《指風鈴連続殺人事件 ~するカナリアと獄の日記帳~》2001年8月25日(土)

夜、安愚楽くんから電話。

天ヶ瀬くんと電話をして、明日の午後1時にコンビニで集まることが決定したらしい。

「天ヶ瀬くん、面白いことを言っていたよ。袴田さんが、自分のことを避けてるみたいだって言ってた」

「え? 私が天ヶ瀬くんを避けてる? どうして?」

「夏休みの間、君の攜帯電話に、何度か電話をかけたらしいよ。だけど電話に出なくて、折り返しも來ない、家に出向いても誰もいないし、って愚癡ってた」

「そ、そんなの! だって私、雨で攜帯電話、壊れていたんだもの! 誰が彼を避けるのよ、そんなわけないでしょ!?」

「そうだよ、その通りだ。だけど……ふふ、すべてはすれ違いだったようだね」

「…………」

私は呆然とした。

天ヶ瀬くんを避けるなんて、そんなことするわけないじゃない。

うまく連絡が取れなかったり、すれ違ったりしただけなのに。

「だから、すべては天ヶ瀬くんの勘違いだって言っておいたよ」

「あ、ありがとう! それは……素晴らしいフォローだわ!」

「…………分かりやすいね、袴田さんは」

「え」

安愚楽くんの、ちょっと沈んだ聲に、私はドキッとした。

「いろいろと、分かりやすいよ。…………いいね……」

「……安愚楽くん?」

彼がなにか、小聲でささやいたのだが、私には聞こえなかった。

なにかいま言ったの、と言おうとして、しかし安愚楽くんは、

「それじゃ、明日の午後1時に天ヶ瀬くんの家の近くのコンビニで。よろしくね」

そう言って、電話を切ってしまった。

…………彼、最後になにを言ったのかしら?

まあいいわ。

……天ヶ瀬くん。

私があなたを避けるなんて、そんなこと、絶対にしないわよ。

私、いまでもあなたを……しているもの。大好き、だもの……。

でも。

そういえば、私、最近、彼のことを考えること、なくなっていたわ。

事件のことばっかりで。……高1の夏が、こんな風に過ぎていくなんて思いもしなかった。

だけど、後悔はしていない。若菜と長谷川くんを殺した犯人をつかまえるためなら、私は全力を盡くす。

私にとって若菜たちは、大事な仲間だった。その無念を晴らすためならば――も青春も、後回しで構わない。

私は戦うわ。最後まで。

力を貸して、若菜、長谷川くん。

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