうございます」
陛下から褒められるなんて機會、これが最初で最後かもしれない。
そう思えるほど嬉しかった。
「しかし、だ」
殿下は真剣な趣で続ける。
「王族が自ら危険を冒すことは、あまりよいことではない。レイン、お前にも言っているはずだ」
「わかっています。ですが王族だからこそ、彼らに守られているだけではダメなのです」
「それはそうだが、萬が一ということもあろう」
「そこまでにしなさい。あなた」
途中で口を挾んだのは王妃様だった。
「ごめんなさいね。この人は心配なのよ。萬が一にも二人に何かあったらって」
「そうだぞ! もしものことがあれば孫が見れないではないか!」
「え……」
そんな理由?
しかも孫って。
「父上、一応ここは玉座の間ですよ」
「安心しろ。ワシら以外には誰もいない。さっき王としての報告は聞いた。今は一人の父として話しをだな」
「はいそこまで。熱くならないでください。大若いころのあなたも無茶をしていたでしょう? 私が何度注意しても変わらなかったのに、子供にだけ言うんですか?」
「うっ……む、昔の話はやめてくれ」
相変わらず陛下は王妃様に弱いらしい。
それに陛下も若いころは無茶をしていたのか。
そういうところは伝なのかな?
殿下も危険な場所へ行くことに躊躇がないし、一人で隣國に嫁探しをしに來たり、行力がずば抜けている。
「フィリスさん、民を守ってくれたことはありがたい。だがくれぐれも、無茶はしないでくれ」
「はい」
こういう優しさも、伝なのかな?
◇◇◇
スエールでの防衛線は、國民の間でもたびたび語られる。
國を守護する騎士団の強さを象徴し、いかなる脅威からも國を、民を守ってくれるという安心につながる事象。
その場に王族がいたという事実も、國民が王家を支持する要因となる。
特に今年は、今までとは異なる戦果を得た。
「スエールではレイン殿下の奧方が戦場に立たれたそうだぞ?」
「あれ本當なの?」
「ああ、うちの息子は騎士でスエールにも出ていた。直接聞いたから間違いないぞ」
「凄いお方ね。さすがレイン殿下のお相手だわ」
レイン殿下の妻、フィリス・イストニアがスエールを守護した。
スエールから帰還した騎士たちの間で語られた噂は、瞬く間に王都中に広まった。
「フィリス様は付與という特別な力を使われるそうだな」
「お隣の國でも宮廷で働いていたそうね」
「地位だけじゃない。國を統べるに相応しいお力と、自らが戦場に立つ膽力も持ち合わせておられるとは。レイン殿下とお似合いな方ですな」
「ええ、この國の未來も安泰だわ」
元々レインを含む王家の人気は高い。
彼らは王族でありながら、國民との距離が近い。
貴族らしくない振る舞いも、親しみやすい格と相まって、圧倒的な支持を得ている。
さらにスエールでの一件。
これにより、フィリスが國民の支持を得ることになる。
國を統べる者を、國民が信じている。
素晴らしいことではあるが、當然快く思わないものがいる。
國とは大きな組織だ。
反対意見や対立があってしかるべき。
「レイン殿下の奧方が國民の支持を得ているようですね」
「これはよろしくないのではないか?」
「いえ、逆に考えてください。彼を味方につけることができれば、王家の支持をそのまま得られるかもしれません」
「確かに。彼は確か隣國の出だったな。ならば詳しい者がいる」
王家に屬する貴族の中で、その権力を奪おうとする派閥。
彼らがむのは、絶対的な王政。
地位と権力こそが全ての、きわめて窮屈な未來。
「近々開かれるパーティが楽しみですね」
彼らの願いはただ一つ。
王家の失墜である。
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