「――っ、一何が……」

ハルは、既に山にっており、この山に生息するサンダーバードのをとるために奧へ進むとある地點で驚愕に足を止めた。

そこにあったのは、數十のサンダーバードの死と、をべったりとつけて倒れている冒険者の姿だった。戦いの影響か砂埃や返りなどで薄汚れている。

「っと、こんなことしてる場合じゃないな。大丈夫か！？」

ハルは、ぼうっとしていたことに気づいて、慌てて冒険者のもとへと駆け寄った。

頭を揺れかさないようにそっと抱きかかえて様子を窺うと、彼の顔は真っ青になっていた。

「これはまずいな……」

ハルは、周囲を見渡すと彼を抱えて木に移する。この辺りはポーター時代の経験が生きた。

そして、木にもたれかからせるとカバンの中から回復薬を取り出す。

「買ってきてよかった……まずは、頭からかけるか」

彼が気絶している原因がどこにあるかわからなかったが、回復薬をかけることで多のダメージを回復させることができる。

そっと流しかけながらハルは冒険者の様子をじっと見ていた。

「あとは、魔力回復薬を……」

こちらは一本しか買ってきていなかったが、出し惜しみをするわけにもいかず、彼の口元にあてて、しずつ飲ませていく。

まだ、意識は完全には戻っていないようだが、呼びかけに微々たる反応があり、口の端からこぼしながらもしずつではあったものの、魔力回復薬を飲んでいる。

どうやら魔力の枯渇が原因の一つであったらしく、魔力回復薬を口にした彼の頬にし赤みがさしたように見える。

彼の狀態がし安定したのを見て、ハルは荷から布を取り出して彼にかけて、自分は周囲の警戒をしていく。

まず最初に確認したのが、倒れているサンダーバード。

綺麗な死であるため、ハルはを抜いてカバンにしまっていく。

採集するのはどのでもいいわけではなく、雷の魔力が多く蓄えられている數本ののみが依頼の対象になっている。

死はいくつもあるが、どれも目立った傷はなく、魔法によるダメージもみられなかった。

「……彼がやったのか？」

近くにいたのは彼だけであるため、そう予想したがもう一つの可能もハルは考えていた。

ハルは山を登ってここまでやってきた。

今いる場所は山の中腹あたりで、ここのあたりから徐々にサンダーバードが現れてくる――はずだったが、実際にいたのは數十のサンダーバードの死と気絶した冒険者が一人だけだった。

しかし、ここに來るまでに冒険者パーティとすれ違っている。

會釈をすると、相手も會釈を返してきたが、彼らは慌てている様子で急いで山を下りて行った。

「もしかしたら……」

彼を囮にして逃げたのか？　と自が囮にされた嫌な記憶を思い出しつつ、疑問を抱いたハルが木に戻る。

しばらく周囲を警戒しながら過ごしていくが、魔が現れることもなく、彼の目覚めの時間がやってきた。

瞼を揺らし、ゆっくりと目を開いた彼はゆっくりとを起こすと、戸いながら周囲を確認し、ハルを確認したところでぽやっとした表のまま、その視線を止めた。

そして、自らの口元に人差し指をあてると何が起こったかのかを寢ぼけまなこのまま、思い出していく。

そして、數十秒ほど経過したところで彼の目が大きく開かれる。

「――なっ！　わた、どう、なんで！　何が！？」

混した狀態の彼が縋りつくようにハルに問いかけるが、それは言葉になっていなかった。

「まあまあ、落ち著いて。まずはこれを飲もう」

彼の混する気持ちがわかるため、優しく聲をかけつつハルはカップに水を注いで手渡す。

が渇いていたのか、彼は揺したままカップを取ると、ごくりとを鳴らし、こらえきれないようにカップを傾け、一気に水を飲み干してしまう。

「ははっ、もう一杯飲むか？」

彼のいい飲みっぷりに笑みがこぼれたハルの問いかけに、彼は何度も頷いた。

そして、空になったカップに再度水筒から水を注いでいく。

今度はさっきよりもゆっくりと飲んでいく。

そして、それを飲み終わったところで恐る恐るカップをハルへと返す。

「落ち著いた？」

「は、はい、あの、ありがとうございます。多分、ですけど……あなたが助けてくれたんですよね？」

改まったように姿勢を正し、落ち著いた彼はし伺うように遠慮がちな態度でハルに禮を言う。

彼を運んだ時は、細かいことを気にする余裕がなかった。

そこで、改めてハルは彼を見ていく。

いまだところどころ汚れている彼が狐の獣人であることはぴょこんと髪から大きく飛び出す耳と腰のあたりから出ているふわふわの尾が証明している。

その顔は可らしく、年齢はハルと同じかし下。綺麗な栗の長い髪をしている。

一般に人と言えるが、どこかがある雰囲気だった。

「……あ、あの？　どうかしましたか……？」

無言で彼の様子を窺っているハルに対して、居心地の悪い様子で彼が質問する。

「あ、いや、すまない……いまのは不躾だったな。俺は冒険者のハル――この間なったばかりだ。ここにはサンダーバードのの採取に來たんだが……そこで、サンダーバード數十の死と共に倒れているあんたを見かけてここに運んだんだ」

ポーター時代の癖で、観察するように思わずじろじろ見てしまっていたことに気づいて我に返ったハルは謝罪と共に、自己紹介、そして、ここに至るまでの流れを簡単に説明する。

「そうだったんですね。本當にありがとうございます……」

きゅっと元で拳を作った彼はハルの言葉を聞いて、深々と頭を下げた。

「あっ、申し遅れました。私の名前はルナリアと言います。私も冒険者で、期間はそれなりなんですけど、ランクはまだＥランクです。改めて、ありがとうございます」

彼は自己紹介をすると、再度ぺこりと頭を下げる。

「あぁ、それは気にしなくていいんだが――何があったか教えてもらっていいか？」

ハルの言葉にルナリアは表を暗くして視線を地面の方に落とすと、ポツポツと語り始める。

「……あの、私見てのとおり魔法使いなんです」

彼がに著けているローブ、そして彼を抱きかかえた時に一緒に拾っていた杖。

それらは彼が魔法使いであることをしめしている。

「あぁ、そう、みたいだな」

當たり前のことを言われたため、ハルは戸った反応になる。それがなんだというのだろうと不思議だったのだ。

「――でも、私魔法が上手く使えないんです……」

泣きそうな聲音でそう言うと彼は杖を持ち上げて、誰もいない方向に構える。

「ファイアーボール！」

ファイアーボールとは、火魔法の初級魔法で、名前のとおり火球が杖の先や手のひらから飛び出していくものである。

しかし、彼の杖からは小さな火種がぽふんと飛び出ただけですぐに消えてしまう。

「アイスボール……！」

今度は氷の魔法を使おうとする。しかし、ほんの小さな氷の塊がその場にポトリと落ちるだけだった。

「こう、なんです……」

基本的な二つの魔法のどちらも発はするが、結果は本來のものとはかなりかけ離れている。

悲しげにハルを見つめながらルナリアはをかみしめた。

「その、ギフトは……？」

「私のギフトは”火魔法”、”氷魔法”、”風魔法”、”土魔法”、”雷魔法”の五つです」

それを聞いてハルは驚く。

「い、五つ！？　ファイブエレメントだって！？」

先ほどの魔法の威力とギフトのあまりの相反合にハルは思わず食いついてしまった。

神より與えられるギフトの最大數は五つと言われている。

その上で、五つの屬が使える者を敬意を表してファイブエレメントと呼ぶことがある。

一生のうちに一人會えるかどうかという、五つのギフト持ちの中でも、その全てが各屬になっているというレア中のレアな存在――それが彼、ルナリアだった。

「えっへん！　……と言いたいところなのですが、先ほどの魔法を見てわかるとおり、ギフトがあるはずなのに、どの魔法も上手に使えないんです。使えるのは、魔力をそのまま放出する無屬魔法なんですが、私の場合、細かい出力調整ができなくて、無屬の場合、持っている魔力のほとんどを失ってしまうのです……」

最初はちょっと自慢げだったルナリアだったが、次第に落ち込んでいく。

彼の話を聞いてハルはようやく合點がいく。

「じゃあ、あのサンダーバードを倒すのに無屬魔法を使ったということか……そして、そのまま気絶した、と」

「はい……本當は一緒に來た人たちもいたんですけど、大量の魔に追われてしまって……その、私は押されて転んで、えっと、あの、囮に……」

もごもごと口ごもるように最後は言葉にならなかったルナリア。彼のパーティメンバーは、魔法がろくに使えない彼を囮にしたということだった。

恐らくは、ハルがここに來るまでにすれ違った連中が彼のパーティメンバーだったのだろう。

「……許せないな」

自も囮にされた経験を持つハルはぎりっと悔しげにこぶしを握る。

仲間を囮にするなど冒険者としてあるまじき行為であるため、ハルは怒りを覚えるが、ルナリアは靜かに首を橫に振った。

「いいんです、私なんかをパーティにいれてくれただけでありがたいので……」

彼は足手まといであると自覚しているため、それだけのことをされても怒りを覚えていないようだった。

だが彼の耳と尾が悲しく垂れ下がっているのを見れば、何も思わなかったというわけではないのが伝わってくる。

その姿が酷く悲しく見えたため、ハルはその原因を探ることにする。

「――し、見せてもらうぞ」

そう言って、ハルは悲しみに揺れるルナリアの目をしっかりと見て、彼のステータスを『鑑定』する。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

名前：ハル

別：男

レベル：１

ギフト：長

スキル：炎鎧２、ブレス（炎）１、ブレス（氷）２、竜鱗１、耐炎２、耐氷１、氷牙２、甲羅の盾、鑑定

加護：神セア、神ディオナ

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

お読みいただきありがとうございます。

ブクマ・評価ポイントありがとうございます。