《【書籍化/コミカライズ決定】婚約破棄された無表令嬢が幸せになるまで〜勤務先の天然たらし騎士団長様がとろっとろに甘やかして溺してくるのですが!?〜》三十三話 母のと義母の
たしかにセリスは記憶力が良かった。
他人と比べても優れている自覚はあったが、誰しも一つや二つはある特技の域は出ていないと思っていたのだ。
「その様子だと、今もまだちょっとした特技、位の認識でいるのね」
「それは……昔からお父様が──」
「そうね。あなたのお父様はずっと言い続けて來たのよね。人よりもし記憶力が良いだけ、ちょっとした特技でそれほど凄いことではないからねって」
それはセリスが五歳のとき。実母が病気でなくなってから、父に口酸っぱく言われたことだ。
記憶力を敢えて誰かと比べることはなかったセリスは、そういうものなのかと抵抗なく父の言葉を飲み込んだ。
アーチェスと共に暮らすようになり、ときおり「お義姉様はどうして全部覚えているのですか?」と聞かれることはあったし、確かに、とセリスが自の記憶力を多不思議に思うことはあった。
けれど、その対象のアーチェスがあまり頭が良くなかったので、ある意味個人差なのでは? という結論に至ったのである。
「けれどね、貴方にそう言い聞かせてたのには事があったのよ。……実は貴方のお母様も『絶対記憶能力』の持ち主だったらしいわ」
「お母様が……?」
「ええ。そのせいで々悩んだらしいの」
記憶力がずば抜けて良いことで苦労することなんてあるのだろうか。
セリスはやや訝しげな表で義母を見つめる。
ほんのしの沈黙の後、義母は目を伏せ気味に話を始めた。
「『絶対記憶能力』を持った貴方のお母様は昔から天才だと稱されたらしいの。だからこそ能力目當てで近づいて來る男が何人かいたみたい。そのせいで、近寄ってくるすべての人間が能力目當てに見えた時期があったみたいでね。セリス──貴方にはそんな思いをしてほしくなかったのね。だから貴方には『絶対記憶能力』の話をすることはおろか、その能力を自覚させたくなかった。貴方のお母様は最期にそう願って亡くなったそうよ。貴方のお父様がそう仰っていたわ」
「そんなことが…………」
「けれどいつかは能力のことを話さなければならないときがくる。そもそも、『絶対記憶能力』があるんじゃないか? って誰かに指摘されるかもしれない。──セリス、貴方のお母様はこう言っていたでしょう?『自分で見たものを信じなさい』と。どこかのタイミングで『絶対記憶能力』を持っていることをセリスが自覚したときに、人を見る目が備わっていれば、さほど悩まずに済むかもしれないと考えたのだと思うわ」
セリスの実母は、明るい人だった。
病気になってからもセリスの前では常に笑顔で、日に日に死が近づいて來る恐怖を表に出したことはなかった。
けれど怖くないはずが無かったのだ。まだ若く、我が子だって五歳で、これからの長を見屆けたいのに、それはどうやったって葉わない。
だから、生きている間に『絶対記憶能力』のこと、それに伴って悩むことも、伝えるべきかとも悩んだ。
けれど死が近づいて來る神狀態と、セリスが五歳でまだまだかったことから、伝えるのではなく自覚させないという方法を選んだのだ。
セリスの実母は、これから傍では寄り添ってあげられない娘のことが心配で堪らず、出來るだけ障害を取り払って上げたかったのである。
父もその気持ちを理解し、ずっとセリスに能力のことは伝えなかった。
セリスがする人が出來たときに伝えようと思っていたものの、不慮の事故で亡くなってしまい、それは葉わぬものになってしまったのである。
そして、その役目は義母へと引き継がれたのだ。
「どうして今、このことを話してくださったのですか?」
「セリスに大切な人が出來たら、このことを話さなければって、貴方のお父様(あの人)が生きていた頃話し合っていたのよ。……もしかして違ったかしら?」
「っ、ジェドさんは第四騎士団の団長様ですから、それはその、大切に……違いありませんが」
「……あら、そうなの? まあ、今はそれで良いかしらね」
含みのある言い方の義母に、自の気持ちがバレてしまっているのかと焦るセリス。
ちら、と隣のジェドの顔を見れば、カチッと目があって微笑まれたので、慌てて視線を反らした。
セリスは再び義母に視線を向けると、言いづらそうに口を開く。
「それにしても意外でした」
「……? 何がかしら」
「私のことについてお父様と話し合っていてくださっていたなんて。……お義母様は私のこと……あまり好きではないでしょう?」
「……! 違う! そんなことはないわ!」
聲を荒らげ、ガタン! とテーブルに手をついて立ち上がった義母に、セリスは「えっ」と聲をらす。
軽い気持ちで打ち明けたことに対して、まさか否定が返ってくるとは思わなかったのだ。しかもこんな切羽詰まったような表で。
「私はこの家にアーチェスと共に來てから今まで、セリスのことを心からしているわ……!」
「そんなはず……だって昔から私の顔を見るたびに眉間に皺を寄せて──」
「それは! どうやったら貴方と仲良くなれるのか、どんな話をすればセリスが笑ってくれるのかって考えていたからよ」
「…………!」
そう言われてよくよく思い出せば、義母は何か考え事をしているとき、悩んでいるとき、眉間に皺を寄せる癖があった。
嫌われているため、そういう表を向けられているのだとばかり思っていたが、『絶対記憶能力』があるセリスだからこそ、義母がデタラメを言っていないことは分かる。
セリスの中にある蟠(わだかま)りが、しずつ溶けていく。
「ずっと勘違いしていました。……嫌われているからなのだとばかり」
「全て私が悪いのよ。考えても分からないのなら、何が好きなのか、どうすれば楽しい気持ちになるのか聞けば良いだけの話だったの。……言い訳になるけれど私は口下手でね……それに私もセリスと同じであまりが顔に出なくて……だからこそ、言葉で伝えるべきだったのに……ごめんなさい」
義母の表は後悔が滲んでいる。普段あまり表を変えない義母には珍しいその顔に、セリスはがギュッと締め付けられた。
噓偽りのない、飾り気のない真っ直ぐな言葉は、たしかにセリスの心に屆いたのだ。
セリスは義母に続くようにして立ち上がる。
ローテーブル越しに向かい合ったセリスは、義母の右手をそっと摑んで両手で包み込んだ。
亡くなった父の代わりに伯爵家を守ってくれていたその手は、書類を扱いすぎてし切れている──働き者のしい手だった。
「私こそ勘違いしてしまってごめんなさい。それと、嫌われているかもと思っていただけで、私はお義母様のことを心から尊敬しています。父の代わりにこの家を支えてくださってありがとうございます。私の能力について考え、教えてくださりありがとうございます。……こんな私ですが、たまに帰ってきても良いでしょうか?」
「もちろんよ……! いつでも帰ってらっしゃい……っ」
涙ぐむ義母の顔を見ていると、何だか涙が出そうになってくる。
セリスは必死に涙を堪えてらかく微笑むと「お義姉様、あの……」とおずおずとした様子で聲をかけてきたアーチェスに視線を向けた。
「私が言えることではないですが……その、この家に戻ってきてはくれないのですか?」
「…………アーチェス……」
「最近お母様が立ち上げた事業が軌道に乗って、使用人も増やせました……! ですからもう……! 働かなくても……」
伯爵家の令嬢として産まれて、騎士団の寄宿舎で家事雑用として働くなんて、誰も好き好んでしないだろう。そんなアーチェスの考えは別におかしなことではなかった。
けれどセリスは、割と働くことが好きだったし、家事雑用も苦ではなかった。それに第四騎士団の皆が大好きになったから。それと、何より──。
「ありがとうアーチェス。私は今のお仕事を辭めるつもりはないの。クビにならない限りお世話になるつもり。良いですか? ジェドさん」
「セリスが辭めるって言い出したらどうやって引き留めようか丁度考えてたとこだ」
「ふふ……それはそれは、嬉しい限りです」
アーチェスはそんな二人のやり取りを見て、これ以上何かを言うことは無かった。
ジェドを見つめるセリスの瞳は、今まで見たことがないくらいに幸せそうだったから。
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