《【書籍化】え、神絵師を追い出すんですか? ~理不盡に追放されたデザイナー、同期と一緒に神ゲーづくりに挑まんとす。プロデューサーに気にられたので、戻ってきてと頼まれても、もう遅い!~》第三十五話「闇のファイル(逆襲 2)」

「凄い……。これだよこれ~! ルーデンス(ボクら)がしかった資料だよ~。夜住さん、田寄さん、ナイス!」

ルーデンス・ゲームスの會議室で、阿木さんは興気味にパソコンの畫面を見つめている。

今夜は私と田寄さんの二人で訪問し、神野さんから託されたデータを阿木さんに渡したところだ。

機材管理室に隠されていた神野さんのパソコンにはユニゾンソフトの闇が詰まっていた。

悪質な課金システムの存在を裏付ける資料や、実際にゲームに組み込まれていた仕様書。

そして闇の部長會の音聲データまで……。

「まさか、神野さんがここまで調べ上げてるとはね。アタシも驚きさ」

「でも、長さんからも部資料が出てきたのにはビックリでした」

自由にけるようになった真宵くんを通じて隠しファイルを引き出してもらったのだけど、機材管理室の長さんから別のデータも渡されたのだ。

それは神野さんの退職後にも続く、今まさに行われている悪事の資料の數々。……運営中のソーシャルゲームの部資料だった。

長さんの名前を出すと、阿木さんは笑う。

「あはは。長屋さんはユニゾンの生き字引だからね。実は早々に仲間に引き込んで、々と調査を進めてもらってたんだよん。でも、まさか機材管理室に神野さんのお寶が眠ってたとは。まさに燈臺下暗しさ~」

ひとしきり笑った阿木さんは、急に鋭い目つきになって私たちを見據える。

「……これ、他にはリークしてないかな?」

「大丈夫だよ。阿木さん、ユニゾンの報を集めてるって言ってただろ? これを託せるのはアンタしかいないって思ったのさ」

田寄さんと阿木さんの初顔合わせの日を思い出す。

私がユニゾンの暗部について口にしたとき、阿木さんに「まだ部告発は我慢してほしい」とお願いされていた。阿木さんがに調べていると知った時から、相談相手は彼しかいないと思っていたのだ。

阿木さんも深くうなずき、パソコンを閉じる。

會話が一段落ついたようなので、私はずっと疑問に思っていたことを口にする。

「あの。……素樸な疑問なんですけど、どうして神野さんはこれを使わなかったんでしょう?」

「本人に聞いたんだけどさ。何とか説得してやめさせたかったらしいんだ。ユニゾンのこと、信じてたんだろうね」

「信じて……。なのに、一方的にクビにされちゃったんですね……」

きっと神野さんは作り手の良心を信じていたんだ……。

だから、説得という手段を使った。

その気持ちを思うとが苦しくなる。

局長さんに、そんな良心はないってことなんだ。

私の憧れの人をひどい目に合わせて、本當に許せない……。

そして阿木さんも難しそうな顔をしている。

「悩ましいとこだね~。これを公表すると會社の信用は失われ、ユニゾンのゲームを応援してくれているファンを悲しませてしまう。ボクだってにしていたいさ~」

「ほう? じゃあ阿木さんも、これを表に出さないってのかい?」

挑発的に尋ねる田寄さんに、阿木さんは首を橫に振りながら答える。

「それを決めるのはボクじゃないよー。ボクはルーデンスの経営陣に伝えるだけ。……でも、ファンに隠したままは許されない。うちのボスも、そこは分かってるよ」

そして立ち上がり、にっこりと笑った。

「ま、大事なのは回しとタイミング。こっからは任せてね~」

◇ ◇ ◇

ルーデンスの本社を後にして、私は夜空を見上げる。

月が高く昇っており、空にはいくつもの星が見えた。

世界はこんなに広いのに、いつまでコソコソとかなければいけないんだろう。

理不盡で窮屈な現狀に、ちょっと疲れてくる。

そんな気分を察してくれたのか、田寄さんが肩を引き寄せてくれる。

「心配ないさ。こんな狀況ももうすぐ終わる」

「うん。阿木さんもいろいろとかれてるし、安心ですよね」

「ああ。……ただ、あの資料だけだと鬼頭が諸悪の源だと斷定できない。書面に自分の名前を殘さないなんて、責任逃れも甚(はなは)だしいねっ! 鬼頭を狙い撃ちにするにはもう報が必要さ」

田寄さんはフンッと鼻息を荒くする。

そして、何かを思い出したように私のほうを見た。

「……そうだ。実は阿木さんに見せてない資料がもう一つあるのさ」

「ふぇ? なんですか?」

「これ、長さんにプリントアウトをお願いした畫像なんだけど……」

田寄さんが鞄から數枚の紙を取り出す。

それは何かの表だった。……いや、よく見ると微妙にパースがついている。

表を寫真で撮ったもののようだ。

表の中には外部のイラストレーターの名前が並んでいて、特に有名な人気作家には手書きで印がつけられている。

「あ、ユンボ先生と豆しば先生に大所の山口先生。……漫畫家の仙才先生までありますね」

「特に印がつけられてる作家はね、ここ數年でユニゾンのゲームのキャラクターデザインに起用された人たちばかりなのさ。……で、次の畫像」

田寄さんが紙をめくると、次の表には見覚えのある名前があった。

「あ……」

「ね。イロドリ先生。……つまり彩ちゃんの名前も載ってるのさ」

「え、でも私……イロドリ名義でユニゾンの仕事をしたことないですよ?」

「ほら、橫の方を見て。手書きでメモが書いてる」

田寄さんが指さしたところにはこう書いてある。

『最優先でアサインしたい』

『対面は困難』

『編集は役立たず』

「彩ちゃんに関わるからさ。まずは彩ちゃんに相談って思ってたのさ。……なんか覚えあるかい?」

そういわれて、頭をひねる。

イロドリ名義でもたくさん仕事をしすぎて記憶がおぼろげだけど、怪しげな案件があったことを思い出した。

「あ。……実は一昨年(おととし)。ユニゾンから仕事の相談がありました。……すごく嬉しかったんですけど、容もわからないまま、結局立ち消えになっちゃったんですよね……」

イロドリとしては基本的に出版社の編集さんからイラストやデザインのお仕事をもらってたけど、その編集さんを通じてユニゾンソフトから仕事の相談があったのだ。

容は極で、対面で會うまでは明かせないという。しかもユニゾンの人と一対一(・・・)で會う必要があると言われて困ってしまった。

……対面する相手も分からなかったうえ、私は基本的に顔出しNGで通しているので、編集さん抜きで素のわからない人と會うのも怖い。

結局は私が返答できないまま時間だけが過ぎて終わった話だったけど、こんなところで私の名前が出るとは思わなかった。

「この字を書いた人が、私に會おうとした人なんですよね?」

「一対一での対面をむぐらいだし、そうだろうね」

「誰なんだろう……」

文字はやけに角ばっていて厳(いか)めしい。

どことなく威圧があり、鬼頭さんのことが頭をよぎった。

「気になるからさ。鬼頭を調べられるか、真宵くんに相談しようと思うんだ」

真宵くんを危険にさらしてしまうけど、鬼頭さんに近づけるのは彼しかいない。

田寄さんの提案に、私は無言でうなずいた。

……この時は確証がなかったけど、これが私と鬼頭さんの意外な接點だったとは思いもよらないことだった。

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