《スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜》第56話 大規模討伐要請
翌朝、アルテミスの集合場所となったバベル南支部にると、壁の大きな掲示板の前に狩人達が人だかりを作っていた。
あの掲示板は狩人用に討伐要請やバベルへの依頼が張り出されるものだけど、一何事だろう。
狩人達は真新しく張り出された一枚の大きな紙に注目しているらしい。よく見ようと人だかりに寄っていく。
「おいナトリ。何が書いてあんだぁ? 全ッ然見えねぇ」
「おはよエルマー」
隣にぴょんぴょんと飛んで掲示を見ようとするエルマーの姿がある。
エルマーは飛び上がると、俺の背中を踏んで両肩に手をついた。
「うぅおっ! なにすんだよ!」
「そもそも俺っち字が読めねえから、見えても意味なかったんだぜ」
「あのなぁ……。まあいいや、大規模討伐要請を発令……って書いてあるな」
「やあ」
隣にクロウニーも並ぶ。
「何だぁ? 大規模討伐要請って」
「バベルが発令する狩人全員を対象にした討伐要請のことさ。これは大事かもしれない」
「へぇ。大量のモンスターでも湧いたんか」
「近頃街で水質汚染が問題になってるのはエルマーも知ってるだろう。どうもモンスターの増が原因らしいんだよね」
俺たちは要請依頼書の詳細を読むのを一旦諦め、クロウニーが知っている報を聞こうと一旦人だかりを離れた。
水質汚染はフラウ・ジャブ様すら濁らせる街の一大事なだけに、全力で原因究明が行われていたはず。その汚染の原因がついに判明したらしい。
「ウーパスだってさ。街の地下で大量に発生してるらしい」
「げぇっ。俺っちあいつ苦手なんだよなぁ」
「それで汚染が……」
ウーパスはレベル2のモンスターだ。四つ足で歩行し、特徴的な平坦な頭を持つ大きなトカゲのような見た目で、ぬらりとした全にぶつぶつした細かい突起の生えたあまり気持ち良いとは言えない姿をしている。
口から酸の混じった汚水を吐き出し、萬が一浴びればちょっとした怪我では済まない。
何度か討伐したが戦うのも素材を切り出すのも気を使うモンスターだった。
そいつらが街の地下に大量に住み著いているなんて、ぞっとする。アレが大量繁し、トレト河の清流を汚濁しているのか。
「アルテミスの皆様ー!」
俺たちを呼ぶ聲に振り向くと、付の向こうでトレイシーが手招きをしていた。三人でカウンターに寄っていく。
「おはようございます。お三方」
「ネーチャン。ありゃあどーいうことなんだ。説明してくれよ」
「はい。私もそのつもりでお呼びしました」
大規模討伐要請についての容をトレイシーは詳細に語ってくれた。クロウニーが言った通り、水質汚染の原因となっているウーパスの討伐をバベルが狩人達に積極的に依頼したい、というのが容だ。
來週に迫る収穫祭までに、できるだけ汚染を解消したいという市政の意向に応じる形での実施らしい。
「大規模討伐要請は、全ての狩人に強制的に承認していただきます。とはいっても、もちろん討伐ノルマなどは存在しませんが。今日から討伐要請が解除されるまでの間、ウーパス討伐には素材換金とは別にボーナスが支給されることになります」
俺たち狩人にとっては非常に味しい話である。ボーナスは大量に狩ればそれだけ追加で支給される。稼ぎ時、というやつだ。
「マジかよ! こりゃ狩らなきゃ損だぜ」
「ええ。お三方には是非ウーパス討伐へ向かっていただきたいのです。新進気鋭のユニット、アルテミスであれば『プリヴェーラ地下水路』に降りても大丈夫でしょうから」
「街の下とは聞きましたが、やはり発生場所はそこなんですか」
「プリヴェーラ地下水路、か」
水質汚染の原因特定が遅れたのもわかる気がする。プリヴェーラ地下水路はバベルの定める討伐推奨地區だが、好んで潛りたがる狩人はない。
出現するモンスター自はウーパスが主、地下水路というだけあってほとんど明かりはなく、普段は闇に閉ざされているらしい。
暗闇に潛み、壁や天井から酸を吐きつけて來るウーパスはスターレベル以上に厄介な相手となる。
視界確保の手段も必要で、素材の割に気を使うと討伐には不人気なエリアとしてある意味有名だ。俺たちもったことはない。だからこそバベルはボーナスを追加してでも討伐要請を出したというわけだ。
「プリヴェーラ地下水路はより危険を伴う場所です。當然勧めることができるユニットも限られてくるのです。皆さん、お願いできませんか」
トレイシーが頭を下げる。今回ばかりはそこに利己的なは見えない。この人なりに街を思ってのことなのかな。
「やりますよ。僕らだって収穫祭を綺麗な街で迎えたいですから」
「ボーナスつくんだろ。ウーパスを大量にぶっ倒してやんぜ」
「旨味があるなら俺たちにやらない理由はないですよ」
トレイシーは顔を綻ばせる。
「お願いします皆さん! くれぐれも気をつけてくださいね」
§
プリヴェーラ地下水路は街の地下、トレト河の中を縦橫に走る排水用の施設だ。街を水害から守るため100年ほど前に建造されたもので、河が増水すると作するようになっているらしい。普段はカラッポのトンネルだ。
水路のり口は街の外に存在する。東西南北に四ヶ所。俺たちは南側のり口へやってきた。
り口のトンネル付近には既にまばらに人の姿が見える。狩人や、狩人相手に商売する道屋などが集まり俄かに活況を呈していた。
「アルテミスだ」
「ほう、あいつらが噂の」
俺たちの事を知っている者もちらほら居るらしい。
「俺らも有名になったもんだな?」
「意外と知られているようだね。そんなに目立つかな……」
新參ユニットだから狩人達の噂話の対象にでもなってるのか。
「さて、二人とも準備はいいかい」
「うん。石もたくさん買ってきたしな」
「ナトリ、治癒エアリアちゃんと持ってんのか? おめぇさんは一番怪我しやすいんだからよ」
「大丈夫。ちゃんと備えてる」
「じゃあ行こうか」
他の狩人達が大きく口を開けた水路へっていく中、俺たちもトンネルへ足を踏みれた。
古い石材で組まれた幅のある通路が、しずつ下りながら街の下方に向かってずっと先までびている。
り口の丸い外の明かりが遠くなり、いよいよ周囲は暗くなる。俺たちは石を取り出して壁に打ち付け、を燈し始めた石を腰に括り付ける。これでごくごく至近の視界は確保できる。
外のが見えなくなる頃、トンネルは大きな縦に到達した。ふちには鉄製の錆びた梯子がついていて下へ降りられるようになっている。周囲の安全を確保した後、順に梯子を降りていく。
クロウニーが下りながら壁に石を叩きつけ、の下に放る。
周囲を明るく照らしながら落ちた石は、し下で地面にぶつかって転がった。発煙石は俺たちがにつけているものより強いを発するが、數秒間で燃え盡きる。
「ジメジメしてきた。さすがに黴臭いなぁ」
「そうかぁ? 俺っちは結構平気だぜ」
「エルマーは水気に慣れてそうだよな」
梯子を下り切ると早速分かれ道だ。川の増水時、水門が作するとここは水でいっぱいになるんだろう。
クロウニーが壁伝いに進むことを決め、三人で通路にっていく。時折石を投げ視界を確保しながら歩を進める。
「待て」
エルマーが俺たちを制止する。ぴくぴくと鼻をかし、の消えた石の先の闇を伺う。
「臭うぜ。奴ら臭ぇからな。來るぞおめぇら。多分一じゃねえ」
俺たちの中でエルマーは一番勘が鋭い。ラクーンの嗅覚なのか、フィルの知力が鋭いのか、いち早くモンスターの存在をじ取ってくれるのでとても頼りになる。俺はもちろん一番鈍い。
「各自散開。戦闘準備だ」
「了解」
しだけ暗闇に目が慣れ、構造の郭が浮かび上がってくる。王冠《ケテル》を手にし、軽く目の前に構えた。
「そこかっ!」
暗闇の中、天井をこちらに向かって這う黒い影を見つける。影に向かって攻撃を放つ。
見事には影を貫き、ぼたっと重たい音をさせて黒い塊が落ちてきた。
遠くて仕留められてはいないが、やはりウーパスだ。
さらに壁を伝う影。即座に狙いを定め、撃つ。こちらもと衝撃に驚き地面に転がった。
「エルマー、左を頼む」
「おうよ」
二人が同時に飛ぶ。ウーパスにのしかかるように接近し、エルマーは拳で頭部を砕。クロウニーは短刀で首を切り飛ばした。
ウーパスは隙を與えると口から酸を吐くので速攻で討伐してしまうのがベストだ。
二のウーパスをなんなく倒し、素材をいただいた後も俺たちは地下水路を歩いた。
流石に水路は広く、俺たちは他のユニットに遭遇することもなくモンスターを狩り続けた。
§
大量の素材を抱えて地上へ戻る頃には日が暮れかけていた。慣れない暗闇での戦闘で疲労を蓄積したを引きずってバベルへ戻ってきた。
「お疲れ様ですみなさん。いただいた素材、占めて6エインで買い取らせていただきますね」
「おおーッ! レベル2程度でそんなになるのかよぉ」
「ウーパス一だけで40エウロも……。それだけ街も本気ってことなんですかね」
「はい。収穫祭はこの街にとって重要な行事ですから。なんとしても汚染を解消するようにと要請されているんです」
「ところでトレイシーさん。どうしてウーパスが増してるの?」
「それは……」
トレイシーによれば、このところイストミルの各バベル支部から相次いでモンスターの生態に変化が生じている旨の報告が上がっているらしい。
はっきりとした原因が判明しているわけではない。現時點でわかるのは、そういう傾向があるということのみ。
システィコオラ大陸にある翠樹の迷宮が活化しつつあることが関係しているのでは、という推測のみがバベルの現時點での見解だそうだ。
そういえばクレッカでも突然変異したグレートアルプスが発生していたが、もしやあれも何か関係あるのだろうか。
「とにかくだ。ナトリ、クロウ。明日も大量討伐目指そうぜ」
「ああ。稼ぎ時ってやつだ」
「……そうだね。明日も頼むよ、二人とも」
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