《【書籍化】誰にもされないので床を磨いていたらそこが聖域化した令嬢の話【コミカライズ】》主の契約
後書きにてお知らせがあります。
気が付くと私は王宮でお借りした部屋のベッドに転がっていた。
外は既に暗く、テーブルにはきちんと夕食の準備が出來ている。
力、必要……!
力の重要を痛いほど思い知った私は取り敢えずその食事を有り難く頂き、お禮を申し上げるために殿下の居るお部屋に顔を出した。
するときちんとした王族らしい上著をに著けた殿下が居て、非常に申し訳なさそうな表で口を開く。
「今日はありがとう。……あのさ。もしも調が大丈夫なら、今から聖としてシルヴァの尋問についてきてしい。俺だけで行くとまた倒れそうな気がするから」
私も彼の事は気になっていた。
頷き、殿下がそれなりの立場の人間としてシルヴァの前に立つおつもりでいると察して私も急いで王妃様にお借りしている白のドレスに著替える。
見た目のハッタリは案外馬鹿に出來ないものだ。
真面目に話を聞き、子ども達の件も含めて解決策を提示するなら、きっとちゃんとした権威ある姿を見せた方が良い。言葉の説得力が全く違うはずだ。
華すぎるものだと反を煽るかもしれないけれど、幸い王妃様の若い頃のドレスは生地が上質な真珠のようにらかという事以外の華さは無く、形がシンプル。
こういう場面にぴったりだと思う。
著替えはすぐに済み、私達は共に地下の牢屋へと向かった。
地上の華やかさから一転、天井から床、壁に至るまで灰一で、やや濃い目の瘴気が漂う地下牢の通路は暗い。
牢屋番の兵士さんに案して貰い、時折浄化をしながら奧に向かって歩いていく。
シルヴァの牢は意外なほど通路の奧深くにあった。
椅子を二腳――シルヴァの牢の前と、隣の空いている牢の前に置いて貰って、私は彼の姿が目にらない方の椅子に座らされた。
殿下はシルヴァの牢の前の椅子だ。
深めに座り、腳を組んで話しかける。
「よう。夕飯は食べたか?」
初手から長話をする姿勢の殿下に、シルヴァは苛立ちの滲むつっけんどんな口調で答えた。
「おかげさまで。町で食うより良いもん食えたよ」
「そう怒るなよ。足はどうだ? 痛むか?」
「當然だろ! 腫れて歩く事すら出來ねぇよ! クソッ、こんな怪我させられたのは初めてだ。攻撃をけた事が無いのが唯一の自慢だったのによく分からないスキルなんか使いやがって。あんなの反則だ」
「いや、凄いじゃないか。君が太刀筋を見切ってかわしたあの衛兵さ、実はかなりの実力者なんだよ。剣の模擬試合で勝ち抜き戦をやれば、必ず優勝候補として名前が挙がる。そういう腕の持ち主だ。君、まだ十七歳なんだろ。本當に凄いよ」
私が眠っている間に調べはついていたようだ。十七歳。
私と同じ歳。
「……へぇ。大した事無かったけどな」
彼はし機嫌が良くなったようだ。そして呟く。
「あんた……本當に王族だったんだな。こうして見るとよく分かる。なぜあの時の俺は見抜けなかったんだろう」
殿下は答えた。
「知らないからだろ」
「何を」
「上流階級ってやつをだよ。知らないものを見抜けって、そりゃ無理な話だろ」
「……はっ。下らない。何が上流階級だ。俺に言わせりゃただ生まれが違うだけだ。それをさも自分の力みたいに振りかざしてさ。あげく人をもの知らず呼ばわりかよ。ダセェ事この上ないな」
「そう言うけどさ、シルヴァだって自分の代でひと財産築いたら、死ぬ時は自分の家族に殘したいと思うだろ。俺達の先祖も同じだったって話だよ。俺達の運が良かったのは否定しないけど、悪いも多いし運に見放されて沒落していった家だって沢山ある。恵まれた環境を何代にも渡って維持するのは並大抵の努力じゃ出來ない。皆、親からけ継いだものを守るために必死さ。ダサくもなるよ」
「……ふーん。悪いけど俺、家族なんかいないから。そういうのはよく分からないな」
「あれ? あの子ども達は? シルヴァを兄貴と言って慕ってるんだろ。君も親の居ないあの子達を食わせるために一生懸命だ。手段はちょっとアレだけど……あの子達は家族と言って差し支えないんじゃないか?」
「家族じゃねぇって言ってんだろ! アイツらは関係ねぇんだよ! 俺が勝手にやってる事だ! だから……悪いのは、俺だけなんだ……」
シルヴァの聲がトーンダウンしていく。
こんなに分かりやすくてよくスリなんてやってこられたわね……。
は案外ピュアなのかしら。
私にれて実はだったと知った時の揺を思い出した。
殿下と彼の會話は続く。
「そうだな。悪いのは君だけだ。きっと、君にスられた人の中にはそのお金で家族に味いものを食べさせようと思っていた人も居た事だろう。気の毒な事だ」
「……そうだな。――なぁ、王子様。なんで、恵まれた人間と、そうじゃない人間がいるんだろうな。皆が一緒だったら、俺だって悪い事なんかしなかったのに」
「……人は一人じゃ生きていけない。きっと、何もかもそのせいなんだよ」
「そうか……。そう、だな。確かに」
シルヴァの聲に力が無くなった。
會話が途切れ、しばらくして殿下が口を開く。
「君の処罰については俺に一任されている。そこでだ。君には奴隷罰を與えようと思う」
殿下におよそ似つかわしくない言葉が出てきた。
奴隷って……。
でも彼が罪を犯していた事は事実なのだし、仕方ないのかしら。
シルヴァは諦めが混じったような小さな笑い聲を上げ、呟く。
「奴隷か。縛り首よかマシだな」
「そう思う? 甘いな、君は」
「縛り首の方がマシなのか? どんな非道な事をするつもりなんだ……?」
「まず、隷屬のスキルでもって君を俺の言いなりにする。都合の良い駒にするんだ。食事とか運んで貰う。労働の時間は朝の九時から夕方の六時まで。狀況によっては殘業も有りだ。食事以外の休憩時間は基本的に無いと思え。しかも一年ごとに働きぶりを嫌味なじで査して、翌年の賃金を決めてやる」
「ち、賃金が出るのか……」
「要らない?」
「要る」
これ、ただの使用人契約では……。
ああ、でもスキルによる強制という意味では確かに奴隷扱いなのかしら。
というか、隷屬のスキルなんていう恐ろしいものが存在していたのね……。
貴族社會の闇を垣間見た気がして、背筋がぞくっとした。
11月10日頃に書籍版の2巻が出ます!
書影はこちらになります。
特典SSにセシル視點を書き下ろしております。
ぜひお手に取ってみて下さい。
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