「――ん、あぁ……俺、寢ていたのか？」

「ハルさん……！」

「ハル！」

目覚めたハルが最初に見た景は、知らない部屋。

そして呼びかけに視線を向けると、涙じりに微笑みながらハルの右手を握るルナリアと嬉しさいっぱいで彼のに抱き著くエミリの姿が目に飛び込んできた。

「あぁ、二人とも無事だったか。よかったよ」

ハルは自分ののことよりも、最初に二人が無事であることに安堵する。

「っ……もう！　それはこっちのセリフです！　ハルさん、四日も寢ていたんですからね！」

「そうなの！！」

「ははっ、悪かったよ」

怒った口調で、それでも心配してくれる二人に対してハルは思わず笑顔になっていた。

「おやおや、やっと主役のお目覚めだね」

部屋に來たのは巫のシルフェウスだった。ふわりとほほ笑みながら部屋のり口のあたりで見守っていた。

彼の魔力枯渇はすぐに回復して、翌日にはけるようになっていた。

「あぁ、これはどうも。最後の回復魔法のおかげで古龍を倒すことができた……できたよな？」

最後のほうの記憶が曖昧になっていたため、謝の言葉を口にしつつも不安になったハルはを起こしながらシルフェウスに念のため確認する。

「あぁ、君が見事に止めをさしたよ。もう真っ二つ、あれでけたらゾンビだね」

肩をすくめながら近づいてきたシルフェウスは冗談めかしてそんな風に言った。

「倒せたならよかった。ゾンビじゃないことにも安心したよ。それで、どうなった？」

ハルが眠っていた數日の間に何が起こっていたのか、エミリやミスネリアの巫の件はどうなったのか――それが一番の心配事項だった。

「うーん、それなんだけどねえ。ほら、最後にあらわれた古龍。あいつを倒した人が巫ってするのが一番わかりやすかったんだけど、アレを倒したのは君だから。人族の男を巫にするわけにはいかないだろう？」

シルフェウスは困ったものだと両手を広げている。

「あー、まあでもあれはな」

「ふふっ、冗談さ。責めてはいないよ。まあ、そういうことなのでどうするかの會議もだいぶ長引いたのさ。その結果……」

最初は笑っていたシルフェウスは言葉をそこで止めると、真剣な表になる。

ハルはごくりと唾を呑んだ。

「どちらも十分な実力があると認められた。エミリとミスネリアの二人とも巫の修業をけるに足る才能、人格、実力を兼ね備えているってね」

「つまり、どういうことだ？　巫っていうのはそもそも一人だろ？　二人に修行をけさせて、いい結果の方を採用とか？」

ハルの質問にシルフェウスは首を橫に振った。

「ははっ、それじゃあ、ダメだった方がかわいそうじゃないか。落しない限り、二人とも巫ということさ。前例はないみたいだけど、前例がないなら作ればいい……だろう？」

いたずらが功したような笑顔のシルフェウスと打って変わって、ハルはし考え込むような表をしている。

「まあ、とんでもないことがあった後で、急な決定になるから君たちの意見も聞きたいと思う。だから、三人で々話し合うといいよ。ここは治療室だけど、三人にはちゃんと一緒に過ごせる部屋を用意してあるからそっちで話すといいんじゃないかな」

ここでは他にも治療をけている者もおり、職員もいるため、大事な話をしようとしても話が筒抜けになってしまうため、シルフェウスは配慮してくれたようだ。

「わかった……うん、は大丈夫みたいだ。部屋のほうはわかるか？」

「はい、私とエミリさんはそちらにいるので。ハルさんのベッドもあるので行きましょう！」

「行こ、なの！」

ハルはルナリアとエミリに手を引かれて、部屋へと案される。

部屋は來賓用のものであるらしく、綺麗な部屋で調度品もそれなりに豪華なものが設置されていた。

「いい部屋だな」

「うん、巫候補の私がいるのと、ハルとルナリアは古龍退治に多大な貢獻をしたからだ、っていってたの」

ぐるりと見まわすハルに、すこしい表になったエミリが答える。

「……それで、エミリはどうするつもりなんだ？」

彼の悩む様子をじ取ったハルはふかふかのソファに腰掛け、今後についての話としてエミリへと質問を切り出す。

「うん……」

対して、エミリはソファに座って頷くと、口をキュッと結んで黙り込んでしまう。

彼は迷っていた。

最初は村からおしつけられた運命であり、魔法をうまく使えないことに悩み、なんとかその運命から逃げ出そうと考えていた。

それはハル、ルナリアと出會ってからも変わらなかった。

むしろ、一緒にいるようになってハルたちと旅に出たいという思いが高まっていた。

その狀況でなにか気持ちの整理がつけばと思って今回の試練に參加したエミリ。

だが他の巫候補たちは真剣に巫という立場と向き合っていた。

そして、実際の巫であるシルフェウスとの出會いも大きい。

凝り固まったエルフの神たちのなかで前例を打ち破ることを認めさせるほどの巫との出會いは彼の考えをも変えようとしていた。

「悩んでるの……」

それら全てが集約され、頭の中でグルグル回り続けた末になんとか出した言葉がこれだった。

「なるほど、確認だけど悩んでいるのは村の人たちのため、っていうわけではないんだよな？」

「うん！」

この質問にばっと顔を上げたエミリは即答する。

既に彼の判斷理由に村のことはなくなっていた。

目の前にいるエミリの表を見れば自分自のために悩んでいるということがハルにはよくわかった。

「それじゃあ、聞かせてくれ。エミリが何に悩んで、どうして悩んでいるのか。俺たちはエミリの味方だ。悩んでいるなら、一番の答えに近づけるように協力したい」

「ですね！」

優しく力強いハルの言葉に、聖母のような笑顔を見せるルナリアも全力で同意していた。

「……うん、うん！　二人ならそう言ってくれるっておもってたの……！　――あのね……」

思ったまま言葉にしてもけれてくれるハルとルナリアと一緒なら大丈夫だと安心したエミリはポツリポツリと考えていることを話していく。

４月２２日（水）に『才能がなくても冒険者になれますか？～ゼロから始まる『長』チート～』四巻発売します！

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