《旋風のルスト 〜逆境の傭兵ライフと、無頼英傑たちの西方國境戦記〜》天使の小羽亭、再び

が地平線の向こうへと沈み夜空に星が瞬き始める頃、私は辻馬車を拾っていつものあの場所へと向かった。

あえて顔を曬して自分の足で歩かなかったのは、みんなを驚かせてみたいと言うちょっとした茶目っ気からだった。

馬車の窓から天使の小羽亭が見えてきた。店の中の明るさが外へとれている。もうこの時間から盛り上がっているのが伝わってくるかのようだ。

天使の小羽亭からし離れた場所に馬車を止めてもらう。そして馭者の人にし多めに馬車賃を支払い馬車から降りていく。

そして足音を潛ませながら天使の小羽亭に近づいて行く。

スイングドアの隙間から店の中はそっと覗けば、晝間の一仕事を終えて夕食と酒に派手に盛り上がっているところだった。

「よし」

私は覚悟を決めて店の中へとそっとって行く。

――キィィ――

スイングドアをそっと開けてその中へと足を踏みれれば、ドアのかすかな音に気づいた人がこちらの方を振り向いていた。

「いらっしゃ――」

いらっしゃいと言いかけて言葉を詰まらせたのは、店の將のリアヤネさんだ。

「ルスト……ちゃん?」

明らかに驚いている。でもその一言が店の中に驚きの聲を溢れさせた。

「え?」

「だれ?」

「ルスト、ルスト?」

「噓ッ?!」

「ええーーっ!」

職業傭兵の人たちも、

お店のウェイトレスの人たちも、

たまたま居合わせた傭兵ギルドのジムのの人達も、

みんなみんな驚いていた、

私は完全に覚悟を決めて店の中へと進み出た。そして一言、

「ただいま」

そうみんなに告げた。

驚く顔、笑う顔、嬉しそうな顔、あっけにとられている顔、

いろんな顔が並ぶ中で私は言う。

「帰ってきちゃった!」

思わず笑い聲が出てしまう。いやこういう狀況では笑わざるを得ないだろう。するとみんなから怒濤の返事。

「帰ってきちゃったじゃねーよ!」

「いつ戻ってきたんだよ」

「連絡ぐらいよこせよ!」

「今までどこで何やってたんだよ!?」

半ば罵聲に近い驚きの聲が浴びせられたかと思えば、

「おかえり!」

「一瞬誰かと思っちゃった」

「綺麗になったね」

「見違えるようだよね」

お店のウエイトレスさんたちが大喜びで手招きしてくれる。

「さ! こっちこっち!」

お店の中、廚房に近い方にテーブルを一つ用意してくれた。すると店の中の男たちからブーイングが巻き起こった。

「なんでだよ」

「おいこら! そっち連れてくなよ!」

するとリアヤネさんが笑いながら彼らをあしらった。

「いいのよ! 後であんた達んとこに回すから!」

そう言いながら大喜びで私の所へと駆け寄ってくるのだ。

テーブルの席に腰を下ろしている私にリアヤネさんが言う。

「おかえりなさい」

「ただいま帰ってきました」

「本當に、よく帰ってきたわね」

「それは――」

私はどこまで話そうか迷った。するとリアヤネさんはし真剣な顔で言う。

「〝お母様〟はどこまで許してくれたの?」

その言葉にはリアヤネさんが私の実家筋の事をそれとなく理解してくれているという事の証拠でもあった。

私は差し障りのない範囲でこう答えた。

「あなたの好きになさいって。でも、時々顔を見せに帰ってきてとも言われました」

私のその答えにリアヤネさんは笑みを浮かべる。

「そうよね。今までと違って気兼ねする必要ないんでしょ?」

「はい!」

「よかったね。歓迎するわよ」

「ありがとうございます!」

「えぇ、積もる話はいっぱいあるけどとりあえず今はゆっくり飲み食いしてちょうだい。何にする?」

「じゃ、エール酒とポトフで」

「わかった待ってて!」

注文を聞くのと同時に他のウエイトレスさんからエール酒のったジョッキが渡される。

すると店の中の職業傭兵の男の何人かが私の所へとやってきた。

「お帰り!」

「よく帰ってきたな」

「また、この商売を始めるつもりか?」

真面目な顔で問いかけてくる彼らに私は言う。

「はい! また一から頑張ろうと思います」

「そいつぁいい!」

「期待してるぜ旋風の!」

「はい」

すると集まってきた男たちの一人がこう切り出した。

「そういやぁ、お前の前の借家空っぽになってたけど、今どこにいるんだ?」

「あ、引っ越したのか?」

これについてはうまくごまかすしかない。

「あー、それはですね――」

説明に苦慮しているところに聞き慣れた聲が投げかけられた。

「ルストの嬢ちゃんの新居についちゃ、緒で頼むぜ」

「迂闊にバラすと、ワイアルド支部長の雷が直撃するぜ」

聞き慣れた二つの聲は、

「ダルムさん! プロア!?」

とても見慣れた顔。そして聞き慣れた聲。この街にいて一番安心する聲だ。

挨拶よりも前に二人の説明が続く。

「どういうことだよ?」

プロアが真剣な顔で言う。

「今、ルストは職業傭兵として人気が出過ぎて、くだらないから真面目なまで依頼が殺到している狀態なんだ」

「いわゆる偶像(アイドル)に祀られちまってるって狀態だ」

ダルムさんの補足の言葉に職業傭兵の男の一人が呟く。

「無駄に名前が売れちまってるって事か?」

「ああ」

プロアは続けた。

「半年間の休業でかなりほとぼりは冷めてきたが、それでも無理な要求をしようとする候族様や、なんのかんのと理由をつけて自分の手元に置いておきたい。そういう馬鹿が未だに後を絶たないんだ」

プロアは派手にため息をついていた。私が思うにワイアルド支部長の頼みでそのへんの後始末をしているのではないかと私は思う。

さらにダルムさんは言う。

「こないだもルスト嬢ちゃんの昔の家を一晩中見張っていた馬鹿野郎が居たからな。大事をとって引っ越しさせたんだ」

「そういう事すか」

「じゃあ俺達も迂闊なことは聞かないほうがいいな」

「あぁ」

店の中のみんなが頷いてくれていた。阿吽の呼吸でみんなの気持ちが繋がっていく。こういう景を目にするとやっぱりこの街に戻ってきてよかったと思わずにはいられなかった。

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