《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》11・陛下との謁見
そして國王陛下との謁見。
「息子のナイジェルを助けてくれて、この度は禮を言う」
ナイジェルのお父様……國王がそう言った。
「有り難きお言葉です」
私は頭を下げて、そう返事をした。
しかし。
「そうかしこまらなくても大丈夫だ。なんせそなたはナイジェルの恩人なのだからな。いつものようにしてくれて良い」
と國王は私のことを気遣ってくれた。
そうは言ってくれるものの……無理なんですけど!?
なんせあちらは一國の王。ナイジェルが王子様と分かってから、呼び捨てにするのも抵抗があったというのに……いつものようになんて、不可能だ。
「それにしてもナイジェルよ」
「はっ」
私の隣に立つナイジェルが聲を出す。
「素晴らしいお嬢様だな。禮儀作法もきちんとしておる。さすがはお前が目を付けたお嬢様だ」
「ありがとうございます」
まあ……前での禮儀作法は、聖時代に嫌というほど叩き込まれましたからね。
これでも私は「失禮じゃないか?」と戦々恐々としているくらいですもの。
「褒については急いで用意させるが……なにか希のものはあるか? 好きなものを與えるぞ」
「お気遣いありがとうございます」
ここで「いえいえ! そんなの恐れ多いです!」と斷ることは、逆に失禮だと思ったので素直にけれる。
それにしても希のものか……。
くっ、陛下もまた困ることを言い出したものだ。
「好きなものを與える」とは言っているものの、あまりにに余ったことを要求してしまえば、逆に反を買うだろう。
だから。
「もしよろしければ、市に住むところを用意していただけませんか?」
「住むところか?」
「はい。治癒士としてしばらく旅を続けていましたが、そろそろ一つのところで落ち著きたいと考えています。リンチギハムは初めて來たところでしたが、とても良いところでしたので、出來ればここで定住したいと思いまして……」
「うむ。そんなことで良かったら、いくらでも用意してやろう。住むところだけではなく、困ることがないように生活費もな。しかし本當にその程度で良いのか?」
「はい」
「しいだけではなく、謙虛なお嬢様だな。ますます気にったぞ」
やった……!
當面のネックであった『居住地』については、取りあえず解決出來そうだ。
それに陛下の機嫌も損ねていないようですし……我ながら、良い回答をしたんでないだろうか。
「…………」
だけど隣を見ると、ナイジェルが寂しそうな顔をしていた。
どうしてだろう?
「重ね重ね、今回のことは本當に助かった。一國を代表して禮を言うぞ。まだ近辺にうろついていると考えられるベヒモスについては、しっかりと調査したいと思う。その點についても安心するといい」
王國にいた頃、リンチギハムは軍事力に乏しい國だと聞いていた。
なんでも、元々低い稅金を市民の生活レベル向上のために使っているらしい。
そのようなリンチギハムの所業を、クロードは「愚行」と言っていた。
でも當時から私はそうは思っていなかった。
國の在り方は國それぞれですしね。
でもそんなリンチギハムに、ベヒモスを討伐することは出來るんだろうか?
あとで街全に結界魔法を張ってもいいかもしれないですわね。
いや……さすがにそれだけの大規模な結界、私がやったとバレるかもしれない。
そのことについては、謁見が終わってからでも考えるとしましょうか。
「エリアーヌよ。こんなことを言って悪いのだが……一つ頼み事がある」
「はい?」
國王が申し訳なさそうにこう続ける。
「実は城でペットを飼っておってな。それが最近合が悪いのだ。そなたは腕の良い治癒士と聞いておる。もしよかったら、診察してやってくれんか?」
「陛下!」
國王の話を遮るように、珍しくナイジェルが大きな聲を出す。
こういう場だったら『父上』ではなくて、ちゃんと『陛下』とお呼びになるのですね。
「エリアーヌは客人です。そのようなことをやらせるのは、いくらなんでもいささか失禮なのでは?」
「うむう……とはいえ、どんな治癒士に見てもらっても一向にペットのラルフが回復してくれんのだ。ゆえに……」
あら、ペットの名前『ラルフ』って言うんですわね。とても可らしい。
ナイジェルの言葉には怒気があった。
いくらナイジェルのお父様とはいえ、相手は一國の王だ。そんな人相手に、わざわざ私のことを気遣ってくれるなんて……とても優しい方だと思った。
だけど。
「ナイジェル様」
さすがに前では呼び捨てにしなくてもいいですわよね。
「私は別に良いですわよ」
「だ、だが!」
「お風呂にもらせてもらいましたし、こんなキレイなドレスも著ることが出來ました。それに私はも好きです。が病気で苦しんでいるとなれば、とてもじゃありませんが見逃すことが出來ませんわ」
「……はあ。君はとても優しい人間なんだね。分かった。悪いけどお願いするよ」
ナイジェルが諦めたように溜息を吐いた。
「では陛下。治るかどうかは分かりませんが、早速診させてもらってもよろしいでしょうか?」
「もちろんだ。禮を言う」
それにしてもペットってなんなのかしら……。
犬? 貓? いや鳥とか魚も有り得そうですわね。
だけど私はこの時甘く見ていた。
陛下の言う『ペット』というのは、私の想像を超えていたものだったことを。
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