《勘違い底辺悪役令嬢のスローライフ英雄伝 ~最弱男爵家だし貴族にマウント取れないから代わりに領民相手にイキってたらなぜか尊敬されまくって領地かになってあと王子達にモテたのなんで???~》48:心臓止まるほど

オスカーさまは、何でもできた。

剣を取れば瞬く間に達人並みの腕前となり、魔法も王宮仕えの一等魔法使いすら霞む才能を開花させた。

事業を始めればお金が湯水のように湧き、彼が議會で言を発すれば、どんな難題にも一筋の明が差すという。

人はオスカーさまを賢者あるいは英雄だと大いに稱えた。

彼のお父様である先代公爵も、実権をすべてオスカー様に譲って隠居してしまったらしい。

そうすると、オスカー様との婚約をむ聲は後を絶たなくなった。

毎日のように食事の催促パーティの催促。仕事の最中も隙あらば令嬢からの自己アピールその親族からの娘自慢にオスカーさまを褒めたたえる文言。

オスカーさまはすっかり、ノイローゼになってしまわれたのだった。

――そこに現れたのが、彼。

オスカーさまじゃない方の、明らかに上級貴族のこちらの方。

「カインとお呼びください。カリン殿。おや、僕たち、非常にお名前が似てらっしゃいますね。わっはっは!」

本當に愉快な方ね。

そう、このカインさまは、オスカーさまのとても仲のいい友人なのだとか。

日に日に顔が青ざめていくオスカーさまを不憫に思い、こうして忙しい彼に無理矢理に休みをとらせてこのウェストパインの街へバカンスにやってきた――。

――なんで?

なんで問題で疲れてらっしゃる方をこんなこの國隨一の街へ連れてくるのよっ!

頭おかしいんじゃなくて!?

上級貴族様にそんなこと言えるはずもないから黙っていますけどもっ!

「あれ、カリン殿。もしかして僕のこと、頭おかしいんじゃないかと思ったんじゃないかい?」

「……ご想像にお任せいたしますわ」

あらやだ、顔に出てたかしら?

しかし彼もそんなことは承知で、意に介さずに話を続ける。

「僕はイヤなものから目を背けるなんて、問題の先送りでしかないと考えているんだ。だからオスカーが顔を青くするほど嫌いになったならば、逆にどんどんの子とれ合わせようって思ってね。まあ結果は、見ての通り」

まあ、確かに。

結果だけを見るなら荒治療が功を奏したってところね。

しかも結婚相手も無事に見つかって萬々歳。これでオスカーさまに求してくるもいなくなってまたノイローゼに悩まされることもない。

そしておばさまは……。

貴族の、公爵様と結婚出來て……。これからの人生はバラに溢れかえる……。

うん、オスカーさまとおばさまが結婚すれば、みんなが幸せになれるわね。

……それを引き止める理由が、ぜんっぜん見つからないわ。

そもそも二人とも、お互いに引き寄せられあっているんですもの。

邪魔できる者なんて、この世に誰一人いないわ。

ほら今だって、隙をついては二人でずっと見つめあってるっ! 熱い! 熱いわこの部屋!

「……本當に、これは、冗談じゃないのよね?」

「もちろんだ。オスカーという男の信念はダイヤモンドよりも強固だ。そして有象無象の反対意見など押しのけられる力も才能もある。……この結婚は、必ずされる。それは僕が保証しよう」

僕が保証するって……いやあなたは何様なのよ?

「ところで、大変ご無禮ではございますが、カインさまの領地はどこに……?」

「ああ、僕は王都勤めなんだ」

ふうん。やっぱり、なくとも伯爵以上の上級貴族でいらしたわね。まあ分が違えば公爵家の友達なんてものにもおいそれとなれるものでもないから、予想通りといえばそうね。

ぜひとも下のお名前もお尋ねしたいところですけど……さすがにそこまで踏み込むのは失禮か。

「おい、カイン。素直におしえてやったらどうだ。お前は――」

「まあまあまあ! 別にいいじゃないか。それよりオスカー。お前のお祝いを是非とも考えたいのだが?」

あらら。助け舟をだされたけど、華麗にスルーされてしまったわね。

まあいいでしょう。誰と聞いたところで、もう私が彼らにかかわることなんて一生あるはずもないのだから。

公爵様の結婚相手を選ぶ場面に遭遇するなんて現場に、辺境の貧乏男爵令嬢が関われることがおかしいんですもの。

おばさま……おめでとう。

幸せになってね。

「俺の祝いだと? ぬかせ。この街に來た理由だって、本當はキミが息抜きしたいって割合のほうが大きかっただろう? この不良王子め」

「何を言うか。良くて半々だ。お前を思ったからこそのこの街なんだぞ? おかげでいい出會いがあったろう。謝せい!」

「ははーっ。殿下の溫ありがたき幸せ……って、あっ」

「え? あっ」

……んん?

楽し気なやりとりで、さらっと弾発言なかった?

王子? 殿下?

誰が?

カインを見る。

バレちゃった! てへっ!

みたいな顔してる。

「えええええっ!? 王子様あああああ!?」

噓でしょ……王子様と公爵様が……!? 國のトップのお二人が、わ、私の前にッ!?

足が、自然と後ずさる。

最弱男爵令嬢が、これほどまでに近くでこの二人を拝見するだなんて……なんだか、恐れ多いわね……!

階級社會の末席に生まれた本能が、すぐにこの二人に頭を下げろと言っている!

そして今すぐにでも、その本能に従おうとした瞬間。

――ドサ。

何かが地面へと倒れる音がした。

ふとそれに目をやると……!

「カ、カント!?」

なぜかカントが、いま倒れた!

あら!? そういえばカントってば、公爵様に反撃された後はもう何もしてないじゃない!? 今まで靜かだったから存在を忘れていたわ!

というか、なんでいま倒れるの!? 何があったというの!

「カ、カント! なにやってるのほら、立ちなさい!」

あわてて彼の腕をつかんで引き上げる。……けれどカントは、まるで糸が切れたり人形のごとく、そのに力はらず、手を離せば、するりとカントの腕は床へと落ちた。

――え? カント?

やだ、ちょっと、何してるのよ?

「カント! カント!」

ペシペシとほほをはたく。反応はない。

はっとして……試しに、恐る恐る……鼻先に、手をかざしてみた。

――息、してない――?

お読みいただき謝でございます。

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