《才能(ギフト)がなくても冒険者になれますか?~ゼロから始まる『長』チート~》第一話
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どこかに存在する世界。
そこは『デュナミス』と呼ばれている。
この世界では十二歳になると第一人の儀というものをけることになる。
これは十二歳まで元気に育ってきましたね、おめでとう――というお祝いの儀式である。
だが、それと同時に將來を左右する、大切な儀式でもあった。
祝うと同時に、神よりギフトと呼ばれる特別な力を得るのがこの儀式のメインであった。
通常二つか三つ、多い場合では最大五つのギフトを授けられる者もいるという。
ギフトには戦闘に向いているもの、援助に向いているもの、はたまた店を開くのに向いているなど様々な能力がある。
そして、戦闘に向いている能力を得たものの多くは冒険者になる者が多かった。
冒険者とは強さの象徴であり、兇悪な魔を退治し、難解なダンジョンを攻略し、困っている人の依頼を解決する――そんな憧れの存在である。
この世界に生きる男の子であるハルもその例にれず、冒険者を目指していた。
更にその思いを強くしたできことがある。
ハルはいころに一人で遊んでいたところを魔に襲われ、命からがらというところを冒険者に助けられた。
その時に出會った冒険者は強く、そして優しく、それでいて頼もしさに溢れる――眩しいと思えるような存在であり、以降ハルにとって憧れの人となっていた。
その冒険者のようになりたい! ――きその日からハルは戦闘系のギフトを得て、彼のような冒険者になることを夢見ていた。
しかし、現実はハルに対して厳しかった。
「……えっ? な、なし……?」
この世界では自らのギフトを確認する『水鏡』という力を誰しもが持っている。
そしてハルは十二歳の第一人の儀にて自分のギフトを確認して驚愕する。本來希に満ち溢れるはずだった彼の顔からはが無くなっていた。
そう――彼のギフト欄はなぜか空白だったからだ。
この世界の誰しもが與えられるはずの神からの祝福――ギフト。しかし、ハルだけは何も與えられなかった。
人の儀を執り行う神父は、ハルが冒険者を目指していることを知っていたため、何かの間違いであることを願って何度か繰り返し儀式を行ってくれたが、それでも結果が変わることはなかった。
ハルが強い思いを持っていることを知っている者は、誰も彼に聲をかけられなかった。
黙り込んでい表をしている彼の父も、顔をくしゃくしゃにして大粒の涙を流す母もハルのを抱きしめることしかできずにいた。
しかし、そんな中にあっても彼だけは常にこの言葉を口にする。
「――ギフトがなくたって、絶対に冒険者になってやる!」
いつしかそれが彼の口癖になっていた。
それから數年の月日が経過する。
ハルの姿は地元にはなく、遠くの街にあった。
長したハルは長は人族男の平均よりもやや高め、一見細に見えるが鍛えたは引き締まっている。黒い髪の彼は、様々な髪をしている人々の中でも目立っていた。
そんな彼の目は今も曇っておらず、前を見続けていた。
ハルは冒険者になることはできなかったが、冒険者パーティにポーター――つまり荷持ちとして參加することで、知識と経験を積んでいた。
魔の報、素材についての報、薬草などの報。
戦うことのできない彼はそれらの報を集めることで、いつか冒険者になった時に活用しようと考えていた。
ハルはポーターとして有効なギフトを持っておらず、一部の冒険者からは能無しポーターとも呼ばれていたが、格安で仕事を請け負うことでなんとか仕事をけることができていた。
そんな彼は冒険者ギルドにいた。
ここでは、腕に自信のある者たちがパーティを組んで依頼をけ、それをこなすことで生計をたてている。
第一人の儀にてギフトをもらい、剣の腕に自信のある者、魔法に自信のある者、はたまた力自慢の者――それぞれがそれぞれの特を生かして魔の討伐や素材の採集などを行っていく。
「おい、ポーター! 早く行くぞ!」
「あぁ、今行くよ」
ハルが今回參加したパーティは剣士がリーダーで、他に斧を扱う戦士が一人、遠距離攻撃擔當の魔師に弓使いの四名の構だった。
「……よいしょっと」
彼は荷を背負い直すと、今回のパーティのあとをついていき、とあるダンジョンへと突していった。
今回突するダンジョンは全十五階層で、地下に下っていくタイプのものになっている。
半分になる七層を突破したところで、開けたエリアがあり、彼らはそこで食事休憩をとることにした。
ダンジョンの常識で、階段を降りてすぐの場所は安全なエリアであり、魔が現れることもない。
今回もその通りであり、一行は裝備を外して気持ちも緩み食事や雑談を楽しんでいた。
「――ん? なんだろ? 何か、音が……」
しかし、休憩中の最中もすぐけるように簡単に食べられるものだけを口にしていたハルは、ふいに耳にり込んできた些細な音の変化に周囲をキョロキョロとみていた。
特別な力がないハルは魔の知識と、周囲の警戒を怠らないことでここまで生き延びてきた。
「なんだ、ポーター? 何かいるのか?」
「いや、何か音が近づいて……」
訝しげな表で問いかけてくる戦士の言葉に、首を傾げながら自分たちがこれから向かおうとしている方向をハルは見つめる。
じっと目を凝らしてみていると、すぐにその音の正がなんなのかわかってくる。
「サ、サラマンダーだ!」
誰かがんだと同時に全員が素早く立ち上がり、できる範囲で荷をまとめていく。それはもちろんポーターであるハルも同様だった。
サラマンダーとは、炎の竜、地を這う竜とも呼ばれており飛ぶことはできないが、強力な力を持つ竜種である。
討伐難易度は上から數えたほうが早く、本來ならばこのダンジョンに出るようなレベルの魔ではなかった。
結論から言うと、そんな魔と遭遇しつつも彼らはここを切り抜け生き延びることになるが、その最も大きな要因はリーダーの判斷が素早かったこと。
「みんな、すぐに上の階に逃げるぞ! 余計なことは考えるな、逃げることだけ考えろ!」
サラマンダーの素材がかなりに金額で取引されるため、気を出すものがいるかもしれない――そう考えたリーダーは誰かの中でその考えが浮かんでくる前に聲を上げ、逃げることを指示していた。このリーダーの判斷力にみんなついてきたところがあったため、彼の言うことに反論する者はおらず、そろって全員が逃げ出していった。
そのリーダーが賢く、判斷が早いことで危険な目にあう人がハルだった。
「……おい、デグダズ、力を貸してくれ」
デグダズとは彼らのパーティの中で最も力のある、力自慢の熊の獣人の戦士だった。リーダーの言葉に黙って頷いたデグダズは何かを察したようにハルの肩に手を乗せた。
「わっ! な、何をするんだ!!」
そして細のハルをひょいと持ち上げたリーダーとデグダズは、力任せに擔ぐとどこかへ投げ飛ばすように勢いをつけだす。
「悪いな、俺たちが逃げ切るためには誰か殿をつとめないといけない。俺たちパーティは同じ村の出だ。あとは……わかってくれ。いくぞ、そーれ!」
悪びれる様子もなく二人はハルを思い切りサラマンダーへと放り投げる。
「わあああああああああ!」
元々戦う力のないハルは急なそれに逆らうこともできず、ただただサラマンダーに向けて飛ばされてしまった。
この絶的な狀況、空中であるため、勢を整えるのも難しい。だがハルの頭は妙にさえわたり始める。
「(サラマンダーはに炎を纏っている。そして、炎のブレスを吐き出すけど溜めに時間がかかるから、すぐに出してくることはないはず)」
こんな狀況にありながらも、しづつ溜め込んできた魔の知識がすらすらと出てくる。そうしてハルはサラマンダーの報をかき集め始めた。
自分のできることはない、しかし相手のことを知ることで何か打開策が浮かんでくるかもしれない。
それは特別な力をもたないハルのせめてもの抵抗だった。
そして、ハルはかきあつめた知識の中からある一つのことを思い出し、をよじって腰にに著けているナイフをなんとか抜くことに功する。
だがサラマンダーはもう目の前に迫っている。ギラギラとした眼差しでハルを獲として認識し、食いかかろうと臨戦態勢だ。
竜種はどれも強固な鱗に包まれており、よほどの名剣、よほどの腕前でもない限りダメージを與えることは難しい。
しかし、竜種である限り、ある弱點を持っている。それが逆鱗と呼ばれる一つだけ変わった鱗のことであった。
なにごとも念りに調べるハルはその知識を持っており、更に、命の危険が迫っているこの狀況のおかげか偶然、一つだけ様子の違う鱗を見つけることに功していた。
その二つがそろった現狀――あとはぶつかる瞬間にナイフを逆鱗に突き立てる。これがハルがとれる最善の作戦だった。
「やあああああああ!」
歯を食いしばって気合をれ、自をい立たせるような掛け聲を上げながら、ハルはナイフを逆鱗に突き刺す。
狙い通りにナイフは逆鱗に突き立てられたが、に炎をまとっているサラマンダーにれたため、ハルのはみるみるうちに火傷を負っていく。
それでもハルは厳しい表をしながらもナイフを離さず、しでも奧に、しでも深く突き刺さるように渾の力を込めていった。
「GYAAAAAAAAA!」
唯一の弱點である逆鱗を攻撃されたサラマンダーは、悲鳴のような聲を上げてバタバタとのたうちまわっている。に纏われている炎もそれに合わせて噴き出され、ハルのを焼き焦がそうと暴れまわる。
「ぐはぁ!」
その衝撃でにダメージを負うハルだったが、それでもナイフからは手を離さない――なぜなら離してしまえば吹き飛ばされ死んでしまうかもしれない。自分の夢である、あの冒険者のようになれるまでは死ねないとハルは気持ちを強く持ち、ナイフを強く握っていた。
だが現実は非だった。力あるサラマンダーが大きく暴れたことで、足場にヒビがっていく。
「っ――まずい!」
ピシッという音に気づいたハルが聲をあげるが、その時には足場が崩れ、何もすることができないままサラマンダーと一緒にそのまま下層へと真っ逆さまになっていた。
もろく崩れ落ちた足元からの空中落下はしばらく続く。
目まぐるしい狀況にハルは既に意識も絶え絶えだったが、ナイフだけはなんとか握り続けている。
長い落下の後に、ついには最下層へと辿りつき、ナイフが押し込まれたのと、落下の衝撃で、ついにはサラマンダーが息絶える。
サラマンダーの上に突き立てたナイフの上にたたきつけられるように落下の衝撃をけたのはハルも同じだった。
火傷や落下の衝撃の痛みに思考がままならなかったが、彼はそんなことよりも薄れゆく意識の中、なぜかき通るような聲で頭の中に聞こえたある言葉が気になっていた。
【レベルが上がりました】
この世界は人の儀によりギフトと呼ばれる力を與えられる世界――決してレベル制のゲームのような世界ではなかった。
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