《【書籍化/コミカライズ決定】婚約破棄された無表令嬢が幸せになるまで〜勤務先の天然たらし騎士団長様がとろっとろに甘やかして溺してくるのですが!?〜》最終話 第四騎士団は今日も平和
◆◆◆
──約一年後。
寄宿舎の裏手、洗濯場にて。
「セリスさん、今日は洗濯が多いですねぇ」
「そうね。シーツ類も洗う日だからね」
ジェドが王弟だと打ち明けられた日から約一年経ち、家事雑用にレイラという仲間ができた。何か訳ありというわけではなく、第四騎士団だから來たのだという。
現在の第四騎士団について語るには、先に第二騎士団について知る必要がある。
──半年前にハベスの悪事が明らみになってから、第二騎士団は生まれ変わった。
団長のハベスは斷罪されて爵位を失い、副団長以下団員は様々な末路を辿った。もちろん殘留しているものもいるが、軒並み下級騎士へと降格しているらしい。
新たに配屬された第二騎士団長──ハーディンは、第二騎士団を清いものにすると意気込んでいる。ジェドからの推薦で騎士団長へ昇格し、日々忙しくしているようだ。
因みに、ナーシャはハーディンに「付いて來い」とだけ言われ「しかたねーな」と返しながらも迷う様子はなかったらしい。
「ふふ……」
「急にどうしたんですか? セリスさん」
「貴方が來る前にナーシャって同僚がいたんたけど、彼のことを思い出したら、つい。今ごろハーディンさんと上手くいってると良いけれど。ってごめんね、知らない話をして。さっさと済ませましょうか」
「はい!」
──話を戻そう。
レイラが第四騎士団に來た理由というのは、つまるところ第四騎士団の悪評が全て噓だったと國王自らが宣言したことが大きい。
仲間思いで民思いな第四騎士団の人気は最近鰻登りで、何とレイラ以外も面接にも訪れたが沢山いたのだ。
明らかにジェドや団員目當てのも多く、結局かったのはレイラだけだったのだが、今後も人は増えていくことだろう。
もちろん、第四騎士団に団したいという騎士も多く、ここ數ヶ月で十人程度は増えただろうか。
今や、団するのに一番困難な騎士団だと言われているくらいだ。
「セリスちゃ〜ん! レイラちゃーん! ごめん洗濯追加しても良い?」
「はいどうぞ……って、この場ではがないでくださいねロッツォさん」
「そうですよロッツォさん、団長に叱られますよ、こっ酷く」
突然ぎだそうとするロッツォに待ったをかけたセリスの、味方になってくれたのはレイラだ。
レイラはセリスの左手の薬指をちらりと見る。
「セリスさんは人妻なんですからね! しかも団長の! その辺り気をつけてくださいね!」
「そういやそうだな〜! けど結構前から二人はイチャイチャしてんだもん。もう今更が」
「ろろろ、ロッツォさん。後ろ向いてますから早くいで訓練に戻ってください」
「ふっはっはっ! イエッサー!」
ロッツォが洗濯籠に服をれ、パタパタと走り去っていく音に、セリスは再び洗濯を開始する。
水仕事のときは指を外していたセリスだったが、ジェドから「セリスは意外と抜けてるから嫌じゃないなら付けておいて」と言われたのは記憶に新しい。実際何度も無くしかけているので従っているのである。
悪くなるかもしれないが無くなるよりマシなことと、指を見るたびにジェドが嬉しそうに笑うのでセリスも満更でもないのだが。
結婚といえば、義母とアーチェスに改めて挨拶に行ったのも記憶に新しい。
一年前の出來事以來、良好な関係を続けており、セリスの結婚を心から祝ってくれたのはもちろんのこと、アーチェスもそろそろがしたいと言っていたのはセリスにとってとても喜ばしいことだった。
アーチェスの心に大きな傷を殘したギルバートといえば、賄賂の件と貴族を手に掛けようとしたことで決して軽い罪ではなかったものの、本人が心から反省していることと、ハベスの悪事を暴く有力報を提示したとして、狀酌量の余地があるとみなされ、現在では第二騎士団の下級騎士より下の、騎士見習いをしている。
騎士見習いは、厳には騎士ではなく、お小遣い程度のお給料しか出ない。
仕事も訓練と雑用ばかりな上、ギルバートは一生昇級出來ないという制約まである。
それでも牢屋で過ごしたり、奴隷さながらの生活を送るのに比べたら有り難いと、ギルバートは一杯仕事に勵んでいるらしい。
「干しましょうか、レイラ」
「はい。……けどセリスさん、前回はミレッタさんが高い位置の竿を擔當してくれましたけど、私はそれほど長が高くなくて……セリスさんは……私より……」
「分かってる! もう小さいことは自覚済みよ。だからあれ、個人的に買ったの」
そう言ってセリスが指を指した先にあるのは、小さなはしご臺だ。
小さい割に金屬で作られているため、しっかりとした造りになっている。
ちょっとしたことでは壊れないので安全であり、セリスは良い買いをしたと鼻高々だ。
「これがあれば高いところも任せて!」
「因みに、今まではどうして買わなかったんですか?」
「こういうのがあるって知らなかったのと、知ってからは何故かジェドさんに止められていたの。……そんなに危なくないのにね」
「…………それって──」
「セリス」
レイラが何かを言おうとしたが、それを遮ったのはセリスを呼ぶジェドの聲だった。
レイラは軽く頭を下げてジェドに応対すると、セリスははしご臺に登ろうとした足をゆっくり降ろす。
ジェドはレイラに軽く挨拶をわしてから、セリスの前まで行くとはしご臺を軽々と持ち上げた。
「いつの間に買ったんだ? これ」
「一昨日です。ジェドさんがお仕事をしている間に街に行く用事があったのでそのときに。あ、騎士団のお金には手を付けてませんよ?」
「そこを聞きたいんじゃねぇっての。むしろ仕事で使うものに自腹を切らなくて良い。……いや、そういうことを言いたいんじゃなくてだな」
やや不服そうにするジェドに、セリスは意味がわからないといった顔を見せる。仕事を効率的にするために必要なものを買うことに、何がそんなに不満なのか。
レイラは何かを察したようで、向き合う二人をよそ目に洗濯を干し始める。
「こういうのは買わなくて良いって言ったろ」
「どうしてですか? これがないと高い竿に屆かないんです。ミレッタはまだしも、レイラも屆かないんですから必須ですよ」
「ならレイラ専用な。お金は俺が出すから、後で教えてくれ」
「何でそこまでして……私そこまで抜けてませんよ。落ちたりしません。そもそも、落ちても怪我をするような高さじゃないですし」
ジェドは心配だ。思いを通じ合ってから、そして結婚してからは尚更だ。
もちろん嬉しいものの、し度が過ぎている。
セリスは爪先立ちをすると、ふんっと鼻息をらしてジェドの手にあるはしご臺に手をばした。
さっと腕を上に挙げられてしまえば屆くはずもなく、セリスのは前傾してジェドのにぽすっと倒れる形となる。
「殘念。小さいセリスには屆かねぇな」
「ジェドさんが意地悪をするからじゃないですか! 早く返してください!」
「はははっ、だーめ。レイラ、これ使うか?」
「是非」
ジェドは倒れ込んできたセリスの腰を片手で支えながら、はしご臺をそっと地面に下ろす。
レイラはそれをさささっと回収すると、セリスに「ありがたく使わせていただきます」と言ってから臺に登って高い竿に洗濯を干し始めた。
結果的に役に立っているわけだが、セリスは何だか納得いかない。
とはいえサボるわけにはいかないので、洗濯を手に取ると。
「セリス、俺が手伝う」
「えっ……ん? ちょ、まさか──ひゃあ……っ」
腰を支えてくれていたジェドの手がおの下辺りに回され、ぐっと力を込められた。向かい合う形で、セリスの両足は地面から離れる。
第四騎士団に來たばかりの頃も、同じようなことがあった。あのときは妹扱いだと思っていたけれど今は違う。
「これで臺はいらないだろ? 落ちる心配もないし、俺はセリスにれられるからいい事盡くしだな」
「レイラが見てますってば……! 下ろしてください! あと口は閉じてください……!」
「夫婦が仲良いのは良いことだろ。な? レイラ」
「黙権を行使します。──あ」
洗濯を干しながらセリスたちを見ていたレイラだったが、反対側から聞こえてくる足音に振り向いた。
どうやら団員たちがジェドを探しに來たらしい。
「団長またセリスちゃんとイチャイチャしてる!!」
「副団長〜! 団長にガツンと言ってやってくださいよ!」
「むっ!!」
「そろそろ『む』の意味教えてくださいよ……」
団員たちが様々な反応を見せる中、セリスの恥心はどんどん募っていく。
いい加減に降ろしてほしいと、セリスはジェドの肩をトントンと叩いた。
眉を下げ、アイスブルーの瞳を潤ませて頬を真っ赤に染めながら、小さな抵抗を見せるセリスに、ジェドはおしそうに微笑む。
セリスはジェドのらかな笑みに、この上なく弱かった。
「離してやんねぇよ。可いセリスが悪い」
「…………っ、もう!」
そんな二人のやり取りをジッと見ていた団員の數名は、口を揃えて「前にも増してとろっとろだあ」と呟いたという。
──第四騎士団は、今日も今日とてに溢れ、平和である。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。
皆様のおかげでとても楽しく書くことが出來ました!
時期をみて後日譚を投稿できればなと思っています。
ぜひブクマはそのままでお願い致します……!
◆お願い◆
楽しかった、面白かったと思っていただけたら、読了のしるしに↓の☆☆☆☆☆から評価をいただけると嬉しいです。今後の執筆の勵みになります!
◆ご報告◆
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