《【書籍化】誰にもされないので床を磨いていたらそこが聖域化した令嬢の話【コミカライズ】》アーーッ
木の聖獣と薬草がスクスクと順調に育つ畑の様子を見てから再び町に出て、例の一時保管所――床の一部を聖域化した保管所で、瘴気石に一つ一つ浄化をかけながら考える。
改めて思う。
スキルの水晶とは一何なのだろうか。
神殿に置いてある水晶は一どこから來たのだろう。聖域の上で待機中の殿下に訊ねると、
「神から人間に授けられた、と伝えられて來たとしか知らないな。現存する水晶は全て大昔から……それこそ記録が殘っていないくらい昔から存在しているから、誰にも本當のところは分からない」
とおっしゃる。
じゃあお母様の形見の水晶はいつから存在していて、どこから來たものなのか。
世間の共通認識として、現存するスキルの水晶は全部で七個。
決して多くはない。
全て大國と呼ばれる國が所持しており、いずれも王城の敷地で管理されているとの事だ。
大國が力にものを言わせて占有してきたのか、それとも限られた人數とはいえスキル持ちが居るおかげで所有國が大國へと発展してきたのか。
それは諸説あるだろうけれど、過去にはこの水晶を巡って戦が繰り広げられた事もあったそうだ。
そうなると當然のごとく瘴気が大量に発生し(瘴気とは人のそのものなので)、あっという間に國中が魔獣だらけになって、魔獣対策で手一杯になってやがて戦自が有耶無耶になる――その繰り返しだったそうだ。
それはさておき、この魔獣がした石とスキルの水晶は絶対に無関係では無いという確信が、不思議と私の中にあった。
でも、一つの浄化石にスキルは一つ。まして浄化石は人にスキルを與えるような質までは持っていない。やはり神の仕業なのだと考えれば丸くおさまるのだけど……この機會にもうし踏み込んでみたい。
例えば――お太子殿下のお部屋の絵畫に使われていた、末狀にされた石。
あれはスキルを持った石としてどうなのか、とか。
「殿下。この瘴気の石って……最終的にはどうなると思いますか?」
「最終的って? 処分場に置いた後の話?」
「はい。普通、石って長い時間をかけて砂になっていくじゃないですか。魔獣の石もそうなのかなってふと思ったのです」
「あー……。そうだな。確かに。ベニーの部屋にあった呪いの絵の件だけを見ても、魔獣の石も普通の石と同じように割れるって事は分かるしな。積み上げた下の方では砕けて細かくなっているだろうね。それがどうかした?」
「ええと……。もしもの話ですが、過去に殿下と同じような再構築のスキルを持った人がいたとします」
「うん」
「その人が、砂になった石を再構築したら――々な質が混ざり合って、神殿にあるスキルの水晶のような形になるのでしょうか」
「なる事はなるだろうけど……それはスキルの水晶じゃなくて瘴気の水晶だ。れてはいけない呪いの石って事になる。ステラみたいな人がいればあるいは、だけど――」
「そうですよね」
そもそも、最初のスキルはどこから來たのかって話よね。スキルの水晶はスキルの持ち主が作ったって、ちょっとおかしいもの。
卵が先か鶏が先かって話。
人は水晶にれて初めてスキルを自在にれるようになるのだから、水晶が出現する前にはスキルが存在していなかったという事で――。
――いや。いた。
存在した。
生まれつきスキルを使いこなす生きが、いた。
魔獣だ。
もしかして……スキルの水晶は魔獣が作り出しただったり……?
「殿下!」
「ステラ!」
同時に呼び合ってしまった。目を見た瞬間、高揚しているのが伝わって來る。
きっと私も同じ目をしているのだと思う。
「失禮しました。どうぞ、おっしゃって下さい」
「ああ。あのさ、ステラ。俺と、スキルの水晶を――作ってみないか?」
殿下も水晶の事を考えておられたようだ。
私も、容はし違うけれど同じような事を考えていた。
♢♢♢
「とは言ったものの、石を砕くのはさすがに抵抗があるな……」
山積みの瘴気石を前に殿下は呟いた。
「そうですね……。魔獣の魂のようなものですものね」
例え人間に害なす存在であっても、砕いたりくっ付けたり、そんな事を気軽に出來るでは無いのだ。
「もうちょっと考えてみようか。……そうだな。俺はさ、魔獣の石には実があって無いようなものだと思っていたんだ」
「実、ですか?」
「そう。だっておかしいだろ? 人が居る限り無限に湧いて出ると言われている瘴気があって。そこから生まれる魔獣が石を落とす。そんな事を大昔から延々と繰り返していたら今頃地上は石でいっぱいになっていたはずだ。でも、そうじゃない。」
「そうですね」
「だから――時間は掛かるとしても、実は石から無に戻れるんじゃないかと思っていた。氷が溶けて水になり、やがて空気に溶けるように」
「無、ですか。でも……水は空気に溶けたからといって存在しなくなる訳では無いですよね。殿下の再構築でも空気中の水分を集める事が出來るくらいですし」
「うん。だから魔獣をいくら倒しても瘴気が薄れる事は無いだろう? “浄化”しない限り、濃度は濃くなる一方だ」
確かにその通りだ。
だから浄化の持ち主が聖扱いされる。
「話が逸れたな。つまりだ。さっきステラと話した通り、処分場の石は下層に行けば行くほど小さく細かくなっていくはず。だから、」
「実験をするならそこで、という事ですね」
「そういう事。ただ……俺がそこに近付けるのか、という懸念はある」
「あっ」
そうね……。
処分場の瘴気が何セシル様なのか分からないけれど、この保管所以上に濃いのは確実だ。
強くて危険な魔獣も居るに違いない。
ある意味最強な殿下がけなくなる可能を考慮して、魔獣対策はしっかり行う必要がある。
……ん?
そういえば、保管庫から処分場に運んで行った人はどうやって置いて來るのだろう。
「その、処分場に石を持って行った人はどうやって中にるのですか? 瘴気もですけど、魔獣もきっと相當強いですよね」
「夜明けを狙うらしいよ」
「夜明け?」
……ああ。そうだ。
瘴気は夜明けの時、一瞬だけ姿を消すのだ。私もした事がある。
「どういう訳か、太が顔を出して地面から離れるまでの間だけ瘴気は力を無くして魔獣も大人しくなるらしくて。その僅かな時間で中にって、石を置いて全力で出してくるんだって」
「大変なお仕事ですね……」
「そう。だから囚人の仕事って事になってる。スキル持ちのお目付け役が付いて行くけど、彼らは中にまではらない」
「おや。では、私は主に隷屬していなければそのような危険な仕事に就かされていたかもしれなかったのですね」
突然シルヴァが現れた。私はびっくりしたけど殿下はそうでもないようで、淡々と答える。
「そうだよ。君は瘴気に強い耐がありそうだから、どっちにしようかギリギリまで迷ってた」
「有り難い事です。瘴気はともかく、魔獣となるとあまり相手にしたくないですからね」
「だろうね。……っていうか何でここにいるんだよ。訓練は?」
「今まさに実地訓練の最中ですよ。主達が町に出た時からずっと背後に控えておりました。気付きませんでしたか?」
「全っ然気付かなかった」
さすが、神出鬼沒と言われるだけの事はある。
隠の申し子のような人……。
彼は殿下の前に跪き、恭しく禮の姿勢を取った。
「正直、足を壊されたり奴隷にされた當時は“ちくしょうこのアホボンめ、いつか目にもの見せてやる”と思っていたのですが」
「あ、アホボン……?」
「アホなボンボンの略です。ふっ、上流階級の人はそんな言葉も知らないんですね」
「……なぁ、ステラ。俺、バカにされてるのかな。どう思う……?」
「さ、さぁ……」
「それはともかく、今は主に仕える事が出來て良かったと思っていますよ。知らなかった世界を垣間見る事が出來て、毎日が新しい発見の連続で楽しいです。今の私にとって、主だけでなく聖様をもお守りする事が最上の喜びです。なので――もしも“処分場”に行かれるのでしたら、是非お供させて下さいね」
「聞いてたのか」
「はい。スキルの水晶を作り出そうとするなんて、まるで神の仕業に挑むが如きではありませんか。最高の一言です。対魔獣の戦闘はスキル持ちには敵わないでしょうが、の回りのお世話は私めに任せて下さい」
付いて來る気満々だ。
私は良いと思うけれど、殿下は苦い顔をしておられる。
「君とずっと一緒にいるのは嫌だな……」
「何故ですか!? 主は私と生涯を共にすると決めたから専屬の奴隷にしたのでは無かったのですか!? はっ……! まさか、捨てる気!?」
「君は俺の婦か何かなのか? 捨てるも何も、君の隷屬の印はもう消えているはずだろう。悪ささえしなければ、もうそこまで一生懸命にならなくて良いんだよ」
「えっ? 隷屬の印、もう消えているんですか?」
いつの間に。
「うん。実は……ステラがドレスの仮いをしている最中にね。母に頼んで解消して貰ったんだ」
「そうだったんですか。でも……」
チラッとシルヴァの首元を見る。
そこには変わらず殿下を表す星形の紋章がくっきりと存在している。
あれは一……?
私の視線をけてシルヴァは説明してくれた。
「これは私が自分で描いたのですよ。鏡を見ながら反転させて描くのは大変でした」
「自分で描いた!?」
なるほど。重い。
これは殿下も主従関係を解消したがるはずだ。
「新たな隷屬の証です。私の勤務態度を見て下さった主による信頼の印ですよ。もうコイツは悪い事はしないな、っていう」
「自分で描いといて信頼も何も無いだろ……。もう、何なんだ? 何がコイツをこんな風にしてしまったんだ?」
頭を抱える殿下を前に、何故か自慢げな表を浮かべているシルヴァ。手遅れという言葉がふっと脳裏に浮かぶ。
本當にどのような心境の変化があったのだろう。人の心は複雑怪奇だ。
「王侯貴族も私達市民と同じなのだと気が付いただけです。手元にあるものを守るために必死にならねばならぬ業を背負っているところがね。ま、そんなのはどうでも良い事です。それより主、そろそろステラ様のお顔のが悪くなって來たようですので、今日はここまでにしておきましょう」
「あ……、そうだな。大丈夫? たくさん浄化して貰って……無茶させちゃったかな」
「大丈夫ですよ。ですが、もうすぐ夕方になりますし。今日はこれで帰りましょうか」
「そうだね」
「護衛いたします」
三人で保管所の戸締りをし、帰路についた。
毎日殿下と筋トレしているので、もうフラフラせずに歩ける。
力がついて來たのを実。嬉しい。
じょっぱれアオモリの星 ~「何喋ってらんだがわがんねぇんだよ!」どギルドをぼんだされだ青森出身の魔導士、通訳兼相棒の新米回復術士と一緒ずてツートな無詠唱魔術で最強ば目指す~【角川S文庫より書籍化】
【2022年6月1日 本作が角川スニーカー文庫様より冬頃発売決定です!!】 「オーリン・ジョナゴールド君。悪いんだけど、今日づけでギルドを辭めてほしいの」 「わ――わのどごばまねんだすか!?」 巨大冒険者ギルド『イーストウィンド』の新米お茶汲み冒険者レジーナ・マイルズは、先輩であった中堅魔導士オーリン・ジョナゴールドがクビを言い渡される現場に遭遇する。 原因はオーリンの酷い訛り――何年経っても取れない訛り言葉では他の冒険者と意思疎通が取れず、パーティを危険に曬しかねないとのギルドマスター判斷だった。追放されることとなったオーリンは絶望し、意気消沈してイーストウィンドを出ていく。だがこの突然の追放劇の裏には、美貌のギルドマスター・マティルダの、なにか深い目論見があるようだった。 その後、ギルマス直々にオーリンへの隨行を命じられたレジーナは、クズスキルと言われていた【通訳】のスキルで、王都で唯一オーリンと意思疎通のできる人間となる。追放されたことを恨みに思い、腐って捨て鉢になるオーリンを必死になだめて勵ましているうちに、レジーナたちは同じイーストウィンドに所屬する評判の悪いS級冒険者・ヴァロンに絡まれてしまう。 小競り合いから激昂したヴァロンがレジーナを毆りつけようとした、その瞬間。 「【拒絶(マネ)】――」 オーリンの魔法が発動し、S級冒険者であるヴァロンを圧倒し始める。それは凄まじい研鑽を積んだ大魔導士でなければ扱うことの出來ない絶技・無詠唱魔法だった。何が起こっているの? この人は一體――!? 驚いているレジーナの前で、オーリンの非常識的かつ超人的な魔法が次々と炸裂し始めて――。 「アオモリの星コさなる」と心に決めて仮想世界アオモリから都會に出てきた、ズーズー弁丸出しで何言ってるかわからない田舎者青年魔導士と、クズスキル【通訳】で彼のパートナー兼通訳を務める都會系新米回復術士の、ギルドを追い出されてから始まるノレソレ痛快なみちのく冒険ファンタジー。
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