《【書籍化】え、神絵師を追い出すんですか? ~理不盡に追放されたデザイナー、同期と一緒に神ゲーづくりに挑まんとす。プロデューサーに気にられたので、戻ってきてと頼まれても、もう遅い!~》第四十四話「追い出し部屋の終焉 3(終)」
結論から言うと、追い出し部屋こと『キャリア開発室』は閉鎖されることになった。
私からのヘルプメッセージを見た真宵くんが、労働基準監督署の人たちに連絡してくれたのだ。
真宵くんは以前からずっと労基に相談してくれてて、彼なりに踏み込むタイミングを狙っていたらしい。
労基の人たちの今回の目的は『追い出し部屋の実態』の調査。
開発者である私たちが『開発できていない』現場を確認しに來てくれたのだ。
そう考えると、機材を隠してて本當によかった。
普段の開発中に來られでもしたら、「開発業務はできてるようですね」と言われたかもしれないのだ。
真宵くんがちょうどいいタイミングを見計らってくれたことに他ならない。
また、長さんが準備してくれた雑用のダンボールも重大な証拠になった。
何の意味もない電話帳の書き寫しはどこからどう見ても雇用契約書の容に反しているわけで、これで言い逃れができるはずもない。
あ。
ちなみに伊谷見さんは解雇されることに決まった。
決定的だったのは高跳さんに飛びかかって骨折させたことでの傷害罪。
配屬先を失った逆恨みからの行とみなされ、狀酌量の余地なしと判斷された。
ついでにロッカーを壊して弁償することになり、何から何まで悲慘な末路といえる。
――とにもかくにも、雇用契約と著しく異なる現況が明らかになり、會社は改善の勧告を出された。
結果、キャリア開発室は消滅することになったわけだ。
……だけど、いい結果だったと手放しに喜べない。
待っているのは別の地獄だったわけだから――。
「自由に開発させてやってるぞ。ほれ、始めてみろ。ほれ」
いらだつような局長さんの言葉が忘れられない。
常に局長さんに監視される中での開発室。
新しい開発機材を與えられても、今までの開発がバレればむちゃくちゃにされる。
全員にその確信があったから、何もできるわけがなかった。
追い出し部屋で使っていたノートパソコンはこっそりと長さんが回収してくれたらしい。
でも、あまりに危険なのでけ取れていない。
見つかった途端に壊されるような危機があった。
なんとも皮なこと。
追い出し部屋こそが安息の地だったというわけだ。
『ごめん。……僕が労基を呼んだせいで……』
電話の向こうで真宵くんは泣きそうだった。
自分が労基の人たちを呼ばなければ追い出し部屋が消えることはなかったし、局長さんが腹いせに嫌がらせをすることはなかったかもしれない、と。
でも、そんなことはない。
私は冷靜に答える。
「疑いをかけられた時點で、終わりは決まってたんだよ。むしろ真宵くんのおかげで労基ににらまれることになったわけだし、局長さんも今以上にけないんだと思う……」
『でも、局長に見張られてる狀態だと彩ちゃんたちもけない。……彩ちゃんチームのゲーム、最終調整が殘ってるんだよね?』
それは真宵くんの言う通りだ。
殘り二週間弱で最後のクオリティアップとバグ修正がされる予定だったし、田寄さんが言うには最終的な実行ファイル(ROM)が未作の狀態。
今のままでは審査會を迎えることはできなかった。
『あと……彩ちゃん自が二日も休んでる。抱き枕を破かれたって……聞いたよ』
「えへ。えへへ……。うん。でも大丈夫。外側にかぶせてたカバーのすみっこが破れただけで、本當に大切なドラスフのカバーは無傷だったの。二枚重ねにしててよかった~」
『そ……そうか……。でも、一枚目の方も寶だったよね?』
「平気平気! 真宵くんも、私のことなんて気にしないで仕事に戻って! ちゃんと復帰するから、心配しないでだいじょーぶ! じゃね!!」
最後のほうは涙聲になってしまったので、慌てて電話を切ってしまった。
高ぶってしまった気持ちを抑えたくて、深呼吸する。
目の前にはほつれをった抱き枕カバー。
ごめんね、とカバーに向かってつぶやく。
本當はドラスフだけじゃなく、どっちのカバーも大切な寶なの。
抱き枕(君たち)に頼りすぎてたせいで、局長さんたちに狙われて、破かれてしまった。
二度とあんな危険な目に合わせたくない。
外にもって出るのは、もうやめよう。
私自も巣立ちの時が來たんだ。
私はもう一度だけ深呼吸し、スマホを握りしめた。
電話帳にずらっと並ぶ名前。そのはじめの一つをタップし、耳に當てる。
何回目かのコール音。
そして相手が電話に出た。
「おはようございます。夜住 彩です」
私は本當に怒ってる。
好きだったユニゾンソフト。その名を穢した人たちが許せない。
この時、私は一つの決斷を下したのだった――。
◇ ◇ ◇
彩ちゃんと電話をした翌日。
この僕、真宵 學は不安をに新開発室をのぞいた。
しかし、やはりというか彩ちゃんの姿はどこにもない。
それだけではない。
新開発室には田寄さんと創馬さんの姿もない。
高跳さんは骨折して療養中だから分かるとして、この二人がいないことが不思議だった。
彼らは彩ちゃんチームのコアメンバー。
いったい何が起きているのだろう。
妙な騒ぎに襲われていると、スマホが震え始めた。
電話の著信だ。
急いで電話を取ると、明るい第一聲が聞こえてきた。
『真宵く~ん? ボクボク。阿木だよ~。ちょっと表まで出てこれるかなぁ?』
◇ ◇ ◇
會社を出ると、阿木さんは高そうな車に乗って僕を出迎えてくれた。
「今日は打ち合わせの予定はなかったはずですが……」
「まあ、いいからいいから。乗って乗って!」
「……あの。これからどこへ?」
「社會見學だよ~」
助手席に乗せられて向かった先。
……そこは、幾度となく訪れたルーデンス・ゲームスの本社ビルだった。
いつものように會議室に通されるのかと思いきや、會議室のフロアを通り過ぎ、エレベーターはどんどん上昇していく。
そして通された部屋は、あらゆる設備が整った開発ルーム。
でも、どんな設備よりも目を引いたのは目の前の可らしいの子。
抱き枕を持たない彩ちゃんだった。
彼だけではない。
田寄さん、創馬さん、そして高跳さん。
元追い出し部屋のコアメンバー。僕の盟友たちが勢ぞろいしていた。
「え、どういうこと!?」
「阿木さんにお願いして、殘りの期間をルーデンスで作らせてもらえることになったの」
そう言って彩ちゃんは微笑む。
僕が呆気に取られていると、他の三人も近寄ってきた。
「はは。さすがに全員が引っ越すわけにはいかないからね。どうせ最後の調整だけだから、アタシら四人だけが集合したってわけさ」
「うん。わたしたち以外のメンバーにもこのことを伝えて、緒にしてもらってるんだ」
「ホントーは直行(ちょっこう)直帰(ちょっき)扱いにしたかったんすけどね! 言えばクソ鬼頭が邪魔するに決まってるんで、有休扱いで集合してるんす」
それぞれが笑顔で答える。
直行直帰とは、一度も會社に立ち寄らずに社外の目的地に出向き、仕事をして帰宅するということだ。當然出社扱いにできるけど、新開発室は鬼頭の直屬組織にされてしまったので、報告をためらわれた。
だから仕方なく有給休暇を申請し、に行しているということだった。
數日前までの鬱な新開発室と異なり、みんな生き生きとしている。
その笑顔を見るだけで、僕も元気をもらえるようだった。
「……っていうか高跳さん! 肋骨が折れてるのに、平気なんですか!?」
「ダイジョーブっすよ! 激しいきは無理っすけど、アニメーションデータの微調整はやっておきたいもんで」
「もう……。無理は絶対にダメですよ!!」
高跳さんの無茶には本當に驚かされる。
今すぐ帰宅してしいのに、テコでもかないのだった。
改めてみんなの顔を見渡す。
「それにしても……すごい行力ですね。やっぱり田寄さんの発案ですか?」
「違う違う。全部彩ちゃんがいてくれたのさ」
あまりにも意外な返答に、僕は驚きが隠せない。
彩ちゃんは照れながら答えてくれた。
阿木さんに事を説明し、ルーデンス本社の一室を用意してもらえるようになったこと。
今までの開発データは長さんがサーバにアップロードしてくれたおかげで、ルーデンスの方でも引き出せたこと。
ルーデンスとユニゾンは親子関係にある會社なのでネットワーク関連も一部共有化しており、無事にデータを引き出すことができたらしい。
そして何よりもスムーズに事が運んだ裏には、阿木さんの努力があった。
ルーデンスの経営層と報を共有することで、すでにけれの準備が整っていたわけだ。
大事なことは、あくまでも名目上は『社會見學』であること。
彩ちゃんたちは有休のついでにルーデンス社を見學しているだけで、仕事をしているわけではない。
たまたま(・・・・)來客用のパソコンが見學用の部屋に置いてあって、たまたま(・・・・)自由にれているだけ。
どう使うのも自由だし、ルーデンスは來客の行をとやかく言う道理もない。
……そういう理屈だった。
「彩ちゃん。……抱き枕がなくても大丈夫なの?」
「うん。抱き枕(あの子)は家を守ってくれてるから。……今の私は、真宵くんやみんなからもらった元気があるから、大丈夫。もう、一人で歩けるよ」
そういって微笑む彩ちゃんは、確かに強いオーラに満ちていた。
「真宵くんと私たち。それぞれに最高のプロトタイプを作ろう! そして必ず合流しようねっ!!」
「うん。僕のチームもラストスパート。最高の狀態でぶつけるよ!!」
僕らは固く握手をわし、そして別れた。
追い出し部屋から飛び出して、彼たちは大きく羽ばたこうとしている。
僕も負けられない。
ユニゾンという名の固い殻を打ち破り、大空に羽ばたいてみせる。
そして鬼頭。首を洗って待っていろ。
審査會でお前の罪を暴き出し、どこまでも追い込んで見せる!
波の審査會が、ついに幕を上げる――。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます!
終幕まであとわずか。いよいよ語の決著へと進みます。
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