《【コミカライズ配信中】アラフォー冒険者、伝説となる ~SSランクの娘に強化されたらSSSランクになりました~》プロローグ
☆☆ コミックス1月12日発売 ☆☆
第1巻重版出來! 大人気コミックス続刊が早くも発売されます。
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――その子をお願いします。
山で薬草を採っていたヴォルフは、ハッと顔を上げた。
籠を背負い直し、導かれるように歩き出す。
彼は「平凡な冒険者」だった。
12歳から冒険者稼業をはじめ、最初こそ若さを武に魔獣と戦った。
やがて己の限界を知り、若く才能ある冒険者にどんどん抜かれていった。
下っ腹に贅がつき始める頃には、危険な冒険を避け、拾った薬草や鉱石を売って生計を立てていた。
結局、ランクは下から數えて3番目のDクラス。
習得したスキルは、中級(Lv3)の【鑑定】【調合】と基礎級(Lv1)全般ぐらいだ。
それが冒険者ヴォルフの15年の果(げんじつ)だった。
今日も薬草の採取のクエストをギルドからけ、山に分けっていた。
「これは……」
だ。
魔獣がうろつく山林に見目麗しいが橫たわっていた。
経糸のように真っ直ぐびた赤黒い髪。
の線は細く、くっと力をれるだけで砂塵のように崩れそうだった。
薄く紫がかったは淺い息を繰り返している。
一目見てわかった。
死にかけている、と。
外傷はない。
推測としては、強力な呪系のスキルをけたのだろう。
白いには玉のような汗が浮かび、苦しそうにいていた。
ヴォルフはともかくありったけの薬草をの側で広げた。
解呪することは難しいが、息がしやすいように何か薬を調合しようとする。せめて最後は楽にいかせてやろうと考えた。
道を取り出し、作業を始めたところで、ひんやりとした手に阻まれた。
「もし……。冒険者の方……」
の瞼が持ち上がる。
炎のような赤い瞳なのに、穏やかな湖面を思わせた。
「私は長くありません。最後に頼みを聞いてくれませんか?」
瞳を顔の橫へと向ける。
布にくるまったの荷らしきものがあった。
ヴォルフはいわれるまま布をほどく。
現れたのは、可い赤子の寢顔だった。
すーすーと靜かな寢息を立てている。
「その子のことをお願いできませんか?」
ヴォルフは赤子を抱きかかえる。
力強く頷いた。
荒く息を吐きながら、は微笑む。
「よかった……」
瞼が閉じかかる。
「待て! 死ぬな!」
ヴォルフはんだ。
こんなに聲を荒げたのは、數年ぶりで思わず咳き込んでしまう。
すると、抱いた赤子がびっくりして、聲を上げた。
産聲のように元気だった。
慌ててヴォルフは赤子をあやす。
泣き止んでくれない。
っ気のない人生だった。
子供の世話などやったことなどない。
あやすどころか、ちゃんと抱けているかどうかも怪しかった。
今まさにの瞼が閉じようとしている。
ヴォルフは赤子に構わず尋ねた。
「せめてあんたの名前とこの子の名前を教えてくれ」
閉じかけた瞼の向こうで、瞳がヴォルフの方を向く。
「レミニア……」
果たしての名前だったのか、それとも子供の名前だったのか。
ついぞわからぬまま、は赤子と數冊の本を殘し、息を引き取った。
◇◇◇◇◇
レミニアの母親らしきから預かったのを機に、ヴォルフは冒険者を引退し、故郷のニカラス村に戻った。
ベッド1つしかない宿坊ではさすがに子供は育てられないし、都で親子2人で暮らすためには、今の倍の家賃を払わなければならない。それに冒険者をやりながら、男手1つで育てるのは不可能だと考え、帰郷を選択した。
幸い、15年以上務めた冒険者はギルドから退職金が支給される。
微々たるものだが、數年小さな村で子育てするには十分な額だ。
古ぼけた実家を改裝し、ヴォルフの子育ては始まった。
最初はおむつの締め方すらわからず、村の産婆に怒られてばかりいた。
不用な父親とは裏腹にレミニアはすくすくと育つ。
甘えん坊の泣きん坊。夜泣きもしょっちゅうで、レミニアを抱いたまま村の真ん中で眠りこけることもしばしば……。
絵に描いたような子育て闘記だった。
それも慣れてくると、レミニアの不思議な習に気づく。
よく泣く赤子で、どんなにあやしても泣き止まないことがあった。
ただそんな時、母親が殘した本を渡すと途端に笑顔になるのだ。
本に魔法でもかかっているのか。それとも母親の殘り香に反応しているのかはわからない。1ついえるのは、本は唯一のレミニアと母親の絆だということだ。
心つく頃には、レミニアはしいになっていた。
明るい赤い髪に、紫水晶を思わせるような大きな瞳。
真っ白なはあの時ののを思わせる。
將來は人になることは間違いなかった。
たちまち人気者になり、村の子供のリーダー的な存在になった。
やんちゃな格ではあったけど、その行1つ1つには、何か深い思慮が隠されているような気がした。
頭もよく、覚えもいい。村に住む魔法使いから魔法を教わったが、5歳にして初級(Lv2)の魔法をすべて使いこなしていた。
しかし、彼の興味の先は、母親が殘した稿とも呼べる本だった。
「パパ、わたしのママって天才ね」
父親の膝の上(とくとうせき)に座って、賞賛する。
ヴォルフが読んでもさっぱりだった本の容を、レミニアは理解しているらしい。
6歳児曰く、この本に書いているのは、魔獣についての研究論文なのだそうだ。
第五世界ストラバールに200年前、突如出現した魔獣。
この生態についてはいまだ謎に包まれている。
母親が殘した本には、そのの一端が隠されているらしい。
「けれど、この二重世界理論《ダブル・ワールド・シナリオ》には欠點があるわ。世界が2重構造であることは否定しないけど、そのためのエネルギーについて言及が全くないの。パパはどう思う?」
時々、意見を求められるのだが、ヴォルフは決まって話を変えた。
「それよりもレミニア。どうして、パパの上でご本を読んでいるんだい? 勉強のための機を作って上げただろう」
「いーや。パパの膝の上がいい」
「どうして?」
「パパのことが大好きなんだもの」
満面の笑みを見せる。
どんなに疲れていても、その笑顔を見るだけで頑張れるような気がした。
レミニアが8歳の時、事件は起こった。
村にC級の魔獣が迷い込んだのだ。
ニカラス村の周りには、結界が張ってある。
加えて、E、F級の魔獣しか辺りにはいないはずだったのだが、不運に不運が重なった。
ベイウルフという魔獣は、冒険者(てんてき)がいないことをいいことに毎夜村に來ては、暴れ回った。長は村を破棄し、皆で逃げると決斷する。そんな中、ヴォルフは手を挙げた。
「俺がやる」
勇敢を通り越して、無謀な提案だった。
相手はC級の魔獣。ヴォルフのクラスはD級。実戦からも遠ざかっている。命のやりとりともなれば、10年ぶりだった。
村の人間はヴォルフを止めたが、頑として聞きれなかった。
「村には俺の娘がいる。俺は娘を守りたい」
ヴォルフはレミニアの髪を穏やかにでながら、いった。
初めて見る戦士としての父親の背中。
娘は戸いながらも、その覚悟を理解した。
「パパ、約束して。必ず戻ってきて」
「大丈夫。必ず帰ってくる」
小さな拳と大きな拳を付き合わす。
子は願い、父は誓った。
かくしてヴォルフとベイウルフの一騎打ちがはじまる。
まさに死闘だった。
ヴォルフは魔獣の牙や爪に何度も切り裂かれた。
多量に出し、あっという間に染めの冒険者が出來上がった。
ヴォルフも負けていなかった。
朦朧としながらも、錆び付いた剣技を懸命に振るい続けた。
用意していた毒草をベイウルフの傷口に塗り込むことに功すると、次第に形勢は逆転していく。
互いに死力を盡くした。
結果、勝利したのはヴォルフだった。
だが、ただではすまなかった。
ヴォルフは昏倒し、しばらく意識が戻らなかった。
その間もレミニアは懸命に看病を続け、自分の知る限りあらゆる方法を用いた。
獻的な看病は、娘というよりは、もはや人のようだったと、村人は述懐する。
10日後、ついにヴォルフは目覚める。
レミニアは泣いて喜んだ。
治ったばかりの首にすがりつき、わんわんとわめき、これまでの不安を吐した。
「レミニアは大きくなったらパパと結婚する」
といったのは、まだヴォルフが家のベッドで寢ている頃だった。
「……そ、それは栄だね」
「でね。そしたら、パパを守る冒険者になるの」
堂々のパパをひも(ヽヽ)にする宣言だった。
戸いながら、ヴォルフは言葉を返す。
「そうか。なら、パパはレミニアを守る勇者になろうかな」
「うん。パパはレミニアの勇者になって」
レミニアが心底本気でいっていることは、ヴォルフにはわかっていた。
でも、その言葉を後々まで引っ張ることになるとは、さしもの“勇者”も予測不可能だった。
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