《旋風のルスト 〜逆境の傭兵ライフと、無頼英傑たちの西方國境戦記〜》乾杯!<トーストン!> ―ただいま! ブレンデッド!―
なにわともあれ、
「よく帰ってきたな」
そう言うのはダルムさん。
「よぉ」
シンプルな言葉で笑みを浮かべてくれるのはプロアだった。
「ただいま戻りました」
「あぁ、待ってたぜ」
「はい! ありがとうございます」
そして、ダルムさんは言う。
「査察部隊の仲間たちも來てる」
親指で指差す先には懐かしい顔ぶれがテーブルを囲んで手を振ってくれていた。
カークさん、パックさん、ゴアズさん、バロンさん、ドルス、みんな揃っていた。
「みんな!」
私は思わず手を振った。喜びが抑えきれなかった。
プロアが言う。
「話そうと思えばいくらでも話せる。でも今は、まずはこれだぜ」
そう言いながらプロアもダルムさんもその手に酒の注がれたジョッキが握られていた。
「乾杯ですね」
「ああ!」
その言葉が出るとみんなが一斉に立ち上がってくれた。もちろんみんな手にお酒のったグラスやジョッキを手にしている。
「ほらお前も立て!」
「はい!」
私もジョッキを手に立ち上がるとみんなの方を向いた。
若い職業傭兵の一人がみんなで聲をかける。
「おーい! 乾杯の掛け聲誰がやる?!」
「そりゃ決まってんだろ?」
「ルストが帰ってくるのを一番首を長くして待ってたこの人じゃないの?」
そしてあの人の名前が呼ばれた。
「ねぇ? ワイアルドの旦那!」
その名前に私は思わず言ってしまった。
「えっ? 支部長居たんですか?」
「居ちゃ悪いか?!」
「いいえ、そういう訳じゃ」
はっきり言おう。あんまり靜かにしていたのでまるっきり気がつかなかっただけだ。
「大丈夫だ、分かってるよ」
そう言いながら杖を頼りに立ち上がる。
その右手にはジョッキが握られていた。
「さて――」
ワイアルド支部長の野太い聲が天使の小羽亭の店の中へと広がっていく。水を打ったように店の中が靜かになっていく。
「半年間の休業を終えて、いよいよ〝旋風のルスト〟が活を再開する! こいつには今まで以上に多くの人の期待がかけられることになるだろう。みんなも協力してやってくれ!」
その言葉に強い返事が返ってくる。
「もちろんですよ!」
「任せてくださいって!」
それは聞き慣れた聲だった。聲の主を視線で探せばそこにいたのはマイストとバトマイの二人だった。
よく見るとマイストさんの方は顔の右半分に火傷の跡があった。おそらくはこの半年間の間に戦場で負傷したのだろう。
でも彼には暗さは微塵もない。傷跡すら勲章のように誇らしげにしていた。
ワイアルド支部長は言う。
「それでは、ルストの前途を祝して!」
「おお」
「待ってました!」
ワイアルド支部長の力強い聲が響いた。
「乾杯(トーストン)!」
そしてみんながジョッキやグラスを頭上高く掲げた。
「乾杯(トーストン)!」
乾杯の掛け聲の後にみんなで酒盃を仰ぐ。
そしてみんなの聲が一斉に響いた。
「おかえり!」
「ただいまみんな!」
みんなの喜びの聲が飛びっている。私に祝福の聲が浴びせられる。
この街で私は自分の人生を摑んだ。
この街が私のもうひとつの帰るべき場所だったのだ。
帰ってきてよかった、心の底からそう思わずには。いられなかったのだ。
夜を徹しての歓迎會が繰り広げられ、私はほろ酔い気分で家へと帰ることになった。
その際に一人では騒だからと、いつぞやのように査察部隊の時の仲間たちが送ってくれたのだ。
天使の小羽亭ではゆっくり話すこともできなかったからこれはこれで嬉しかった。
ゆっくりと歩きながらみんなで會話を楽しむ。
他のない何気ない會話が進んだ。
「本當に帰ってきちまったんだな」
そうぼやくのはドルス。私は答える。
「うん。これが私の進むべき道だって確信が持てたから」
するとそこにパックさんが言った。
「道が見えたのは良いことです。ルストさんならその道の先に大きな果を見つけることができるでしょう」
カークさんが頷いていた。
「ああ、そうだな」
カークさんは何か思い出したかのように言う。
「〝大きな寶をするのであれば、まずは船に乗れ、そして航路を渡りきれ〟――ジジスティカンに伝わることわざだ」
ゴアズさんが言う。
「そうですね。まだやっと旅が始まったばかりですから」
バロンさんがしみじみと言う。
「〝人生〟と言う長い長い旅路だな」
ダルムさんが頷いていた。
「あぁ、とてつもなく長い旅だ。でもルストなら大丈夫だ」
プロアが言う。
「當たり前だ。何があっても絶対に諦めないからなこいつは」
すると、ドルスが笑いながら言った。
「ちげぇねぇ!」
ゴアズさんが言う。
「諦めの悪さも、徳の一つですよ」
そんなことを話しながら私たちは歩いて行く。
そして見えてきた私の新しい家。
ダルムさんが言う。
「ここか」
「はい」
ドルスが言う。
「いい家じゃねえか」
「ええ、応接間もあるんで來ていただいてお茶を出すこともできますよ」
「そりゃいいな」
ダルムさんが何かに気づいたしみじみと言う。
「用意してくれたんだろ? おふくろさん」
「はい。これからの私と暮らしを思って心を込めてこの家を用意してくれたんです」
カークさんが言った。
「だったらなおさら、中途半端には諦められないな」
「もとよりそのつもりです。自分自でもう十分だと思えるまで、職業傭兵の世界で生きていこうと思います」
その言葉にみんなが無言で頷いてくれていた。
聲を発したのはプロアだった。
「ルスト」
「はい」
「これからもよろしく頼むぜ」
あの時のみんなの顔、一つ一つを見つめながら私は言った。
「これからも、よろしくお願いいたします」
彼らとは長い長い付き合いになりそうな気がする。そう思うのだ。
「それじゃ、おやすみなさい」
「ああ」
「おやすみ!」
「また明日な」
「はい」
手を振りながら彼らと別れる。そして家の鍵を開けて中へとっていく。私が家の中に戻ったのを確かめてみんなは帰っていった。
戸締りをして、2階の自分の部屋と戻っていく。
ドレス一式をいでネグリジェに著替えると私は布団の中で潛り込んだ。
歓迎會の喧騒が未だに耳の中で殘響として殘っていた。心地よい寢の中、私は眠りに落ちたのだった。
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