《悪魔の証明 R2》第18話 017 シャノン・マリア・クロロード(1)
騒々しい聲が、一號車へと足を踏みれた私のの回りを取り囲む。
その聲の主は座席を埋め盡くす大柄な男たちだった。
バスケットボール部の人たちかしら? それともアメフトの選手たち?
どっちらでも良いのだけれど、彼らが私たちのいいカモフラージュになってくれていることは間違いなさそうね。
私は軽くほくそ笑んだ。
幸運なことに男たちはアルフレッドたちと同じライトグレーのスーツを著ていた。
チビのアルフレッドならいざ知らず、この狀態で私設警察が背が高く目につきやすいブランドンを目撃していたとしても彼らと見分けがつくとは思えない。
この作戦が功するのであれば、運でも何でも頼れば良い。
私たちの幸せがその先には待っているのだから。
「それにしても、こんな真っ晝間から、大量のアルコールを飲むなんて、まったく……信じられないわね」
ぼそりと呟いた。
車両にった瞬間から、ひどく酒の臭いが鼻をついてくる。
フリッツに貰ったフェイクブルゾンについたらどうしてくれるつもりなのかしら。
泥酔している男たちへと目を配りながら、心の中で小さく囁いた。
まあ、いいわ、大きなは嫌いじゃないし。
次の瞬間には、変節する。
一旦振り向いて小窓から二號車の通路を確認する。
――が、そこには、誰の姿も見當たらなかった。
今のところ私設警察には尾行されていないということね。
若干ながら安堵した。
先程すれ違い様ブランドンに、「怪しいふたり組がいるから、周囲に気をつけろ」と忠告された。
その怪しいふたり組が誰であるのかはつい先刻判明した。
ブランドンと別れてから間もなくそのふたりが、私の目の前に現れたからだ。
アロハシャツの男とポロシャツの男。そして、そのふたりののひとり、ポロシャツの方が、こちらを気にする素振りをしていた。
いや、私が持っているシルバーのアタッシュケースを注目していた、という方がその狀況を表すのにより相応しい。
あきらかに素人の目つきではなかったから、おそらく私設警察の人間であると斷定しても間違はないだろう。
そのときは、聲をかけてこようとしなかったが、今も隠れて私を尾行している可能は捨てきれない。現場の近くにでも來られたりでもすると、直接的な行をとる予定の私の場合、特に危険だ。どう言い繕っても、誤魔化しはきかないだろう。
今はつけてきていないみたいだけれど、いつこちらに戻ってくるかわからない。
もし戻って來たら、これからやる作業に支障が出てしまう。
ポロシャツのつきは屈強だった。いくら訓練をけているからといって、彼とやりあえば、無事で済むことはないだろう。
だが、彼らが私を泳がそうとしているのか、まったく存在に気がついていないのかは未だ不明だ。案外、関係しない人間を追っている可能もある。
いずれにせよ、注意しすぎて困ることは何もない。
前だけではなく背中にも神経を注ぎながら、私は通路を直進していった。
道中心ビクビクしていたが、幸い何事も無く無事通路を通り過ぎ、私が作業を行う場所――機関室の前へ到著することに功した。
迷いもせず、ドアを二回ノックした。
向こう側から、「はい」という返事の聲。続いて、ガチャガチャと鍵の施錠を解く音が聞こえてきた。
ドアが開く。
駅員用の帽子を被った中年男が顔を見せた。し疲れているのか、気だるそうな顔をしていた。
ひとりで長時間労働をさせられているのかしら。
私はそう見積もった。
現在、機関室にはこの男しかいないようだ。
デフレが続くこの世の中では、人件費を極限まで削るため、どの職種でもワンオペが橫行している。なので、機関室にはひとりしかいないとフリッツは予想していた。
彼だけでロサンゼルスまでスカイブリッジライナーの運転を続けるとはとても正気の沙汰とは思えない。
だが、それが現在の日本であり、異常こそが正常な世界に私たちは生きているということになるなのだろう。
何にせよ、フリッツの予想の通り機関室には今ひとりしかいない。
この事実は、危険な作戦をこれから行おうとする私たちにとって僥倖といえる。
「何かご用ですか」
その中年男――スカイブリッジライナーの車掌はぶっきらぼうに訊いてきた。
「ちょっと、列車を止めてしいんです」
私は腕を後ろに組みにこりと笑ってから、そう言った。
油斷をうために可らしい聲を使う。
車掌は初めきょとんとした目をして、何を言われたか理解できないという表をしたが、すぐに怪訝そうに眉をしかめた。
サー、と車両のすれ違う音がする。
トウキョウへ向かうスカイブリッジライナーが反対側から來たのだろう。
束の間何も話さなかったせいか、車掌の眉間にさらに皺が寄る。
まあ、それも當然だろう。
自分だって見知らぬ人間にこんなことを言われたら、どうかしているんじゃないのかと間違いなくそいつの神経を疑う。
そんなことはわかってるんだけれどね。
のでそう零してから、若干くたびれた制服を著ている車掌へと近づいた。
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