《旋風のルスト 〜逆境の傭兵ライフと、無頼英傑たちの西方國境戦記〜》正規軍の將校と、麓の村の村長との対話
戦いの趨勢が決定して、私たちはフェンデリオルの正規軍に保護されることとなった。
鉛弾を食らったフレーヌ、の過剰行使で気絶したキーファーは、正規軍の兵卒の人たちに救助された。
負傷していなかった私たちは、事実報告を兼ねて麓に設営された前線本部にを寄せることとなる。一人一人、事聴取をける。
特に私は臨時の指揮役を行っていたということもあり、より詳しく話を聞かれることとなった。
林業用の営業林の単純警備任務として集められたこと。
報酬は非常に安かったこと。
それゆえ経験の淺い駆け出しの職業傭兵が多かったこと。
山賊出沒の報は一切與えられていなかったこと。
この4點は強く訴えるしかなかった。
「今回の件はおそらくかねてから常習的に行われていた、虛偽容依頼だと思います。今まで負傷者や死亡者が出ていなかったために見過ごされてしまったのだと思います」
「おっしゃることはよくわかります」
正規軍の將校の人がそう答えてくれた。
彼らの話によると、驚くことに正規軍ではすでに事の仔細は把握済みだったと言う。
同席していた正規軍の山賊討伐部隊の指揮の人が言う。
「この地域での森林警備の依頼任務に関しては、かねてから苦が寄せられていたんです」
「苦が?」
「ええ、今回のケースと同じように、林業用の伐採林の巡回警備という名目での依頼で募集をかけておいて、その際に常習的に山賊が出沒しているという報をあえて隠していた。それにより山賊の一部と遭遇して小競り合いが起きるが偶発的出來事として処理される。無論、追加報酬も無しと言う事案です」
「そこまで分かっていながらなぜ?」
私は思わず抗議していた。當然だ、一人、実績のある傭兵が犠牲となり死んでいるのだから。それに対して指揮の人は言った。
「言い訳になってしまいますが、理由として、まず依頼人が別人の名前を借りて異なる傭兵ギルド事務局に依頼を出していた事があげられます」
「同一人による依頼である事を分からなくして、事実把握を送らせるためですね?」
正規軍の彼らは頷いた。
「ええ、これまで死亡案件が起きていなかったので、被害にあった職業傭兵の方も、話を大きくして騒になるよりはと報酬をけ取り大きな問題にしてこなかったことも影響していると思われます」
「的証拠や重要証言の確保に時間がかかったため、逮捕や依頼案件の停止命令などが間に合わなかったのです」
「本當に申し訳ありません」
私は苦蟲を潰す思いで彼らに言った。
「どこかでもっと早く判明していればオーバス準1級は死なずに済んだと思います」
その言葉に正規軍の彼らも言葉がない。
「面目も有りません。十分承知しています」
「再発を防がなければ正規軍と職業傭兵との信頼関係にヒビがりかねません」
私は頷きながら彼らへとこう強く告げた。
「よろしくお願いします。この國のために命を危険に曬しながら戦う人たちのためにも」
私の言葉に彼らは真剣な表で強く頷いてくれたのだった。
† † †
そこからさらに麓の村に移して私たちは一晩泊まることになった。
負傷者の容態が心配だったし何より疲れていた。生き殘ったとはいえ死亡者が出たという事実は、私たちの気持ちを重苦しくしていた。
宿代わりに麓の村の村長の別宅が提供される。怪我をしたフレーヌやキーファーもそこで介抱されることとなった。
大きな暖爐のあるリビングにて皆で火を囲みながらくつろいでいると老いた村長がやってくる。そして私たちにこう詫びた。
「今回の件は本當に申し訳ない。もっと早く事実を正規軍に訴えて介してもらうべきでした」
今さら謝られても亡くなったオーバス準1級の命は帰ってこない。抗議する代わりに私は問い詰めた。
「なぜそうできなかったのですか?」
「それは――」
村長の口から重苦しい言葉がれた。
「今回の騒を起こしたのは、この周辺で最もたくさんの山林を所有している富農でガルボーザと言う男なのですが、この村は材木の伐採と供給により営まれている村です。山林所有者に逆らっては生きていけません。今までも作業中の事故で怪我人が出てもずっと泣き寢りしています」
元軍人のマイツェンが言う。
「下手にを言えば〝村八分にされる〟ってわけか」
「はい」
そう答える村長の顔には後悔が強く浮かんでいた。ひとつ分かったことがある。この人は悪人ではない。この村の人たちも犠牲者なのだ。
「そのガルボーザと言う人は今どこに?」
「すでに正規軍に柄を押さえられました。職業傭兵への虛偽容での任務依頼の罪です。居住している邸宅も正規軍の軍警察により管理下にあるそうです」
「そうですか」
その時、元軍人のマイツェンが言った。
「この國じゃ、噓の容で軍隊や傭兵をかすのは罪が重い。下手すると財産沒収にまで発展するかもな」
私は村長に言う。
「いずれにせよ、悪事が発覚したことでこれからは良くなっていくと思います」
私のその言葉に村長は頭を下げて無言で詫びた。彼のの上ではそうするしかないだろう。
やりきれない思いはどうしても消えてはくれなかった。
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