《【書籍化】捨てられ令嬢は錬金師になりました。稼いだお金で元敵國の將を購します。》王都アストリアの人気者 1
翌日私はジュリアスさんを連れて王都アストリアの大通り商店街へと向かった。
といっても私の『クロエ錬金店』は大通り商店街に店舗を構えているので、お店から外に出ればそこはもう大通り商店街である。とても便利。とても良い立地條件。
昨日は――どういうわけか私のベッドで寢たがるジュリアスさんに仕方なくベッドを譲り、私は倉庫になっている空き部屋からずるずるとソファを引っ張り出してきて、自室に設置するとソファで寢た。どちらがご主人様か分からないけれど、ジュリアスさんが言う事を聞いてくれないので仕方ない。
どこでも寢られる特技をこの三年間で得た私は、ソファでもぐっすり寢てすっきりと目覚めて、全く起きる気配のないジュリアスさんを叩き起こして、朝の支度をさせた。
といっても服はまだ買えていないので、私が適當に買っておいた足元まで隠すローブの下に黒いフリーサイズのスラックスを履いてもらった。
男用のフリーサイズのスラックスなのに、ジュリアスさんの足が長すぎてちょっと丈が足りないのが若干イラっとした。顔が良くてスタイルが良いとか、かなり嫌味っぽい。
誰でも履ける男用の麻のサンダルを履いてもらう。簡素な出で立ちだけれど、そのせいかジュリアスさんの元々のしさが際立った。
ジュリアスさんが著ていた服とか靴は、薄汚れていたので全部捨てた。どうせ新しいものを買うのだから、洗って取っておく必要もないだろう。
「ジュリアスさん見て下さい、アストリア王國で一番栄えている王都アストリアの中心、大通り商店街にあるクロエちゃんのお店を! ぽいっと捨てられて三年でこんなに立派に……、きっと草葉のでお母様も喜んでいる筈です」
「これが王國の中心街か。田舎だな」
ジュリアスさんはお店のり口から出たあたりで立ち止まって、私の自宅兼店舗を見上げた。
二階建ての『クロエ錬金店』は赤い煉瓦の壁に黒い屋、お店のり口の壁には看板が掲げられている。店先には私の作った星形の自點燈ランプ(防水)がいくつも下げられている。
これだとランプ屋さんかなと思われてしまう可能があるので、ついでに鳥かごの中に混沌の眼差し(防水)もれて吊り下げてある。
混沌の眼差しはその名の通り瞳である。まん丸い子供の頭ぐらいの大きさの目が鳥かごの中にふわふわ浮いている。
「ディスティアナ皇國は國土がアストリア王國の倍以上ありますし、そりゃ田舎でしょうけれど、田舎なりに栄えてるんですよ。田舎を笑うものは田舎に泣くんですよ」
「クロエ。これはなんだ」
「あら、ジュリアスさん。早速気になっちゃうじですか? 錬金に興味出てきました?」
「目だな」
にやにやする私を無視して、ジュリアスさんはじっと鳥籠の中の混沌の眼差しを見つめた。
混沌の眼差しは黒いの大部分を占める赤い瞳をちょっと恥ずかしそうにぱちくりさせた。
『こんにちは』
混沌の眼差しがジュリアスさんにらしいの聲で挨拶をした。因みに聲を発することはできないので、頭の中に聲が直接響いてくる仕様だ。
「それは混沌の眼差し。稱は瞳ちゃんです。お店に來た人たちにご挨拶をしたりしてくれる子です。お店が閉まっているときに無理やりろうとする不屆き者を瞳ちゃんビームで黒焦げにしてくれる、所謂防犯グッズですね。ジュリアスさんと違って素直で、命令には忠実です。多の知能はあるので、良い人と悪い人の區別がつきます。心が読めるんですよ」
私の説明に、混沌の眼差しは得意げに鳥籠の中でふよふよと漂った。
「魔に見える」
「魔じゃないです。錬金です」
「こういったの造形は、お前が考えるのか?」
「そうですね、錬金とは想像力なので、デザインには私のクリエイティブさが出ちゃいますね」
ジュリアスさんは赤と青の瞳で私を見下ろした。
何か言いたげだったが何も言わないので放っておこう。
「今日は忙しいですよ、ジュリアスさん。お洋服を買って、武を買いましょう。あれ、もしやそんなに忙しくない……?」
「さっさとしろ、阿呆」
店先で腕を組んで首を捻る私を、いつの間にか歩き出していたジュリアスさんがし離れた場所から呼んだ。
私は小走りでジュリアスさんを追いかける。
ちなみに私は今日も頭にレースの三角巾をつけて、赤いエプロンドレスを著ている。私は年中無休で大この格好である。変わるとしたらエプロンドレスのぐらいだ。
肩から無限収納トランクと繋がっている無限収納鞄を下げている。これは一見布で出來た簡素な鞄である。あまりオシャレな造形にすると盜まれちゃうかもしれないので、ただのクリームの布鞄に見えるように作ってある。
「何先に歩いてるんですか、ジュリアスさん道とかお店の場所とか知らないですよね?」
「知らん」
「どっちが阿呆なんですか、迷子になりますよ!」
「遅い」
「ジュリアスさんが瞳ちゃんに興味があるっていうから説明してあげたんじゃないですか。あんなに熱い眼差しで瞳ちゃんを見つめて勘違いさせるなんて、今頃瞳ちゃん泣いてますよ」
「別があるのか」
「あります。聲、の子だったでしょう? 甘い魅のボイスだったでしょう?」
「悪趣味だな」
「私の意識になんか文句あるんですか、ジュリアスさんめ。ちょっと顔が良いからって」
私はジュリアスさんと大通り商店街を並んで歩いた。
大通り商店街は中央に大きな噴水があり、お店が噴水を中心に円形に並んでいる。
噴水を中心とした円形の土地は一等地なので並んでいるお店も人気店や高級店が多い。貴族の皆様用達の菓子店とか、お金持ちの皆様用達の香水店とか、洋品店とか、レストランとか。
一歩路地にるともうし庶民派のお店が並んでいる。
私の錬金店は高級店ではないけれど、錬金というのはによってはジュリアスさんを一人買えちゃうぐらいの値がつく場合もあるので、ピンキリというやつだ。
「冒険者の皆様用の武防店は、私のお店から向かって正面、路地の右側です」
噴水の前では休憩する親子の姿や、人たちの姿がある。
私の姿を見ると手を振ってくれるので、私も手を振り返した。
道行く人たちに挨拶をする私を、ジュリアスさんは訝しそうな表で見下ろす。
「お前のセイグリット公爵家は、悪事を働いて沒落したんじゃないのか。隨分と皆お前に気安いな」
ジュリアスさんが言う。
「なんでちょっと殘念そうなんですかジュリアスさん。セイグリット家のクロエめ! とか言って外を歩く私が石を投げつけられるのを期待してました? 酷くないですか?」
「期待はしていない。予想はしていた」
「そういうのもうずっと前に終わったので。捨てられて三年も経つと狀況は変わるんですよ。石の上にも三年、王都の街にも三年です。今では皆さん私に同的で寧ろ優しいですね。クロエちゃんの誠実さが王都の街の皆さんの心を癒したんです。天使と呼んでくれても構いませんよ」
ジュリアスさんがまた無言になった。
私がったみたいになるので、無言はやめてしい。
無言は駄目という制約を、新たに魔法錠に付け足そうかしら。
「……三年前の王家に怨嗟を向ける襤褸屑のようなお前の方が、今のお前よりも愉快だっただろうな」
明るいしの差し込む円形の広場を抜けて、路地にる。
しだけ影の差す路地にも、カフェや菓子屋や、鍵屋や時計屋、様々な店が並んでいる。
ジュリアスさんは私を見下ろして皮気に言った。
「何でそうなるんですか。それにクロエちゃんは天使なので、王家に怨嗟なんて向けてませんよ。そんな暇無かったですし。それにどちらにしろ私が錬金でジュリアスさんを買い取れちゃうぐらい稼げるようになるまで三年はかかりますので、それは無理というものです」
「三年もあれば襤褸屑もつまらない普通の顔のになる……か」
「つまらない普通の顔の最高じゃないですか。私の為に王都をに染めなさい~、とか言うが好みのタイプとかジュリアスさんほんと趣味悪いですよね」
殘念だけれど、私は悪の幹部みたいな人間じゃないのでジュリアスさんの期待には応えられそうにない。
やっぱり元々將軍だったのだし、ジュリアスさんは戦爭が好きなのかもしれないわね。
「ジュリアスさんの生臭い求を満たすためにより強い魔と戦わせてあげますので、それはもう馬車馬のように働いてもらいますので、良い武買いましょ」
「……武に良し悪しはない。どんななまくらでも、たたきつければ人は死ぬ」
「狂戦士ですか。何ですかその考え方。強いジュリアスさんにより良い武。より強いジュリアスさんに討伐される魔たち。そして潤う錬金店。そんなわけで道というのはとても大切なんですよ。道の使い方を分かっていない原始的な人みたいなこと言わないでくださいよね。もしやジュリアスさん、山の中で山犬に育てられて育ちました?」
「飛竜がしい、クロエ」
私の言葉を完全無視して、ジュリアスさんは我儘を言った。
當然私は斷れないとでも言う様な言い方だった。
「飛竜高いんですよ。それに我が家のどこで飼うんですか、あんなものが飼えるのは騎士団の駐屯所とか、王家の広大な庭とか、それこそ私のセイグリット公爵家の広大な敷地とかですよ。飛竜を飼うスペースなんて私の家にはありませんよ。ジュリアスさんだけでも大きいのに。私のベッド返して下さいよ」
「飛竜が居れば、お前を乗せて飛べる。移速度もあがるし、路銀も減る。お前の求めている素材集めとやらの効率も上がる」
「それはそうかもしれませんけど」
「お前のベッドで俺が寢る事をお前は嫌がっていない。だから返さない」
「何でそこはそんなに頑固なんですか」
私は深い溜息をついた。
ジュリアスさんを買い取って二日目。
手のひらでころころ転がされているような気がしていたけれど、私は手のひらで転がされるどころか楽しく踴ってしまっている気がする。
飛竜。
買っちゃおうかしら、飛竜。
高いんだけど。
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