《スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜》第52話 協力
「……おい、あれってマグガメルじゃねぇか?」
「本當だ。ガメルの上位種、いきなりレベル3のモンスターだね」
翌日、俺たちは三人でマージャ島と呼ばれるトレト河の中州までやってきていた。中洲といっても結構な広さがあり一つの島のような規模だ。広大なトレト運河の河中にはこういった陸地が無數に存在する。
島は街から最も近く、雨のない期間には歩いて渡ることもできるらしい。島には木々が生い茂っておりモンスターが住み著いている。俺の歩き回っていた水沒地區よりもし強いモンスターが生息しているらしい。
俺たちは河岸付近に転がっている大きな巖影にを潛めながら河岸を進んでいた。半刻ほど経つ頃、川岸を這う大きな川亀の姿を見つけた。
俺たちはを潛めてモンスターを観察する。クロウニーが俺たちに問いかけた。
「二人とも、マグガメルと戦した経験は?」
「いーや」
「ないよ」
「僕も初めて遭遇する。でも特徴はわかってるね?」
俺とエルマーは頷く。資料で見てどんなモンスターかは大知っている。
「僕らなら倒すことは可能だと思う。行くかい?」
「もちろんよ」
「……やろう」
俺たちは狩人だ。モンスターの素材にどれくらいの価値があるかも知っている。
レベル3といえば、あのグレートアルプスと同格の存在ということになる。あれは特別強力な個だったようだけど、もしかしたらそれくらい強いかもしれない。
やれるのか、俺たちで。でも勝算があるなら逃す手はない。
「……という作戦でどうかな」
三人の中では最も狩人歴の長いクロウニーが即座に作戦を立案してくれる。頼もしい。作戦共有が済むと俺たちは別れて行を開始する。
海岸線をゆっくり進む巖のような巨大亀の前に最初に飛び出したのはクロウニ-だ。マグガメルは彼に気がつくと、甲羅からつき出た皺だらけの首を擡げてクロウニ-を睨み、のような口を大きく開いて威嚇し始めた。突如現れた人間の姿を見て興したらしい。
大亀は巨をかしクロウニーに迫るが、彼は後方に大きく跳躍して逃れる。
空中で弓を構えて目にも留まらぬ速さで矢を番え、マグガメルに向かって鋭い一撃を放つ。
しかしモンスターは首をわずかに振ると、巖石のような甲羅で矢を防ぎはたき落とした。まるで効いてない。クロウニーは新たな矢を番える側から次々と放っていく。多くは甲羅に防がれたが、多質のらかい大亀の首筋にも突き刺った。
それがモンスターの逆鱗にれたのか、大亀は首と四本の足を引っ込めて甲羅に閉じこもった。資料によるとこれが本気になった合図。マグガメルはこの形態になると危険度は大幅に増す。
甲羅が回転を始め、次第にその速度を増していく。
大亀は高速回転し、川岸の砂を巻き上げながらクロウニー目掛けて突っ込んで來る。
クロウニーは大きく飛びすさって突進を避けながら後退する。亀の回転攻撃をすれすれで躱しながら立ち回っているが、このままではとても手がつけられない。巨大亀のまさに攻防一となった形態はレベル3に相応しい脅威度だ。
クロウニーはマグガメルによって逃げ場のない巖場へと追い込まれてしまう。突進する亀が巖場に激突する音が辺りに響き、地面が揺らぐ。
しかしクロウニーはすでに狹い砂地の三方を囲む高い巖場を駆け上がり、なんなく巖場の上までたどり著いている。ガメル系のモンスターは平地で戦うのは危険とされ、高低差のある地形にい込むのが定石のようだ。
「頼むよエルマー!」
「おう!」
巖場の出口に立ち塞がるのはエルマーだ。彼にターゲットを移したマグガメルは、今度はエルマーに向かって回転突進をしかける。
大巖のような巨が小柄なエルマーを砕する勢いで急速に迫る。
「うおおおおおおおっ!!」
エルマーは気合と共に両腕を広げ、その小さなで亀をけ止めた。當たったものをり下ろす勢いの高速回転を、激しい音と火花を散らしてエルマーは両手に裝著したガントレットで抑え込もうとする。
力の拮抗はし続いたが、甲羅の回転力が次第に落ち、やがて完全にストップする。
あの高速回転を完全に止めきるなんて、とんでもない怪力だ。ラクーンは意外と力が強いとは聞いていたけどエルマーの怪力は桁外れだ。
「ナトリぃ!」
「わかってる!」
最後は俺の出番だ。巖場の檻、大亀を抑え込むエルマーの側へと走り込み、巨大な甲羅の首が突き出していた箇所へ回る。
マグガメルは鉄壁の甲殻を有するがそれと引き換えにが重く、気軽に飛んで逃げるような挙はとれない。最初からここに閉じ込めるつもりで巖場にい込んだのだ。
首や手足が甲羅に引っ込むと手足のには蓋がされるようだ。甲羅と遜ない固そうな蓋によっては完全に塞がれている。これをこじ開けるのは相當手間がかかるだろう。普通なら、だが。
王冠《ケテル》を呼び出し、その蓋に突きつけて杖の引き金を立て続けに引く。
王冠のはを塞ぐ蓋を貫き、甲羅の部をズタズタに掻き回す。引き金を引くたびに亀の巨が微かに震えるように振する。やがてぴくりともかなくなり、完全に沈黙した。
「ふう」
二人が俺の側へ近寄って來た。巖場の上からひらりと飛び降りて來たクロウニーが口を開く。
「二人とも、この辺りにモンスターの気配はなかった。丁度いいしここで解しよう」
「そーだな。早ぇとこ素材をいただこうぜ」
モンスターを討伐しても気は抜けない。素材を回収する前に新たな敵が現れれば回収できなくなることもある。そうなれば戦い損だ。皆を以て経験したことがあると思う。
解が終わって初めて狩りは完了するのだ。俺たちは大急ぎで大亀の解にとりかかった。
§
「はっはっは! 今日は気分がいいぜぇ!」
「いやあ、首尾よく行ったね」
マージャ島から街へ戻り、バベルに素材を引き渡した後俺たちは連れ立って近くの酒場へとやってきた。今日の果は上々で、素材を換金し山分けした報酬で懐の溫まった俺たちは酒盛りにここを訪れた。
「銀貨5枚分も稼げるとは。やっぱり単獨《ソロ》でやるより効率いいんだなぁ」
「いきなりレベル3の大をやれたしね」
「俺っちのおなんだぜ。謝しろよぉ」
「うん。すごかったなエルマー。水中でも戦えるなんてさ」
「だろぉ?」
今日のエルマーは大活躍だった。得意の水中戦でシーラスを叩きのめし陸へ打ち上げたりと、水辺での格闘は他の種族にはマネできない能力だ。ラクーン式エリアルアーツといったところか。
「いやナトリの力もなかなかだよ。君の力があるからこそマグガメルのような大も仕留められた。モンスターのい皮や甲殻をモノともしないんだからな。すごいよ」
「まあ、そーだな。しっかしどうなってんだぁ? あの白い杖。突然出たり消えたりするしよ。ありゃあ一……」
「僕も気になるな。強力な星骸《スターアーク》なのかい?」
「ま、まあそんなもんだよ。代々俺の家にけ継がれてきた家寶なんだ」
「特別な武なんだね」
「悔しいが、おめぇさんの力は認めるぜ。きは素人まんまだがなぁ」
「うっ……」
エルマーはがっはっはと笑った。こうして行を共にしてみれば、エルマーも悪い奴ではない事がわかる。自信家で遠慮がないが、ちゃんと実力が伴っている。モンスターの注意を引きつけ攻撃をけ止めてくれる姿は非常に頼もしい。
クロウニーもベテラン狩人なだけあってきに無駄がないし判斷も的確だ。こんないい奴らを紹介してくれたトレイシーさんには謝しかない。
「トレイシー史も僕たちの果を喜んでくれたね」
「どっちかっつーと、自分の手柄を勘定して嬉しがってたように見えたけどな」
「ははは」
とにかく些細なことなどどうでもいいくらいには気分がよかった。俺は酒を飲まなかったが場に酔ったのだろうか。狩りの功に浮かれていた。
「ナトリ。ユニットを組む気になったかい? 僕たちには君が必要だ」
「そーだぜ。俺らならもっと強ぇモンスターだって倒せるんだぜ」
二人の言葉は素直に嬉しかった。今まで誰かに必要とされる機會なんてほとんどなかったから、俺はそういう言葉に弱い。この二人となら、上手くやっていけるだろうか。
「クロウニー、エルマー。こっちからも頼むよ。俺はまだ経験が淺くて二人の足を引っ張ることもあるかもしれない。でもその分役に立ってみせるから。俺とユニットを組んでくれるか」
クロウニーが拳を突き出す。エルマーもそれに続く。俺も手をばし、雑多なテーブルの上で俺たちは三つの拳を付き合わせた。ユニット立だ。
「リーダーは誰がやんだ? 俺は面倒なのはやんねーぞ」
「クロウニーでいいんじゃないか? 狩人歴も一番長いし知識も多いしさ」
「いいじゃねーか。決まりだな」
「僕はまだ何も言ってないんだけど……。でもそうだな。一番年上だし僕がやろう」
「よろしくリーダー」
「そうだ。ユニット名も決めておいたほうがいいな。そのうちトレイシー史にも聞かれるだろう」
「そうなんか?」
狩人はユニット単位でくのが基本だ。バベル側もユニットで狩人達を把握するのが常だというし、有名な集団なんかもあるんだろう。
「ナトリ、なにかいい名前ないかな?」
「うーん……」
よくぞ聞いてくれたクロウニー。名前を考えるのは得意だ。
「『破滅の兇槍《ディープブラッド・グレイヴス》』っていうのはどうかな」
「かっけぇな」
「え? あ、ああ……。でも、ちょっと覚えにくいというか、長くないかい?」
「確かに。ちょいと長ぇ。すぐ忘れちまいそうだ」
「…………」
「『アルテミス』はどうだい? 僕の故郷に伝わっている狩猟を司るエルヒムの名さ」
「かっけぇ! いいんじゃねーか?」
「ああ、確かに……」
シンプルすぎるような気がするけど、さすがクロウニー。ビシッと決めてくれる。自分のが採用されなくてちょっと殘念だ。かっこいいと思ったんだけど。
「よし。今日は大を仕留めたし、重い素材を持って歩き回るのも疲れただろう。明日は休息日とし、我々アルテミスの活開始は明後日からだ」
「了解、リーダー」
「わかったぜ」
ユニットの大枠も決まり、その後の活方針などでさらに酒の席は盛り上がった。狩りで疲労したを引きずるようにして宿に帰る頃にはもうすっかり暗くなってしまっていた。
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