《スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜》第46話 中央區役所
プリヴェーラの街に降り立った俺たちは、ひとまず大通りから引っ込んだ靜かな路地に立つ安そうな宿に部屋を借りた。
一応俺たちにはまだゲーティアーから浮遊船を守った時にもらった謝禮金が殘っている。
別々の部屋でいいかフウカに聞いてみたけど、フウカは一緒がいいと言うので結局こじんまりとした二人部屋にした。段々と同部屋で寢泊まりすることに抵抗がなくなってきている。
宿に荷を降ろすと早速外へ出かける。通りは明るく道行く人々で賑わっていた。
プリヴェーラは外から訪れる人が多いのか、土産屋やレストラン、カフェの類が多い。晝を過ぎて二人とも腹が減って來ていたので、手頃なレストランにって晝食にした。
プリヴェーラ産トレトアユタヤのステーキはふっくらした白が大層味だったが、俺はうっかりフウカの食事量を失念していた。思わぬ出費に早く仕事にありつかねばと々焦りをじつつ、腹一杯で満足げな笑顔を浮かべるフウカと一緒にレストランを後にした。
水路脇の通り道はかなり整備され手れが行き屆いている。まだ著いたばかりだけど、外から來る客を意識しているのかとても清潔な街という印象が見けられる。
加えて街のいたるところに凝った意匠が為されている。しい曲線を描いた手すりや、そびえ立つ細かな裝飾を施された石柱など。
街中を歩くだけで、まるで語の舞臺にり込んだみたいでわくわくする。
これだけ街が整備されているってことは、この街は王都と同じように居住するためには住民登録をして稅を支払う必要があるんだろう。
仕事に就いたり部屋を借りるためにもまずは役所へ行かなければ。フウカの実家についても調べたいしな。
二人で駅前広場に戻って街の案図を見上げる。プリヴェーラの街は大まかに東西南北と中央の五つのエリアに區分けされているみたいだ。
街の中心から四方に大きな水路が通っており、それが區域の目印になる。俺のいた王都五番街よりも大きな街のようだ。
「役所はちょっと遠いな」
「ねぇねぇそこのお兄さん!」
下から突然元気な聲が聞こえてくる。足元を見下ろすと、縦長のとんがり帽子を被ったラクーンが俺をくりくりとよくく目で見上げていた。
「ん、何?」
「行きたい場所があるならボクが案するよ!」
手慣れた聲かけは観客相手に商売している子供か。……まかせて大丈夫かな。足元見られるのが怖い。
とはいえ、できるだけ早く行したいのも事実だ。
「お兄さんこの街、初めてでしょ?」
「うん……、まあ」
「この街はね、水路を使った方が目的地まで早く行けるんだよ。ボクが舟で乗せてったげる!」
「なるほどね。二人だといくらかな?」
「一人20エウロ。二人だと割引で38エウロだよ」
うーん、高い気がする。俺は隣のフウカに値下げ渉を頼んだ。
「ねえキミ。もうちょっと安くしてくれると嬉しいなぁ」
「うーん、仕方ないなぁ……。おねーさんキレイだから半額にしてあげるよ。特別!」
「やったぁ。ありがとね」
ラクーンの年はフウカの笑顔のお願いに顔をし赤くして照れた。いいぞ。やっぱりお願いはの子に限るね。
気前よくまけてくれたように見せてるけど決して安くはないと思う。しかしこの辺が妥協點だろう。あまり贅沢はできないが、観のつもりで一度舟に乗せてもらおうか。フウカも喜びそうだし。
年の後について水路に係留してあるいくつもの小舟のうちの一つに乗り込む。舟の形は同じだが、それぞれカラフルな塗料で凝った模様などが描かれている。
目的地を告げると年は舳先についた小さな臺にちょこんと立ち、長い櫂をって水路へ舟を出した。
「エアル二名さまごあんなーい」
「ここはラクーンが多いね」
「ボクらは水辺に暮らす種族だからプリヴェーラは住み心地がいいんだ」
水路を行き來する他の舟をっていのは皆ラクーンだ。彼らは水の扱いに長けているから船頭の仕事には向いてるんだろう。
もっともラクーンだけなら舟を使わずに泳いだ方が速いらしく、実際に水路を泳いだり勢いよく水中から歩道へ飛び上がるラクーンの姿が見られた。水路から上がったラクーンが、全をぶるぶると震わせて水切りし、びしょ濡れになった通行人が悲鳴を上げていた。それを見てフウカが可笑しそうに聲を上げて笑う。
フウカは水路を進む舟の上から半分水沒したような街の様子を興味深げに眺めている。俺もあちこち目移りしてどうも落ち著かない。年の舟は特徴的な建や場所を通ると解説を付けてくれるサービス付きだった。
この街はフウカの故郷かもしれない。街の景を見て、彼が何かを思い出してくれるといいが。しばらくはここで暮らすことになるだろう。早く家や関係者を探し出してやりたい。
「プリヴェーラ中央區役所にとうちゃーく」
舟は比較的大きな船著場に係留された。歩道に上がると目の前は中央に石像の並び立つ大きな噴水を擁した広場だった。多くの人々が憩っており、隨分賑やかにみえる。
奧には広場に面した三階建ての大きな建が建っている、その水屋の古めかしい建がプリヴェーラ中央區役所らしい。
ラクーンの年に20エウロを支払って禮を言う。毎度、また乗ってね! とにんまり笑って年は広場の方へちょこまかと駆けて行った。きっと次の客を探しに行ったんだろう。
俺たちも広場を橫切って役所の白い階段を昇り、建にる。らかで重厚のある石の床を歩いて、付窓口が並ぶ部屋にった。
付ごとに座席の列が設けてあり、順番待ちの人々が座っている。二人で市民課の座席に腰掛けて順番を待った。
順番が來ると俺とフウカは市民登録をし、それぞれ1エインを支払った。この街では市民階級に応じた稅金を毎月支払い市民権を更新することで各種公共サービスとプリヴェーラの居住権を得ることができる。ただ暮らすだけで、二人で毎月2エインも取られるのだ。
うーん、やっぱり王都の住民稅よりも高いな。価も高いんだろうか……。でもこれを払わないと部屋も借りられないし街で仕事に就くこともできない。怪我をした時も市民病院で割引が効かない。
この街で暮らすにはそれなりに稼いでいかないと厳しいようだ。
俺たちは市民制度の規約などの長い説明をけた後市民証をけ取った。王都では住民証が報記録エアリアだったけど、さすがにあそこほどの最新技を導しているわけじゃなかった。
街へ來ていきなり出費が重なったことにしびびりながらも、早速市民特権を使って住民報の調査を依頼した。
職員の説明によると、この街の市民制度はまだ始まってから年數が淺いのだとか。そのため古い住民の報は確度が落ちる。ある程度しっかりと調べ上げることは可能だが、他の區役所からも市民報を取り寄せなければいけないために時間がかかるらしい。
元よりこの街に住み込む予定なのだから時間はある。後日調査結果をけ取ることに同意してひとまず俺たちは窓口を去った。
「調べるのに日數がかかるんだなぁ」
「ちゃんと見つけてくれるといいね」
三階まで中央が吹き抜けになっている市役所本館の階段を登る。二階の廊下を歩き、求人課というプレートがかけられた木の扉を開く。
扉のすぐ側のカウンターに腰掛ける職員に市民証を提示し、これまた市民特権である求人報の閲覧許可を得た。
広い部屋で、中には衝立のような掲示板がいくつも並んでいる。業種ごとに分けられた掲示板にはびっしりと紙がピン留めされている。その紙の洪水とも言うべき様相にはなかなかに圧倒された。
ここには街で労働者を探している雇用主の報が張り出されている。
元配達局員である俺はできれば前と同じ業種の仕事がしたかった。きっちりこなせていたとは言えないが業務容は似たようなものだろうし、中途半端に辭めた未練もある。経験者なら優遇してくれるかもしれないし。
部屋をうろつく人々と同じように、俺とフウカも掲示板の前を行ったり來たりしてびっしりとり付けられた求人票を見て回る。
俺はカバンから黒炭筆とメモ用のはぎれを取り出して配達関係の求人票を中心に容を控えてまわった。
「私にもできる仕事ってあるのかな」
求人票を見上げてフウカが呟く。
「そうだなぁ。資格や技が必要なものはわからないけど、接客系とかならできるかもしれないね。フウカも仕事したいの?」
「うん。ずっとナトリにまかせきりだもん。このままじゃナトリが大変だよね」
「…………」
俺はフウカの顔をまじまじと見てしまう。こういってはアレだが、彼は出會ってから今まで金銭面に関してはかなり無頓著だった。食費や日用品に関しては全部俺が出しているし。
フウカがもしお嬢様だったら自分で支払いなんかしないだろうし、記憶がなければ尚更で仕方ないと思っていたから、俺が支払うことに不満を持っていたわけじゃない。それでもフウカがそれを申し訳なく思ってくれているのはちょっと嬉しかった。
けど俺としては彼に負擔を強いるのはできるだけ避けたいとも思う。甘いかな。
「俺はできればフウカの分まで稼ぎたいと思ってるけど、君が何か仕事をやってみたいっていうなら止めないよ」
「ナトリの助けになれるならやってみたいな」
「そうか。でもフウカの場合、ここで求人を探すよりもまずは街で興味のある仕事を見つけてみるのがいいんじゃないかな」
「そう?」
「うん。実際に見て回って、自分のやってみたい仕事が見つかったならそれが一番だからね」
「わかった。そうしてみるね」
フウカには波導治療院を勧めようか迷った。しかし、フウカの治癒波導は正直異常なレベルだと思う。目立ち過ぎて大変なことになるではないかと考え、あえて言及しなかった。
一通り用事が済むと俺たちは市役所を出た。來るときは優雅に舟を使ったけど、これから先はいつ仕事に就けるかもわからない。路銀が盡きないようなるべく節約していかなければ……。
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