《【窟王】からはじめる楽園ライフ~萬能の採掘スキルで最強に!?~》二十九話 水道をお願いしちゃいました!
「これって……溫泉?!」
フーレの聲と共に、じゃぶじゃぶとした音が窟に響く。
俺が掘った場所の一部に小さなができており、そこからはお湯が湧き出ていた。
「溫泉? 確か、天然の浴場だったか?」
俺が確認するように訊ねると、フーレは機嫌良さそうにうんと頷いた。
「うん! 私たちの故郷では近くに溫泉があって、皆そこでを洗ってたんだ!」
フーレが言うには、リエナを始めとするベルダン族のゴブリンは、毎日そこでを洗っていたようだ。
やけに皆綺麗好きだと思ったが、そういった理由もあったらしい。
「へえ……これを上手く使えば、もう魔法を使わなくても、冷たい水でを洗わずに済むな……」
しかし、この地下はいったいどうなってるのだろうか?
お湯が溜まっていて、こうやって噴き出ているのだろうが……
とすると、この下は海?
いや、俺の知ってる海はこんな湯気を発したりはしない……
いずれにせよ掘り過ぎて、海にぶち當たるのは避けなければ。
そこらへんは【窟王】の補助機能で、大丈夫だとは思うが……
というより……このままお湯が出続けたら、しずつこの窟も水沒してくんじゃ?
後ろからエレヴァンが俺に言った。
「おお! こりゃまた良いものを掘りやしたね、大將!」
「ああ。でも、飲んだりに掛けていい水かは、調べてみる必要が有るな……って」
今回も早速、を張ってこのお湯を調べてくれる男が現れた。
俺が待てと言う前に、その男マッパはお湯を飲む。
俺はとりあえず回復魔法を準備する……が、マッパは倒れなかった。
むしろ味しかったのか、満面の笑みで何回もずるずると口にするのであった。
どうやら、ただちにに悪影響が出るお湯でないことは確かなようだ。
しかし、後々調子が悪くなることも考えられる。
毒を探知するエクストラクションという無屬魔法を、使ってみる。
「……毒も大丈夫そうだな。ハイネス」
俺は後ろにいるコボルト、ハイネスに振り返る。
このハイネスはよく鼻が利く。
昨日聞いたところによれば、ハイネスは【狩人】の紋章持ちで、矢の扱いなどに長けていた。
そして、【狩人】は匂いをかぎ分ける力も強くする。
コボルトはただでさえ嗅覚の優れた種族なので、ハイネスはティベリス族一の狩り上手だと言われていたようだ。
「何か変なにおいとかじるか?」
「いえ、特に変わった匂いはないですね……ここだとそこのマッパさんの……いや、失禮しました」
ハイネスは何かを言いたげだったが、途中でやめた。
言いたいことは分かる。
マッパはを洗わせてはいるが、鍛冶で人一倍汗をかくのだ。
俺たちはそこまでじないが、鼻の良いコボルトたちにとっては、マッパの匂いが強烈にじるのだろう。
そういった匂いを消すためにも、溫泉を作ってもいいかもしれない。
「そっか…… とにかく、無害のようだな。だけど、これをどうしようか……」
ここを整備して、お湯を貯める井戸のようにするか?
でも、定期的に外に汲みださないと溢れてしまうだろう。
なんとかして、王都の水道橋のように自的に外へ運ぶことは、できないだろうか?
が、あれは山から徐々に下るような構造となっている。
水を上に運ぶなんて、魔法でも使わない限りは難しい。
そんなことを気にしている間にも、お湯はどんどんと溜まっていく。
俺の足にも、お湯が迫ってきた。
俺はダメもとで、マッパに聞いてみた。
「マッパ、聞いてくれ」
マッパはお湯を飲むのを止めて、俺の方に振り返る。
「このお湯を、外に運ぶことってできないかな?」
俺は指でお湯を差してから、窟のり口の方へ向けた。
すると、マッパは腕を組んで難しい顔をする。
言葉の意味が理解できないというよりは、俺の意図を汲んだうえで悩んでいるようだ。
やがて、マッパはうんと頷いた。
「おお? やってくれるのか?」
マッパは再びうんうんと首を振り、ついてこいと俺を促した。
ついていくと、そこは鍛冶場であった。
マッパは俺に向かって、様々な鉱石をポンポンと叩いてみせる。
「鉱石だな、ちょっと待ってろ」
マッパは鉱石をくれと言ってるようだ。
何がしいかぐらいであれば、互いに分かるようにはなってきたと思う。
俺はインベントリから、みのものを出してみた。
石材も求められたので、工房機能で作して。
しかし、マッパはまだ足りないと、鉄鉱石を中心に數種叩いてみせる。
なので、更に鉱石や砂を出してみる。
相當鉱石を使うみたいだな……
気が付けば、掘立小屋が一軒ほどの大きさの鉱石の山ができていた。
こんなに掘っていたのかと半ば心していると、マッパはもういいと手を前に出した。
するとマッパは、鉱石を種類ごとに分別していく。
そしてそれをいつものように、金屬として加工していくのであった。
いつ見ても見事な手際……金槌を握っている時は、何かすごそうな職人みたいだ。
実際、職人技ではあるのだが……
俺と一緒に見ていたフーレも、おおと聲を上げるばかりだ。
そうして出來上がった金屬を、マッパはいくつもの道や鋳型を用いて、更に加工していく。
見たこともない部品を作っているようだった。
中でも、人を寢かしたぐらいの長さがある丸い鉄柱が目立つ。
し覗くと、中は空となっていた。
マッパは大量にそれを作り終えると、ふうと額の汗を拭った。
そして鉄柱を軽々と持ち上げ、さっさと窟に向かっていく。
なんだか一人でやらせて悪いな……
俺もそれを手伝おうと、柱を持ち上げようとしたが……重くて持ち上がらない。
「あ、私も手伝うよ!」
フーレや周りの魔たちも手を貸してくれるが、し浮く程度でやっとだ。
俺たちはさすがに無理と判斷し、鉄柱を下す。
「これは無理そうだな……そうだ。ゴーレムたちなら、手伝えるんじゃないか?」
俺はスライムのシエルに命じ、ゴーレムを集めた。
そしてゴーレムたちに、この鉄の柱を運ぶように命じたところ、彼らは難なく鉄柱を持ち上げるのであった。
「これから重いは、ゴーレムに任せた方が良さそうだな……」
「悔しいけど、私たちじゃ無理だもんね……」
フーレはそう応じてくれた。
人もそうだが、種族には得手不得手がある。
それぞれ得意なことをやってくべきだろう。
「鍛冶もそうだが、手伝えることはもうなさそうだ……俺たちは素材集めに集中しよう」
「うん、そうだね。なんかあったら、マッパさんも來るだろうし」
フーレと俺は、お湯の件をマッパに任せ、採掘に戻ろうとした。
だが、その前に鉄柱を持ち上げるミスリルゴーレムの十五號に、マッパを手伝ってやってくれと命じた。他のゴーレムにもそう伝えるようにと。
というのも、十五號たちは言葉など教えてもいないのに、俺の命令を聞いてくれた。
なので、マッパの意思も理解してくれるんじゃないかと思ったのだ。
十五號は分かったのか分かってないのかは不明だが、鉄柱を持って窟へ降りていくのであった。
「さて、じゃあ俺たちも行くとするか……うん?」
俺は周囲を見渡した。
何やら海側の方から、地面が揺れた気がしたのだ。
埋立地ではリエナが畑の水やりをしていたりと、いつもと変わらない様子だ。
「フーレ、何か今揺れなかったか?」
「え? そうかな? 多分、ゴーレムが歩いた震じゃない?」
「そっか……海のほうからだと思ったんだが……」
俺は不思議に思いつつも、フーレと共に窟へ戻るのであった。
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