《旋風のルスト 〜逆境の傭兵ライフと、無頼英傑たちの西方國境戦記〜》果し合い・序盤戦

ドルスが言う。

「ほざいてろ」

私が返す。

「あなたがね!」

売り言葉に買い言葉、もう互いに引くことはできない。

ギャラリーの一番目立つ場所に傭兵ギルド支部長のワイアルドさんが腕を組んでしっかと見據えている。そして、野太い聲でこう言い放った。

「勝っても負けても恨なし! 敗者は勝者の意思に従う事、それが俺たち傭兵の果し合いの掟だ! いいな?」

ドルスが言う。

「応」

私が言う。

「異論は無いわ」

そしてワイアルド事務長が高らかに宣言した。

「始め!」

その力強い聲をきっかけにわたしたちは互いの武を振るった。

† † †

ドルスは私の眼前で片手牙剣を右手で抜き放ち刃峰を下に切っ先を下に向けて構えている。

右の半を前に、左の半と左足を後ろに引いて、いつでも突進できるように全に力をみなぎらせている。

対して私は、それに相対しながら戦杖の打頭部に近い方の竿を右手で握りしめる。そして打頭部を上に、竿の柄に近い方を斜め下へと向ける。右の肘は直角に曲げてドルスから見て戦杖の全が斜めに見えるよう構えた。

足は広げない。右足のつま先をドルスの方へ向け、左足のつま先をのそれと直角となる方へと向ける。力をためるドルスに対して、私は全から力みを抜いていく。

ドルスが瞬発的な『』なら、私は柳のように風にたゆとう『靜』だ、故に最初の一撃をドルスにされるがままに任せた。

「行くぜ」

ドルスが左足に力を込めて右足を踏み出し踏み込み、それと同時に右腕の牙剣を振りかぶる。

私はかすかに後ろ側に位置させた左足を浮かせると、ドルスのきをじっと見據えた。

――ブォッ!――

ドルスの片手牙剣が打ち込まれる。私はそれをわずかに軸を後方へとそらし、同時に、右肘だけをかして戦杖の打頭部を振るってドルスの牙剣の初撃を弾いていなした。

「おおっ!」

ギャラリーから嘆の聲がれる。だがこれで終わるわけではない。休むことなくドルスの第2撃がきた。

――ヒュンッ――

弾かれて下へといなされた剣の刃峰を手首を返して下から斜め上へと振り上げる。

私は肘と肩を引戻して戦杖の竿の下半分と柄の部分で牙剣を弾いてさらにいなした。

――キィンッ!――

初手の二撃を難なくかわして、初合は終わる。だが、そこからがドルスの攻撃の本番だった。

二撃目をいなされてドルスは更に上へと剣を振り上げる。彼の真の二つ名は〝早打ち込みのドルス〟――私はその驚くべき速さに度肝を抜かれることになる。

牙剣越しに垣間見えたのは一切のを凍らせた武人の顔だった。どんな相手でも手加減をしない彼の本が表れている。

私は、打頭部を右手で持ち、戦杖の柄を左手で持った、そして戦杖を垂直へと構えると、相手からの第3撃へと備えた。

――ゴオッ――

強い踏み込みと共に打ち下ろされる牙剣を戦杖の竿の中ほどでける。

――カキイィン!――

ダメージをそらすように斜めにすることで牙剣の打ち込みの軌道はそれていく。だがドルスはさらにヒートアップする。

弾かれたと同時に振り上げすかさず第4撃、

――キイン!――

これも戦杖の角度を変えて弾いていなす。

第5撃、私から見て左手へと弾かれたが橫薙ぎに斜めに打ち込まれる。

これを打頭部の側を後方へと引いて柄の部分をこちらも橫薙ぎに降り出して牙剣の打ち込みを弾いて返した。

――カァン!――

第6撃、反対側の斜め上からの打ち込み、後ろへと弾いていた打頭部を前方へと降り出し、ハンマーとしての重量を生かして強めに弾き返す。

――ギイン!――

そこでドルスが大きくいた。弾かれた勢いを殺さずにを使って上を後方へと反らすと、牙剣の重量を生かした極めて重い打ち込みを橫薙ぎに叩きつけてくる。

「來るぞ!」

「行け!」

ギャラリーがぶ中、私も大技へと移る。これまでは肩慣らしだ。ここからが私がに著けた戦杖戦闘の真骨頂なのだから。

軽くその場で両足で飛び上がるとすぐに足を大きく開いてしゃがみ込む。左手を柄から離して右手で竿の打頭部側を握り、自らの左肩の方へと右腕を振りかぶる。

大きく開いた両足の、右足を膝を曲げておいて、左足は後方へと投げ出す。ドレスのスリットから両足が覗いて太ももまでがわになるがこれもまた戦いの中の華の一つだ。

「おおっ!」

ギャラリーから再び歓聲が沸き起こる。これで終わりではない。右足をばし、左足を曲げてを引き寄せる。私のは瞬間的に後方へと移してドルスの剣をかわす。

――ブォッ――

私の眼前をドルスの剣の刃峰が通り過ぎていく。ひどくゆっくりとした時間の中で、ドルスの剣の下をかいくぐるように、私は左足を強く蹴出して右足のつま先を軸に半円を描くようにを移させる。

それと同じくして右手で左肩の上へと振りかぶっておいた戦杖の打頭部をそのまま勢いよく振り出していく。

前方へと弧を描くようにき、その弧に重ねるように右手の戦杖を竿を自らの手の中でらせるように降り出して、打頭部を勢いよく繰り出していく。

――シュオッ!――

私の掌の中で金屬のシャフトが心地よい過音を奏でながらのびて行く。そして戦杖の打頭部はドルスにとっても予想外のきと間合いで一気に攻め込んできたのだ。當然ながら回避は間に合わない。

「チッ!」

ドルスが舌打ちする音がする。慌てて剣の刃峰の柄に近い側でこれをけようとするが、片手牙剣では無理があった。

――ガッ――

「ぐっ!」

鈍い音ととも私の掌に戦杖の打頭部が相手のへと深く打ち據えれた事が伝わってきた。同時にドルスの顔がかすかに苦痛に歪んでいるのがわかる。

さらなる追い打ちを狙う。

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