《旋風のルスト 〜逆境の傭兵ライフと、無頼英傑たちの西方國境戦記〜》フェンデリオルに傭兵あり

―フェンデリオル國―

それが私達の住んでいる國の名前だ。

オーソグラッド大陸の中西部に位置し、海に接する事の無い陸國。

周囲を高い山に囲まれながらも、緑と水資源に恵まれ、富な農林資源と地下鉱資源に恵まれた國。

しかし周囲を軍事強國に囲まれているがゆえに古くから戦の絶えない國だった。

今から去ること――

600年前に先史フェンデリオル王國が滅亡――

350年間に渡る被征服時代を経て

250年前に再獨立――

新生フェンデリオル國が建國されて今に至っている。

それ以來、周囲の國々とはまぁなんとか仲良くやっているのだけど、唯一、西側の乾燥地帯で國境を接しているお隣さんとは獨立以後も〝山ねずみ〟と〝砂モグラ〟と言う蔑稱で罵り合う間柄が続いている。

その250年に渡るケンカ相手の名前は――

【トルネデアス帝國】

――太を神様として信仰している獨裁集権國家だ。

自分たちの神様が一番偉いと頑なに信じているから、自分たちの周りの國々に対しても橫柄きわまりない。

で、そんな連中と隣接している私達は常に張を強いられている狀態にあるのだ。

それもそのはず――

トルネデアスとフェンデリオルの國力差・兵力差は約10倍近い開きがある。まともに向かい合ったら面積、人口、総兵力と、ともに太刀打ちなんかできっこない。

だから、私達はひとりひとりの戦闘能力に磨きをかける事に力を注いだのだ。

『一人が十人を相手に戦うことができれば、國を守れる』

ずっと昔にご先祖様たちはそう考えたらしい。まぁ、無茶な発想だと普通は思うだろう。だが、私達の先祖はそれをやった。10倍差を埋めることに功したのだ。すごいよご先祖様。

それは【】という特殊技で、風火水土の霊科學をさしていう。一度は継承が途絶えて失伝したらしいが、250年前にが使える武――【】――と言う形で復活。10倍差を埋めて戦う事に功してみごと獨立を達したわけだ。

でも調子こいて、獨立するついでにトルネデアスの領地をごっそり戴いたりしたものだから、

「俺達の土地を返せ!」

「嫌だ! 返してほしけりゃ今までの狼藉を謝れ!」

「誰が謝るか! お前らなどに謝る理由はない!」

「なんだと?!」

「なにを!?」

「やるのか? こら!」

「おう! やってやらぁ!」

と私たちとトルネデアスは罵り合いながら、これを250年も続けているんだな。飽きもせずに。

だが、250年前に350年続いた被支配時代。その酷さは筆舌に盡くしがたいものだったらしい。

今なお、フェンデリオルの國のあちこちに、破卻された聖殿や神殿が殘されており、略奪の限りを盡くされ搾取され続けた當時のその爪痕が、生々しく殘されている。

私達フェンデリオル人は髪のや瞳のが種類が多岐にわたっている。

だがそれは被支配時代の圧政の忌まわしい産なのだ。

偉大な先祖たちは、多大な犠牲をはらみながらも苦難の末に故國を取り戻した。安住の地を手にれ、それを後世へと殘してくれた。

そんな彼らが殘してくれた故國を皆で守るために、ある制度が生まれた。それは――

――國民皆兵士制度――

つまり『フェンデリオルの正當な民であるのなら、自らの故國を守る兵士として戦うべきだ』と言う掟。

だからフェンデリオルの人々は誰もが戦うことができる。

を持ち、連攜し、連帯し、いざという時の困難に立ち向かう覚悟ができている。もちろん私もだ。

そしてこの制度は我が國に他では類を見ない獨特な軍事制度を生み出すにいたった。

戦闘を統率し指揮し、戦線を維持する役目の〝正規軍人〟

正規軍人の指揮に従い、戦闘に參加し、時には支援する〝市民義勇兵〟

さらに、常時戦闘に參加可能で最前線での戦闘行の擔い手である〝職業傭兵〟

これら3つの存在が連攜して國を守るという【三極軍兵制度】というものだ。

どんなに國民全で國を守るのがセオリーだとしても、日常生活を放棄してまで軍務に関わることはできない。だが、正規軍人だけでは戦いの擔い手は圧倒的に足りない。ならば戦士としての技量を持った人に報酬を支払って戦ってもらうと言うだ。

そんな都合のいい話があるものかと普通は思うだろうが、年月を経るうちに〝傭兵として戦う事の意義〟みたいなものが人々の中に芽生えていった。

ある人は、純粋に金のため。

ある人は、戦うこと以外に生きるすべを知らないため。

ある人は、己の武の技を磨きその限界を見極めるため。

ある人は、生まれ故郷の家族や仲間たちをを持って守るため。

ある人は、薄ら暗い過去から逃れるため。

ある人は、闇の社會から逃れて表社會へと戻るため。

ある人は、罪を償うため。

ある人は、それがフェンデリオルと言う國の正義であると信じているため。

様々な過去を歩いたその末に傭兵稼業へとたどり著くのだ。

今ではフェンデリオルの國のいたる所に、派手な武を抱えた傭兵たちが誇らしげに闊歩している。

――フェンデリオルに傭兵あり――

あぁ、そうだ。この世界に住まう者なら誰もが知っていることなのだから。

そしてフェンデリオルにはある特別な街があった。

――傭兵の街――

職業傭兵たちが集い暮らし、活拠點としている軍事支援市街地の事だ。傭兵たちを管理監督する傭兵ギルドが存在し、そのギルドの事務局を中心として街が発達している。

傭兵の街【ブレンデッド】

私、エルスト・ターナーが暮らしている街もそんな傭兵の街の一つだのだ。

街は今日も喧騒に満ちていた。

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