《スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜》第33話 波導訓練
牧場の朝は早い。まだ日の出ていないうちからランドウォーカー牧場の住人たちは起き出して朝の準備を始める。
フウカはかなり寢覚めがよい。まだ暗い時刻にドアをノックして呼んでも目をぱっちりと開いて部屋から出て來た。
アメリア姉ちゃんとグレイスおばさんも慣れたもので、既に臺所でてきぱきと朝食と晝食の準備を始めていた。
手早く朝食を摂った後、腹を空かせて鳴き始めている畜舎のアリュプ達に餌をやり、姉ちゃんと二人で手分けしてを搾って回る。
俺たちはつつがなく作業を終え、終わったアリュプは畜舎から外へ解放してやる。
俺が王都へ行く前は三人で家事、ミルクの配達や町での買い、畜舎作業とアリュプたちを率いて牧草地を回るなどの仕事を分擔していた。
俺がいなくなったことで二人の負擔が増していることはわかっている。
申し訳なく思うけど、今はミルクと皮を譲る代わりに町から手伝いを呼んでいるみたいだ。
運搬用に飼っているタウルに取り付けた荷臺に搾りたて熱々のミルク瓶を運んで次々と載せていく。
絞ったミルクは互に二つの町へ運んで売ったり食べと換したりする。これは主に姉ちゃんの仕事だ。
運搬作業が終わる頃アリュプ達は畜舎から出きっていて、俺は取り出してきた角笛を吹く。
この笛はとりわけ大きな雄アリュプの角から作られていて、出る音にはアリュプ達を引き寄せる力がある。
強く大きな雄の角ほど笛の効果は大きいとおじさんに教えてもらった。
「さ、いくよフウカ」
「うん」
空は白み始めている。俺たちが歩き出すとアリュプ達も群れを作って後を付いてくる。
こうして群れを導しながら牧草地を巡るのだ。
アリュプは頑丈な顎と歯と胃袋を持っているために山岳に生えるい草も食べることができる。
餌代の節約と、病気に負けない丈夫なを作るために欠かせない日課だ。
俺たちは牧場の門を出ると敷地を回り込んで森に三十頭ほどの群れを導する。
最初の牧草地は森を抜けてすぐ。その後は山を登る。
「ふふっ、ナトリがモコモコ達をってるみたい」
「この笛のお蔭だよ。フウカも吹いてみるか?」
フウカはぼうぼうと楽しそうに角笛を吹く。
後から鳴き聲を上げて従うアリュプ達をちらちらと伺いながら嬉しそうにしている。
今日は結構歩くことになるけどフウカなら大丈夫だろう。
慣れてないとはいえ、フウカの飛力を見るにドドである俺の方が疲れるのは先になるだろう。
まだ暗い森の道を歩き、そこを抜けるとちょっとした草地が広がっている。草地の中程まで來ると俺は角笛を長めに吹いた。
アリュプ達は群れを崩して、草を食むために散らばっていく。
まだそんなに歩いてないが最初の休憩地だ。俺たちは手頃な巖に腰を下ろした。
「あの子たちはどうして笛を吹くとついてくるの?」
「野生のアリュプは強い雄が群れを率いて牧草地を巡るんだ。この笛を吹くと俺を群れのリーダーと認識してくれるらしい」
「へえー」
十分に草を食んだタイミングで笛を吹きアリュプを集める。
フウカには群れの數の確認を頼んでいる。大丈夫だというので、俺たちはさらに先に進む。
そうして草地を巡り山道を群れを率いて登っていく。雲の中にった時は笛を吹きつつ、短い草の生えた緩やかな斜面を歩く。
こうして群れで移している限りはモンスターも近寄ってはこない。
太がすっかり真上あたりまで登る頃、中腹にある草地にたどり著く。
その先にちょっとした林があり、そこを抜けると開けた山間のなだらかな地形に出た。
中央にき通った湖があり、周囲にはとりどりの花が咲いている。広い花畑の向こうには青空をバックに山頂がめる。
ここは俺のお気にりの場所の一つだ。
アリュプ達を自由にさせ。俺たちは晝休憩にった。
「わあー、すっごくきれい……!」
フウカが嘆の聲をらす。フウカにはぜひこの綺麗な場所を見せたいと思っていた。
広がる花畑のなだらかな斜面を雲がなぞっていく。蒼く澄んだ湖にはその向こうの山頂が映り込み、とりどりの花々がさわさわと風に揺れられている。
まるで天國かというようなしい景に俺も久しぶりに見とれた。
フウカと二人で花の合間の草地に腰を下ろし、眼下に広がる麓の景を眺める。
そんなに大きな島ではないから、ここまで登れば町の方まで見渡すことができる。
「お気にりの場所なんだ。昔は嫌なことがあるとよくここに來た」
「ナトリの故郷はすごいね。こんなにきれいな場所があるんだもの」
俺たちは鞄からおばさんの作ってくれた弁當を取り出して食べ始める。
雄大な景を眺めながら食べる晝飯は格別で、それが誰かと一緒なら尚更だ。
晝食を食べ終わるとフウカはをかし始めた。
宙返りしながら高く飛び上がったり、くるくると回転するようにして花畑をふわふわとあちこち飛び回る。
俺は草地に腰掛けてフウカが飛ぶのを見ていた。
フウカの周囲で渦巻く風に舞い上がった花びらが、彼の飛ぶ軌跡を描き出していく。
橙の明るい髪が風になびいて輝き、鮮やかでとてもしい景だった。
フウカはそれが當たり前のように、ごく自然に飛ぶ。飛力には個人差があるものだが、彼は人並外れているように見える。
俺なんかはそもそも飛ぶことすらできない。
普通人間は多かれなかれ大気に満ちるフィルをじとることができ、日常作の中にもその恩恵をごく自然にけているものらしい。
跳躍力、敏捷、腕力に至るまでをかす時に発生するフィルによる補助の強さは人それぞれだ。
「飛ぶ」というのがどういった覚のものなのか俺には想像もできないが、フウカほどの飛力の持ち主であれば、風向き次第でほとんど地面に足を著けず長い距離を飛び回ることも可能なのだ。
花畑でひとしきり飛び回り、気が済んだのか戻って來て隣に座ったフウカに聲を掛けた。
「実はこの島に寄ろうと思った理由は他にもある」
「何?」
「王都でユリクセスに襲われたり、ゲーティアーと追いかけっこしたり……、俺たち結構ひどい目にあってきたよね」
「そうだね……。もう怪我するのは嫌」
「なんとか切り抜けられたけど、毎回ぎりぎりだった。だから思ったんだ。
この先またそんな事態に巻き込まれても、俺たちが自分自の力を正しく理解できていればもっと危険を犯さずに対処できるんじゃないかって」
忘れてしまってはいるが、フウカは強力な波導の力を持っている。
自分の力を自覚することは護にも繋がるし、旅をする上で波導が使えるというのはとても役に立つ。
任意で使えるように一度ちゃんと練習してみるべきだと思った。
ここクレッカなら人の居ない場所で心置きなく波導の訓練ができる広い土地がある。
「ちゃんと出せるかなぁ……」
座ったままの向きをフウカの方にやって向かい合う。
「いいかい。実際にフウカはもう何度も波導を使ってる。出せた時のこと、自分の出したものをはっきりと心に思い浮かべるんだ。自分にはできる。そう強く思うことが大事だよ」
クレイルのけ売りだが、波導(ウェザリア)についてフウカのために初歩的なことだけ教えてもらっている。
フウカはなんだか難しい顔をして、そっと両手を前に出す。
「んんっ……!」
そのままの姿勢でしばらくフウカは手先の空間を睨んでいた。
やがて、両手の先にぱちぱちとしだけが弾けた。
「おおっ! いいぞフウカ、思い出すんだ。たとえば波導を使って俺を守ってくれたときの気持ちなんかを……!」
「……んん、んんんー!」
瞬くの粒子は、次第に表札サイズの半明の板となった。
さらに不安定な明滅を繰り返しながら、じわじわと上下左右に広がっていく。それを固唾の飲んで見守る。
フウカの波導は鍋の蓋くらいの大きさまでじりじり広がった後、消えていった。
「おおお! すごい、できてたぞフウカ!」
「あは……。やったね!」
ひとしきり発功の喜びを分かち合った後、ズボンのポケットから折りたたんだ紙片を取り出して広げる。
浮遊船の甲板で暇つぶしに聞いたクレイルの話を紙に書き留めておいたものだ。それを読みながらあいつの話を思い出す。
この紙片がきっとフウカの力を引き出す鍵となってくれるはずだ。
聖女が來るから君を愛することはないと言われたのでお飾り王妃に徹していたら、聖女が5歳?なぜか陛下の態度も変わってません?【書籍化&コミカライズ決定】
「私は聖女を愛さなければいけない。だから君を愛することはない」 夫となるユーリ陛下にそう言われた私は、お飾りの王妃として靜かに日々を過ごしていくことを決意する。 だが、いざ聖女が召喚されたと思ったら……えっ? 聖女は5歳? その上怯え切って、體には毆られた痕跡が。 痛む心をぐっとこらえ、私は決意する。 「この子は、私がたっぷり愛します!」 身も心も傷ついた聖女(5歳)が、エデリーンにひたすら甘やかされ愛されてすくすく成長し、ついでに色々無雙したり。 そうしているうちに、ユーリ陛下の態度にも変化が出て……? *総合月間1位の短編「聖女が來るから君を愛することはないと言われたのでお飾り王妃に徹していたら、夫と聖女の様子がおかしいのですが」の連載版となります。 *3話目だけ少し痛々しい要素が入っていますが、すぐ終わります……! *「◆――〇〇」と入っている箇所は別人物視點になります。 *カクヨムにも掲載しています。 ★おかげさまで、書籍化&コミカライズが決定いたしました!本當にありがとうございます!
8 142【第二部連載中】無職マンのゾンビサバイバル生活。【第一部完】
とある地方都市に住む主人公。 彼はいろいろあった結果無職になり、実家に身を寄せていた。 持ち前の能天気さと外面のよさにより、無職を満喫していたが、家族が海外旅行に出かけた後、ふと気が付いたら町はゾンビまみれになっていた! ゾンビ化の原因を探る? 治療法を見つけて世界を救う? そんな壯大な目標とは無縁の、30代無職マンのサバイバル生活。 煙草と食料とそれなりに便利な生活のため、彼は今日も町の片隅をさまようのだ! え?生存者? ・・・気が向いたら助けまぁす! ※淡々とした探索生活がメインです。 ※殘酷な描寫があります。 ※美少女はわかりませんがハーレム要素はおそらくありません。 ※主人公は正義の味方ではありません、思いついたまま好きなように行動しますし、敵対者は容赦なくボコボコにします。
8 183クラス全員で異世界転移!?~廚二病が率いる異世界ライフ~
日常、ただただ平凡、それは幸せだった。 ある時いきなり表れた仮面の男に 異世界へ飛ばされたクラス一同 大虎や、龍が現れパニックになるクラスメイト達 しかし、そんな狀況でも 一人、冷靜に次を考えるある男がいた!?
8 145現代帰ったらヒーロー社會になってた
主人公 須崎真斗(すざきまさと)が異世界に飛ばされ魔王を倒して現代に戻ってくるとそこはヒーロー社會と化した地球だった! 戸惑いながらもヒーローやって色々する物語バトル有りチート有り多分ハーレム有りハチャメチャ生活!
8 52永遠の抱擁が始まる
発掘された數千年前の男女の遺骨は抱き合った狀態だった。 互いが互いを求めるかのような態勢の二人はどうしてそのような狀態で亡くなっていたのだろうか。 動ける片方が冷たくなった相手に寄り添ったのか、別々のところで事切れた二人を誰かが一緒になれるよう埋葬したのか、それとも二人は同時に目を閉じたのか──。 遺骨は世界各地でもう3組も見つかっている。 遺骨のニュースをテーマにしつつ、レストランではあるカップルが食事を楽しんでいる。 彼女は夢見心地で食前酒を口にする。 「すっごい素敵だよね」 しかし彼はどこか冷めた様子だ。 「彼らは、愛し合ったわけではないかも知れない」 ぽつりぽつりと語りだす彼の空想話は妙にリアルで生々しい。 遺骨が発見されて間もないのに、どうして彼はそこまで詳細に太古の男女の話ができるのか。 三組の抱き合う亡骸はそれぞれに繋がりがあった。 これは短編集のような長編ストーリーである。
8 161異世界モンスターブリーダー ~ チートはあるけど、のんびり育成しています ~
ある日突然、美の女神アフロディーテにより異世界《アーテルハイド》に送りこまれた少年・カゼハヤソータ。 その際ソータに與えられた職業は、ぶっちぎりの不人気職業「魔物使い」だった! どうしたものかと途方に暮れるソータであったが、想定外のバグが発生! 「ふぎゃああああぁぁぁ! 噓でしょ!? どうして!?」 ソータは本來仲間にできないはずの女神アフロディーテを使役してしまう。 女神ゲットで大量の経験値を得たソータは、楽しく自由な生活を送ることに――!?
8 130