《【完結】「死んでみろ」と言われたので死にました。【書籍化・コミカライズ】》24
使者がいる玄関へ、ミーナそしてお父様と共に向かう。
廊下を抜けて階段を下れば、仰々しい裝いをした使者がいて――その手には、王家の飾りがついた巻が見えた。使者が持っている巻が、おそらく伝言であり…場合によっては、王命なのだろう。
(――以前は、閣下との結婚を命じられたけど…今回はいったい…)
王城からの便りに、あまり良いイメージがない。だから、ナタリーは構えていて。
「…ペティグリューの領主様と、ナタリー様でいらっしゃいますね?」
「あ、ああ」
「…はい」
けた命令を淡々とこなすように――目の前の使者は、父とナタリーを確認して。その後、巻を開いて口に出した。
「國王陛下からのお言葉でございます。…此度の戦爭で、貴家の通達により…騎士団などの応援が駆け付けたと聞いた。結果、我が國の領土に敵兵の害なく、また貴家の令嬢によって、同盟國兵の負傷もなく――戦爭終結に至った」
「…い、いや…その通達は――」
「…というのは、建前(たてまえ)だ」
「え!?」
お父様が、使者の言葉に待ったをかけて――否定をしようとすれば。逆に、使者が話す…王からの言葉にギョッとする。
「そうした“ペティグリュー家の活躍”ということで、他の貴族をけん制したい。この言葉の意味はわかるだろうか」
「……」
現國王――エドワードの父親からの手紙は“脅し”であった。つまり、貴族の中でも飛びぬけて力を持たないペティグリュー家へ褒賞をあげ――貴族間の均衡を図りたい、ということなのだろう。もしそれを汲み取らない場合は――。
(…想像するだけでも、恐ろしいわ)
「貴家には、ぜひとも褒賞をけ取ってほしい。王家からの要はそれだけである。…ペティグリュー家は、今後とも王家と懇意にと願っている――ので」
父もナタリーも使者からの言葉に、固唾を呑んで耳を澄ませる。
「この“褒賞”以外は、難しく考えなくて結構だ。貴家領主には、明日王家に來てほしい…もちろんナタリー・ペティグリューも共に」
「なっ」
「王家から領主とその娘に、栄譽を與える…以上になります」
國王から出た娘の名前に、お父様は口をあんぐりと開きながらけ止めている。一方で、ナタリーは同盟國の褒賞として…捧げられないことにホッと安堵した。
そんな父と娘の思いを気にせず。使者は「明日、王城へと來てください…よろしくお願いします」と最低限の禮儀をもって――帰り支度を行い、見送るのも結構といった合に。
素早く馬車へと乗り込んで、去っていった。
「…ふ、ふぅ。なるほど、な」
「…明日、王城へ向かいますのでしょうか?お父様」
「…うーむ。そうだな、國王様の言葉を無下にはできない…な」
「そう、ですよね」
「だが、聞いた容は…損ばかりでもなさそうだ。まあ、社界でし注目を浴びるだろうが…」
國王からの提案で、領土をもらったとしても――うちの家は都市部から離れているので。きっと他の貴族にとっても脅威にはなるまいから。なにかやっかみが現れることもなく…収益が増える分には魅力的なものだ――ということらしい。
「ただ…父さんの可いナタリーが…他の男の目にれてしまうのが…大問題だな…」
「……お父様」
「ナ、ナタリー!母さんのように冷靜な目を、父さんにっ!?うっ…」
お父様は「真剣に考えて…言っているのになあ」とつぶやきながら、を押さえていた。ナタリーの視線が、思いのほか心に刺さったらしい。
(…王城…ね)
舞踏會ぶりに、行くことになる。ただ今回は催しではないので――巻の容からも、ただ褒賞を授與されるだけのようだから。きっと何も問題はないはずだと、自分の頭の中で何度も確認する。
そんな怒濤の連絡などをけ――その後、ユリウスに処置を終えたフランツに別れを告げた。もし數日経っても起きなかったら、また呼んでほしいとのことで。
僻地へと帰っていくフランツを見送ったのだった――。
◆◇◆
どれだけ悩んでも、考えても時間は過ぎ――。
王城へ向かう當日になった。今日もまだ、ユリウスは目覚めていない。ミーナに支度を手伝われたのち、お父様が待つ馬車へと向かう。
「あなた、ナタリー…気を付けてね」
「…ああ、君もをよく休めるんだよ」
「ええ、ゆっくり休みますわ」
國王から、お母様の參加の是非は書かれていなかったので――戦爭後、心労からか調を崩していたお母様は家で待つことになった。第一王子のこともあったし…きっと無理して來てほしいとは、思ってないだろうというお父様の見立てだ。
「お母様、いってきますわ」
「…はい、二人ともいってらっしゃい」
「ああっ!すぐに戻ってくるからな…!」
お母様に見送られながら、お父様とナタリーは馬車へと乗り。王城へと向かったのであった。
◆◇◆
ナタリーの知る王家は――戦爭が始まり、第一王子と第二王子が倒れ…現國王は退位していた。そしてい第三王子が、王位を継承していて。
しかし今回は、第一王子の訃報は知らされたが――第二王子、現國王は健在だ。
そんな自分の知る歴史と現在を比べていれば…ペティグリュー家の馬車はあっという間に王城へと著く。舞踏會ぶりに、街や城の様子を見るが、戦火の被害は一切なさそうだ。
馬車をお父様と一緒に降りれば。王家の使用人に案され――現國王が待つ広間へ通される。そこは…赤いカーペットが敷かれる空間で、床から數段上の位置に豪華な椅子があり。
「…よく、來てくれたな。ペティグリューよ」
「…國の崇高なにご挨拶申し上げます」
「そう、堅くならなくともよい…顔を上げよ」
父と娘が共に、敬意を表して顔を下げていれば。現國王から言葉をかけられ、二人とも顔を上げる。そこに映るのは――戦爭で疲れが生まれたのか、濃いクマがある國王様と王妃様。そして側に、エドワードと第三王子が座っていた。
「來た早々にだが、褒賞を授けようと思う…敵國で得た――ペティグリューの領地に近い土地を與えよう」
「はっ、ありがたく頂戴します。今後も、ペティグリューは王家に忠誠を誓います」
今回の戦爭で獲得した他の土地については――同盟國と共に協議していくようだ。比較的利益があまりないと見えた土地が、授かった場所だ。きっと、重視していなかったから…こんなに早く褒賞として授けられたのだろう。
「…うむ。まあ堅苦しいことは…これで終わりにしよう」
一通りの授與が終わった後、國王は満足そうに頷き。視線をナタリーに向けてから、お父様を見て。
「ペティグリューとあまり流をせんかったな…と思ってな」
「は、はあ」
「此度の戦で、そなたとの連攜も必要だと――思っての」
國王はお父様の瞳をじっと見つめる。そんな國王のオーラにビクついているのか…お父様はオドオドしていて。
「だから、今日は天気もいいからな…ゆっくりと庭で話そう――ペティグリューの」
「こ、栄でございます」
「うむ…そうなると、ペティグリューの令嬢は退屈になるだろう…?」
「えっ、いえそんな――」
「エドワード、令嬢に城下町を案するのはどうか」
驚くナタリーに気づいていないのか。國王はニヤリとなにかイタズラな視線を、エドワードに向けていて。その視線に、エドワードは苦笑しながらも。
「ふふ、素敵な提案だと思います。きっと、城下町はあまり來たことがございませんよね?」
「え、ええ」
「では、この僕が案いたしましょう。魔法で変裝すれば、騒がれませんし…なにより“影”もおりますから、心配はないでしょう」
「へ、陛下っ?」
エドワードの瞳に見つめられて――城下町に來たことがないことを伝えれば。話が進んでいき、驚きの提案にお父様は。思わず國王を呼び、目をこれでもかというくらい開けていて。ナタリーが男と歩くなんて――!?とでも言いたげな視線だった。
「だから、案ずるな。…エドワード、しっかりとエスコートをな」
「はい、父上」
(えっ、いったい…どうしてそんなことに…!)
エドワードと話す機會なんてないと思っていて。それは、貰ったペンダントを持ってきていないくらいには思っていて。お父様は、王族が近くにいるためか――強く否定できないようで。目で意思を伝えるのみ。そんな中、優な足取りでナタリーの前へ…エドワードはやってくる。
「どうか無禮をお許しください…手をりますね、ナタリー」
「…へ?」
太のように輝かしい貌の彼が、ナタリーの手を取れば。
「では、行ってまいります…夕刻までには戻りますね」
「えっえっ」
エドワードは、広間にいる面々にそう伝える。すると、王妃様は笑顔で。第三王子は「お兄様、いってらっしゃい~!」と手を振っていた。そしてエドワードはというと…ナタリーと視線が合えば、面映ゆそうに目を細め。
その顔を見た瞬間、ナタリーの視界がぐにゃりと歪み…目の前の景が変わっていった――。
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