《指風鈴連続殺人事件 ~するカナリアと獄の日記帳~》2001年8月1日(水)
朝からゲロを吐いた。
我ながらひどい顔だった。
何度も顔を洗ったけど、自分でも分かるほど顔が悪い。青くて、薄汚い顔面だ。
昨日の事件について考える。しかし分からない。まったく意味不明。過去3回の事件が起こって、若菜の死はその延長線上にあるのか?
どうして?
なんのために?
指風鈴の意味は?
意味なんて、あるいはないのか? 異常者の犯行?
しかしその割には絶妙なタイミングで、図ったような行が多すぎる。
3度目の事件、三段坂夏の事件は、たまたま工事で地下室への扉が開いていたときにが発見された。
今回の若菜の事件も、東側のに俺たちがり込もうとしたら、巻き起こった。まるで、地下室をずっと見張っているかのように……。地下室に誰かが接近したら、犠牲者が出る……。本當に祟りのように……。
落ち著いて考えるんだ。犯人は學校関係者か?
そう考えるのが自然だ。3回目や4回目は特にそうだ。
工事で鍵が開いたときを見計らってを擔ぎこめるのも、また今回、若菜を殺して地下室に運び込めるのも――あるいはあの地下室で殺したのかもしれないが、なんにせよ、それができるのは學校関係者くらいだろう。特に理事長。地下室への鍵は理事長が管理しているそうだから。
だけど本當に、なんのために……。
理事長が実は悪の大魔王かなにかで、若いのいけにえでも求めているとか……。
若いの死を7年に1回見ないと死んでしまう病気だとか……。そういうのが……。
あと、キキラが3番目の被害者のイトコ?
どういうことだよ。そういうことなら、なんであいつ、俺らに教えてくれなかったんだ?
イトコがそんな異様な死に方をしたなら、普通、知ってるだろ。地下はヤバいって。そして教えるだろ。地下室にる前とかに……。
なにもかも意味が分からない。
若菜の仇を討とうにも、敵がどこに、どういう形で存在しているのか皆目見當もつかない。暗中模索の狀態だった。
ここで俺は、仲間たちに電話をしてみることにした。
事件が起きてからこっち、あいつらも心にダメージを負っているだろうからと思って、俺から連絡をすることはまったくなかったんだけど……。そろそろ、俺のほうが限界だった。友達の聲が聞きたかった。みんなの思うところを知りたかった。なによりもまず、お互いをめ合いたかった。
だけど……。
ここからはし意外な展開が続いた。
まず俺は長谷川の家に電話をかけた。
男同士、気兼ねなく、これまでのことを語り合い、それから今後のことを話し合いたかったんだ。
だけどやつは、電話に出なかった。正確に言えば――長谷川の家に電話をかけると、お母さんが電話に出たんだけど、長谷川は家にいないというんだ。それで、じゃあ帰宅したら、こっちに電話を寄越すようにお伝え願いますか、と俺は言ったのだが――この日記を書いているいま、午後11時30分になっても折り返しの電話は來ない。
みなもも、出なかった。
彼は攜帯電話だから、いくぶん気安く電話をかけたんだけど、いつまで経っても電話には出ず、こちらも折り返しの連絡は來なかった。
疑のキキラも、出なかった。
こちらは、家の人が電話に出ることさえなく、何度かけてもまったくの無駄だった。
なんだか、みんなが俺を無視しているような気分になってしまった。
ただの偶然なんだろう。そう思いたかった。しかしこのタイミングで、仲間たちとまったく連絡が取れないというのは本當に心細かった。
こういう日に限って、母親は帰りが遅い。息子が殺人事件に巻き込まれているのに、仕事、仕事……。仕事が大切なのは分かるけど、早めに帰ってきてほしい。まだ帰ってこないんだろうか……。
ここまで日記を書いたあと、ついさっきだけど、安愚楽士弦から電話がかかってきた。
あいつとは、まあ友達だけど、■■■■■■■■■■■■、正直過去のこともあるし、いまでもあまり話したくはなかった。だからやつの家に電話はかけなかったんだけど……。
その安愚楽は、とんでもないことを口にした。
安愚楽は、あれから事件のことをいろいろ調べたらしく、過去に巻き起こった3回の指風鈴事件のことも知っていたし、埋め立て工事の関係者が病気になったりしたことも知っていた。――問題なのは、その工事のことだ。
「天ヶ瀬くん、知っていたかい? 7年前に、地下室の埋め立て工事を擔當していた會社は、地場大手の袴田工務店という會社だよ。……なんと、袴田みなもさんのお父さんが経営している會社さ」
それを聞いていよいよ俺は混した。
7年前の事件の被害者は、キキラのイトコ。
7年前に地下の埋め立て工事を擔當していた會社は、みなものお父さんの會社。
そしていま、電話をかけてもまるで出てこないみなもとキキラ、それに長谷川……。
俺の近に、いったいなにが巻き起こっているんだ。
若菜の死は、呪いなのか祟りなのか、過去との繋がりがあるのかないのか。
もうなにもかもが分からなくて、俺はもう一度、朝に続いて吐きそうになった……。
追記
學式の日に貰った『學のしおり』を読み返していたら、理事長はもともと外部の人間で、前理事長が病死したあと、學校に招聘されて理事長に就任したことが分かった。著任したのは3年前で、それまでは東京にいたらしい。事実、事件前日の7月17日にはその関係で、東京へと日帰り出張に出かけている。
つまり、たぶん、これまでの事件には無関係だと思われる。
いよいよわけが分からねえ。
(筆者注・■部分は、黒マジックで塗りつぶされている部分。何度も丁寧に塗られており、本來そこに書かれてあったであろう容は読むことができない)
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