《【コミカライズ配信中】アラフォー冒険者、伝説となる ~SSランクの娘に強化されたらSSSランクになりました~》第10話 母竜、討伐す!
今回の話を網羅したコミックス2巻が発売されます!
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マザーバーンの嘶きが響く。
首を振り、大きく羽ばたきを繰り返すと、巨を持ち上げ始めた。
鼻を潰され、羽にが空こうとも、ドラゴンの士気は衰えない。
むしろより殺意が高まったように思えた。
「皆さんは逃げて下さい」
「ヴォルフ様、その剣は?」
覚醒したアンリが尋ねる。
目立った外傷もなく、元気そうだった。
アンリの無事を確認すると、ヴォルフは微笑む。
「……たぶん、気まぐれな神様からの贈りです」
「神様?」
「それより俺はマザーバーンを引きつけます。その間に退避を。リーマットさん、ダラスさん、後ろを頼みます」
託された2人は頷く。
ヘイリル大公とその私兵とともに引き上げようとした時、別の獣の聲が聞こえてきた。
ワイバーンだ。
どうやら騒の音を聞いて、殘りが起きてしまったらしい。
幸いあらかじめ尾を切っていたおかげで、きは鈍い。
だが、聲を上げて威嚇してくる。
さらに口を紅蓮にらせ、炎を吐きだした。
「風魔の盾(シルフィンガード)!」
ダラスが魔法で盾を描く。
迫り來る炎を防いだ。
「大丈夫ですか?」
予想外の奇襲に、ヴォルフは振り返る。
「大丈夫だ!」
といったのは、アンリだった。
戦闘モードにった姫騎士は、側にいた私兵の鞘から剣を抜く。
「行け! ヴォルフ様の背後を守るのだ!!」
葵の蜻蛉(ブルー・ブライ)団長は、先陣を切る。
そこにリーマット、ダラス、さらにヘイリルの私兵たちが続いた。
剣戟が響き、戦闘が始まる。
「ヴォルフ様、こちらは私たちが引きけます!」
襲いかかってきたドラゴンの首をはねる。
どす黒い鮮を被りながら、瞳はたじろぐことはない。
慕に焦がれる乙の姿はなく、鬼気迫る戦乙がいた。
「ヴォルフとやら!!」
聲に振り向いた。
ヘイリルと目が合う。
「見事、あの母竜を倒してみせよ!」
大公閣下から言葉を賜るなど恐れ多いことだ。
おそらく平凡に暮らしたままでは、一生聞くことがなかったかもしれない。
一瞬、震いする。
くすぶり――しかし、いまだ殘っていたヴォルフの戦士としてのが騒ぐ。
「お任せ下さい」
力強く頷く。
より覚悟を決めた表で、マザーバーンと向き直った。
辺境の名もなきDクラス冒険者は、Aクラス冒険者すら手こずらせる敵を前にして、腹をくくった。
再び母竜と対峙する。
◇◇◇◇◇
「レミニア、1つお尋ねしたいのですが」
「なーに? ハシリー」
研究室の角にある応接用のソファーに、レミニアは寢そべっていた。
口の中に菓子を放り込む。
玉蜀黍(ヤー)の粒を潰し、油で揚げた簡素なものだが、本人はいたく気にっているらしい。先ほどから菓子を砕く気持ち良い音が、研究室に響いていた。
先ほど聖召喚の大魔法を使ったものとは思えないほど、のんびりしている。
「ヴォルフ様にかけられた強化魔法というのは、どれぐらいのレベルのものなのですか?」
「ハシリー、パパの話に興味あるの?」
レミニアの貓目がった。
1日でも2日でも、パパのことを喋っちゃうぞ――という輝きだ。
ハシリーも今やれることは全部やってしまった。
レミニアの話は退屈しのぎぐらいにはなるかもしれない。
それに、レミニアの言うとおり興味はあった。
本人の前では口が裂けてもいえないが……。
「たとえば、どれぐらいのクラスの魔獣なら倒せると思いますか?」
「そうね。Aクラス程度なら足元にも及ばないんじゃないかしら」
「Aクラスをですか? いくら強化したとはいえ、そう単純なことでは」
Aクラスぐらいになると、相や戦を間違えるだけで、Sクラス冒険者とて苦戦する。【大勇者(レジェンド)】レミニアとて、油斷すれば大怪我を負うケースもありうる。
レミニアによって強化され、仮に聖を手にしたところで、ヴォルフが勝てるかどうかは五分五分といったところだろう。
それほど危険な存在なのだ、魔獣は。
「ヴォルフ様が怪我をすることだってあり得るかもしれませんよ」
馬鹿馬鹿しい例えではあるが、彼が自分に施された強化に気付いたとしよう。
突然、力を與えられた人間は、うちなる恐怖を解消しようと、自分の立ち位置を探ろうとする。そのために1番有効な手段は、己よりも上位の存在と戦うことだ。
本人がまなくても、第三者がヴォルフの力に気付き、試そうとするかもしれない。そんな狀況(確率としては低いと思うが)になれば、ヴォルフが傷を負う可能は十分にあり得る。
そう――質問をぶつけてからハシリーは「しまった」と思った。
不安になったレミニアが、再び帰郷を申し出るかもしれないからだ。
しかし、思いの外レミニアはあっけらかんとしていた。
疑問を一蹴する。
「問題ないわ。私のパパは強いもの」
不敵に笑う。
その微笑みは、どこか狂気じみていた。
思わずハシリーは、息を飲む。
「ハシリー……」
「は、はい」
不意打ちの呼びかけに、ハシリーはぴくりと肩をかす。
ソファーの上でゆっくりとを転がしながら、微笑みかけた。
「帰っていい?」
「ダメです」
【大勇者(レジェンド)】の願いを、書は一蹴した。
◇◇◇◇◇
「あああああああああッッッッッ!!!」
ヴォルフはんでいた。
膝をつき、左の二の腕を押さえ、蹲る。
腕の先にあるはずの手がなくなっていた。
鮮がれ切った無花果のようにこぼれ出る。
油斷した……!
ヴォルフは猛省したが、それは間違いだ。
彼に足りなかったのは、単純に経験。
竜と対峙するための作法、戦に誤りがあっただけ。
ただそれだけで、一瞬にして腕を母竜の熱線によって持っていかれた。
「ヴォルフ様!」
悲鳴を上げたのは、ヴォルフの聲を聞き、振り返ったアンリだった。
駆け寄ろうとするも、ワイバーンたちに阻まれる。
「どけ!!」
「姫様、強引すぎます」
アンリの背後を突こうとしたワイバーンの頭を、リーマットが貫いた。
ヴォルフに駆け寄ろうとする姫騎士の手を取る。
一瞬の迷いが、かろうじて均衡を保っていた戦況を、徐々に悪いものへと変えていった。
アンリの視界が、無數のワイバーンにより埋め盡くされる。
その狀況をヴォルフもまた見ていた。
助太刀しようにも、出がひどい。
止をするにしても、そんな時間を目の前のマザーバーンが許してくれるとは思えなかった。
「だが――」
ヴォルフは立ち上がる。
絶的な狀況にあっても、Dクラス冒険者は何度も死に対抗してきた。
アンリのため。
リーマットやダラス、そして大公殿下を守るため。
何より……。
娘との約束のため……。
「まだ死ぬわけにはいかないのだ!!」
痛みに耐え、歯を食いしばり、ヴォルフは吠えた。
そしてあらかじめ(ヽヽヽヽヽ)予定されていた(ヽヽヽヽヽヽヽ)奇跡は起こる。
急にヴォルフはを帯び始める。
大らかな緑の。
隻腕となった冒険者を包み込む。
「きれい……」
アンリが立ちすくむ。
緑の不思議なを見た。
同時に剣戟が止む。
兵士たちはおろか、ワイバーンそしてマザーバーンですら、強烈な緑に戦いていた。
ヴォルフに変化が起こる。
腕が再生を始めたのだ。
手の早い畫家が失った腕を描くように戻っていく。
千切れた管や神経、骨、皮に付いたわずかな古傷すら再現されていった。
尋常ではない再生スピードだ。
リーマットは思わずぶ。
「あの人は不死ですか!?」
「あれは時限回復(リルミット・ヒール)だ。それも……かなり高レベルの」
一定時間、自的に回復・再生する魔法。
回復の範疇は、せいぜい切り傷を回復する程度のもののはず。
人の腕を丸ごと回復するなど、ダラスも初めて見た。
気が付けば、ヴォルフの腕はすっかり元通りになっていた。
自分のに何が起こったのか。
ヴォルフ本人には理解出來なかった。
ただ手を握り、再生した腕のを確かめる。
當然、痛みなどない。
「全く……。うちの娘は心配だな」
微笑む。
やれやれと小さく肩を竦めたが、心の中では娘に謝した。
再び剣を握る。
刀が鋭くり、向かい合う竜を威嚇した。
「行くぞ!」
地を蹴る。
これも時限回復(リルミット・ヒール)のおかげなのか。
が軽い。
羽が生えたようにヴォルフは疾走する。
不可思議な緑のに魅られていたマザーバーンは、ようやく我を取り戻す。
口を赤黒くらせ、ヴォルフを迎え討った。
熱線が飛び出る。
ヴォルフはなお加速した。
ギリギリでかわし、熱線に伴う衝撃波を推進力に変えて、接敵する。
そのヴォルフの前に、マザーバーンが咆哮を上げる。
ただの聲ではない。
人間のきを一定時間止める効果があるスキルだ。
竜種の中には、こうしてスキルを使う者がいる。
先ほどのヴォルフはこのスキルが頭になかった。
一瞬きを止められ、勢不十分なところを熱線でやられてしまったのだ。
「2度、同じ轍は踏まん!!」
ヴォルフは3度目の加速を行う。
Aクラス程度の魔獣のスキルなど、今の彼には効かなかった。
懐に潛り込む。
間合いに達した。
斬撃を切り込む。
い竜鱗をパンを割くように切り裂いた。
が舞い、竜は仰け反る。
攻撃は止まない。
さらに前肢、後肢、翼、脇、次々と連撃を放っていく。
竜は激しく嘶き、首を振った。
じろぎしながら、取り付いた人間をはたこうとするも、縦橫無盡にき回るヴォルフに対し、為すはない。
気がつけば、皮が紅蓮に染まっていた。
ヴォルフは竜の顔の橫へと躍り出る。
目が合った。
牙を剝きだし、紫の瞳は憎々しげにヴォルフの姿を捉える。
しかし、もう――竜に為すはなかった。
「おおおおおおおおおおおおお!」
裂帛の咆吼が鉱山に響く。
力任せに振り抜いた。
マザーバーンの巨頭が、から離れる。
斬撃の勢いのまま鉱山の空へと舞い上がった。
首を失った竜の巨軀は轟音を立てて倒れる。
Dクラスの冒険者が、Aクラスの魔獣を討伐した瞬間だった。
ヴォルフは竜の最後を看取る。
息を切らし、自が達した偉業に驚いていた。
同時に、剣がとなり消えて行く。
「ヴォルフ様!」
アンリがヴォルフの首に抱きつく。
無手となった冒険者は、ふらふらになりながらも、お姫様をけ止めた。
顔はや泥で汚れていたが、たいした怪我もないらしい。
背後を見ると、ワイバーンは全滅していた。
ダラスはほっと息を吐き、リーマットは軽く手を振っている。
「さすがは私の(ヽヽ)ヴォルフ様です」
「ちょ……! アンリ様」
アンリは大膽にもヴォルフの頬にキスするのだった。
竜殺し篇は明日終了です。
ちょっと長い章でしたが、いかがだったでしょうか?
引き続き毎日投稿していきますので、よろしくお願いしますm(_ _)m
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