「はあああっ！」

ハイレンの尖った目付きが容赦なく私に刺さる。

そして威勢のいい彼の掛け聲と共に、棒きれの連撃も容赦なく襲いくる。私はそれをけて捌く。

まったく、とんだ才能をめていたものだわね。やっぱり冒険者の実踐剣に教わったのが良かったのかもしれない。

……まあでも、まだ私に適う程じゃないわ。

嵐のような連続攻撃も、いずれスタミナが切れる。

その剎那に、そっとカウンターを合わせてあげれば……。

「はい。まだまだね」

コツン。

「あいたっ！　……ま、參りました」

隙だらけの頭を軽く叩く。これで一本。私の勝ち。

これでも私はたまにお父様に稽古をつけてもらっているのだ。

いくら急激に長したといえど、相手は所詮は一ヶ月前に剣を振ったばかりのお子ちゃま。私の相手をするなんて、まだまだお話にならないわね。

「あはは！　やっぱまだ無理かぁ！」

「當然よ。まあし汗はかいたわ」

オージンさまは満足げにパンパンと手を叩いた。

すると、わらわらと剣組の子供たちが集まってくる。……いつの間にここまで手懐けたよのよ！

「よーしそれじゃあ、後はストレッチして帰ってもいいぞー。自主練もいいけど、ほどほどにな！」

「「「はーい！」」」

勝手に訓練を切り上げさせ、私を見る。

「それじゃ、お嬢様。……賭けの代償を払って貰いましょうか？」

「うぐっ、覚えてたのね……」

何か怪しいこの男の言うことなんて聞きたくはないが、しかし賭けに負けて逃げたとあっては貴族の名が廃る。

お金以外の要なら、多は大目に見てあげましょう。

……もちろんエッチなこともナシよ？

「そう構えなさんな。単にデートのおいさ。あっちの方にいいじの湖畔があるんだ。ちょっとそこを散歩でもってね」

よかった。それくらいなら、お安い用よ。

なーんだ。彼はバトラーおじさまとずっと二人きりで旅をしてきたものだから、私という潤いがしかっただけなのね。

自分で言うのもなんだけど、ほら……。

私って、綺麗じゃない？

お父様譲りのしい黒髪に、お母様のようなウェーブがかった魅の髪質。長いまつと整った顔立ちは、決して他のお嬢様方に引けを取らない自負がある。

それに、発育もいい方だ。これもお母様譲りね！

「ふふん、いいわよ。付き合ってあげるわ！」

「おお、ありがたき幸せです」

芝居がかった作で頭を下げるオージンだった。

☆彡.。

日はし傾いていた。

私とオージンは馬に乗って、かっぽかっぽと湖畔に到著。

領地の外れにあって、あまり開拓されてない場所だ。たまに魔も出現するために誰も近寄らない。

だけどその景観はなかなかに、の子を連れてくるには最適な場所だろう。キラキラとのを反して輝く水面がしい。

風が吹くと木々の青臭さを鼻にじる。なんだか落ち著くにおいで、私は好きだ。

どこかでパシャっと魚が跳ねた音がした。

「どうです？　絶景でしょう？」

「ふうん。まあ、悪くないわね」

「それはよかった。……それでは、どうぞ、お手を」

……ええー、手を繋いで歩くの？

あからさまに嫌そうな顔をしてみるけど、オージンさまは知らないふりをしてニコニコと笑顔を向ける。

はいはい……わかりましたよ。

賭けに負けたのはこの私ですう。

しぶしぶ、彼の手を取った。

……不覚にも、二人きりの男が手を繋いでいるなんてシチュエーションは初めてなもので、気恥しさに頬が熱を帯びた。