VR空間に設けられたフィールドにて対峙する2人。その2人を併設された観客席から見守る代表候補たちや選考委員。

[それでは齋藤花vs鹿島芽依の『魔闘』を開始します。両者開始位置に！]

それぞれの思が渦巻く空間で、齋藤花は憎悪に燃えていた。

彼のこれまでは、端から見れば順風満帆と言えた。高校１年生から『魔法演舞』で上位賞。3年生には優勝し、鳴りりで魔法競技者の世界にっていった。選手になってからは元々得意であった『速攻魔法』を鍛え上げ進化させた『クイックドロウ』で名を上げていった。そして期待の若手と呼ばれるようになった頃、絶対王者日本を支えていた選手たちが次々に引退していき彼に代表のチャンスが回ってきた。

そして摑んだ代表の座。周りからは日本の次期エースと呼ばれるようになり、その期待に応えるべく臨んだ昨年の『WMF』。団競技ではドイツ代表の鉄壁のコンビネーションを打ち崩せず予選敗退。『魔闘』では予選こそ突破したもののアメリカ代表の『妖』に手も足も出ず慘敗。特に『妖』との一戦は、日本の王座陥落を印象付ける一戦であった。

この１年日本代表への風當たりは厳しく、バッシングされることも多くなった。それでも何とか乗り越えてきたのは、昨年の雪辱を晴らすため、王座奪還を果たすためである。そのため代表候補たちは切磋琢磨してきた。そんな苦労も知らないぽっとでの高校生に貴重な１枠を與える選考委員會、そしてのうのうと推薦をけた芽依に対しての憎悪はとても言い表せないものであった。

「見映えが良い高度な魔法で天才気取り、マスコミに取り上げられるありがたさを全く分かっていない。そんな人に代表が務まるわけがない！」

「よく分からないし、くどい。託は終わってからにしろ」

[レディー、ファイト！]

「うるさい！」パチンッ

開戦のアナウンスと同時に花は指を鳴らす。その合図に呼応するように『クイックドロウ』が展開する。『クイックドロウ』は発のキーを設定し、それに呼応して魔法弾を発する魔法であり、花は発速度、発速度、そして発される魔法弾の數を改良することにより、スピードと數で圧倒するスタイルを手にした。

その分、威力を犠牲にしているが、生で食らえば致命的なダメージとなる程度の威力はある。要は防魔法を発される前に著弾させ倒すのである。そしてこの作戦は、威力を重視し発速度を犠牲にしている芽依には刺さる、筈であった。

「終わり…よ？　っえ」

『クイックドロウ』が発された先には既に芽依の姿はなく、何もない空間を魔法弾が通過していくだけであった。

「ミスした。もうし速いと思ったが、これなら『座標換』の方がよかった」

「上？」

上から聲が聞こえたため咄嗟に上を見上げる花。だがそこに芽依の姿はない。

「いや、もう橫だ『雷轟』」

「うぐ、がぁ…」

聲が聞こえた時にはもう雷に襲われていた。録な抵抗も出來ぬまま花はリタイアとなる。

「賛同は出來ないが理にはかなってる戦法だ。だが絶対的に速さが足りない」

しかしそれは幸運だったのかもしれない。芽依が呟いた一人言を聞かずに済んだのだから。