《旋風のルスト 〜逆境の傭兵ライフと、無頼英傑たちの西方國境戦記〜》別離の風 ―ルスト旅立つ―
傭兵としての裝備や裝裝束が一通り揃ったら、今度は皆に別れの挨拶をすることになる。
まずは私の親友たち。彼たちと集まり、西方へと旅立つことを伝える。今回は仰々しくはしたくなかったので、あくまでも小規模なお茶會ということにして集まってもらった。でもそこは長年の付き合いのある親友同士だ。私が言葉にしなくても、みんな薄々じ取ってくれていたようだった。
私の決意を。
レミチカやコトリエと言った親友たちからは勵ましの言葉が次々に寄せられた。
「必ず、また會いましょう、それまでお元気で!」とコトリエ
「また帰ってきますよね?」とチヲ
「私たちは遠く離れていても、親友ですから」とレミチカ
するとレミチカの小間使い役であるロロが神妙な顔でこう言ったのだ。
「また會える日をお待ちしております」
「ええ、是非またお會いしましょう」
私がそう答えると、ロロは予想外の言葉を返してきてくれたのだ。
「よろしくお願いいたします。でないとレミチカお嬢様がまた月夜に窓辺にて泣きますので」
ロロの思わぬ発言に皆が笑い聲をあげたのだ。もちろん私も。
「ちょっと、ロロ!」
「事実です。お嬢様」
「事実だとして、何も今ここで言うことはないでしょう!?」
そんなやり取りを笑いながら見ているとトモが傍らから告げてくる。
「私もヘルンハイトに一旦戻ります。しばらくお會いできませんが、またどこかでお會いしましょう」
そうだ、彼は隣國からの來訪者だったのだ。一通りの目的の行を終えて、彼本來の活の場である學舎へと戻っていくのだ。
わたしは彼ともい握手をわした。
そして彼たちそれぞれから、武運長久を願う護符を渡された。
それをけ取りながら私は皆へと答える。
「本當にありがとう。でもこれが永遠の別れというわけでもなし。いつかまたきっとお會いしましょう!」
チヲが嬉しそうに言う。
「ええそうね!」
コトリエが力強く言う。
「私たちならきっとまだここで會えるわ」
そして、レミチカがしみじみとした聲で言う。
「これでまたしばしのお別れね」
その時、トモが意外な提案をしてきたのだ。
「ねぇ、みんなで寫真撮らない?」
「えっ? 寫真?」
チヲが驚き、ロロが言う。
「寫真屋さんのような人は連れてきてはいないようですが?」
だがトモが意外なものを持ち出した。
「これがあるの。ヘルンハイトの學関係で使われ始めた持ち運び型の印畫紙寫真よ。フィールドワークで調査活している時にはよく使うの」
私は思わず心していた。
「すごい! こんなに小さいんですか?」
目の前に現れたのは辭書一冊文の大きさのものだった。蓋を開いて中から蛇腹型のレンズを引き出す。そして三腳臺を広げるとその上に設置する。
でも、何か足りない。
「あ、でも撮影してくれる人がいませんわ?」
驚くレミチカにトモは言った。
「大丈夫よケーブル式の延長のシャッターがあるの」
そう言いながら長いケーブルをカメラから引っ張ってきた。そしてその端にある押しボタンを右手に握る。
「皆取りましょう! エライアが真ん中で!」
私を中心にしてみんなが集まってくる。そしてちょうどいいじで肩を並べると。トモが合図を口にした。
「それじゃあ行くわよ」
「ええ」
「3……2……1!」
――パシャッ!――
心地よい音を立ててカメラのシャッターが落ちる。私たちもその瞬間はカメラの中の印畫紙の上へと焼き付けられたのだ。
「後でみんなのところに送らせてもらうわ。もちろんエライアのところにも」
私は喜び笑顔を浮かべながらこう答えた。
「ええ、楽しみに待ってるわ!」
こうして私は親友たちに別れの挨拶を終えたのだった。
もちろんアルセラとも二人きりで言葉をし合った。今までのこと、謝の思い。そして応援していると――
モーデンハイムの本家邸宅の庭園の中にガラス張りのティールームハウスがある。二人きりでそこでくつろいでいた時、アルセラが言う。
「お姉さま」
「なに? アルセラ」
「これ」
言葉なに恥ずかしそうにしながら何か渡そうとしてくる。それをけ取り包みを開けると、そこから現れたのは意外にもワルアイユに伝わる武『三重円環の銀螢』だった。
アルセラは言う。
「もちろん本ではありません。オルレアの武職人にお願いして作っていただいた複製品です」
「複製品?」
「私が持っている本と全く同じ効力を発揮します。お姉さまでしたら必ず使いこなしていただけると思いました」
私は驚いた。まさかこの贈りをもらえると思っていなかったからだ。
「本當にいいの?」
「もちろんです! 大切なするお姉さまの力になればと思いまして」
もちろん斷る理由はなかった。三重円環の銀螢は遠距離攻撃に特化している。使いこなせれば戦闘狀況でより有利に戦いを進めることができるだろう。
「ありがとう! 大切に使わせてもらうわね!」
私の喜びようにアルセラも満足げだ。
「お姉さまのご武運をお祈りしております」
私もアルセラに答えた。
「ありがとう。私もあなたの勉學が大するように祈っているわ」
「お姉さま」
「アルセラ」
私たちはお互いの目を見つめ合うとしっかりと抱きしめ合う。アルセラが言う。
「今までありがとうございました」
「アルセラも元気でね」
「はい」
私が旅立つ――
その事実は瞬く間に世間を駆け巡った。々な人が私の所にやってきて挨拶をしてくれる。その中にはワイゼム大佐やソルシオン將軍の姿もあった。
たくさんの言葉が送られてくる中で私と決意と覚悟をたしなめるような人はいなかった。
みんな必ず勵ましの言葉をくれるのだ。
さらには傭兵ギルドのトマリ総帥の姿もあった。
私の所へと訪れて彼はこう述べたのだ。
「君が決心するのを待っていたんだ」
「はい。ご期待に必ずやお答えいたします」
「ああ、期待しているよ」
彼が私に対して並々ならぬ思いをめていることをじずにはいられなかったのだ。
そして、そして――
いよいよその日は訪れた。
5月中盤、心地よい風が吹き抜ける中で私は旅立つ。
モーデンハイム本家邸宅り口玄関で私は皆に見送られながら旅立つことになったのだ。
その時、セルテスが言う。
「向こうでの類や裝備品などはすべて新調されております。良質のものを揃えさせていただきました。傭兵の街での居宅も改善されるでしょう」
「住まいもですか?」
「はい。既に準備済みです」
そつがない仕事の手際に私はあっけにとられていた。そんな私にお母様は言った。
「家賃の気兼ねはしたくはないでしょう?」
お母様はニコリと一言。全部バレていた。
思わず笑い聲がれていた。
邸宅の全員が私を見送ってくれた。無論、使用人の全ても。これだけ沢山の人々に私は支えられてきたのだ。
セルテスが言う。
「それではお嬢様、旅立ちのお時間です」
「ありがとう。そろそろ行かせていただくわ」
そして、まずはアルセラ、
「お姉さま、お元気で」
お母様も言う。
「に気をつけてね」
そして最後にお爺様が私に言葉をくれた。
「達者でな。また會おう」
私は一杯元気な聲でこう答える。
「皆様、本當にありがとうございました。それでは行って參ります!」
そして私は深々と頭を下げる。そののち、を翻して毅然として歩き出した。
限りない自由と、確かな責務、そして人々の期待をその雙肩にじながら。
こうして私はモーデンハイム本家からブレンデッドの街へと旅立った。
今吹き抜ける風は春から夏へと変わろうとしていたのだった。
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