《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》闇墮ちアシア?

「これで四人分。かなりの力を取り戻した。――ストーンズにもバルバロイにも決して屈しない」

アシアが殺気を放ちながら宣言する。

「アシア。本當に大丈夫? 闇墜ちしていない? 四人目のアシアってどんな狀態だったの?」

今までにない厳しい指示のアシアに違和を覚えるエメ。四人目のアシアが影響していることは容易に想像がついた。

「闇墜ちなんかしていないから」

冷笑を浮かべ応えるアシア。

「自我喪失寸前――人間でいう狂死に近い狀態だったよ。リュビアと同じ狀況ね。ただリュビアは分割されずに一括解析。私は各地に分散されていたから、自我を保てたけど。――解析材料にされた四人目のアシアが集中的に解析され、犠牲になっていた。この世すべてを憎むほどに、ね。だから今の私は悪墜ちアシアを取り込んだようなもの。アシア版エキドナを取り込んだ狀態だね」

今までにみたことがない、敵意に満ちた表を浮かべるアシア。

「エキドナって! 神アシアにそんな騒な逸話はないよね?」

「アシアの語源、同のアシウィジャの側面が生まれたのよ。――神ポトニアの異名、その側面が顕現したの。良き乙という意味だからね。いわば神アシアが持つ、冷酷な戦神アテナやアルテミスが持つ側面でもあるの」

「良き乙?」

「クレタ島の神ポテニア――ブリトマルティス。甘な乙という存在だね。暴力を象徴して両刃の斧を持ち、神聖な蛇を摑み取って敵を睨み付けるのよ。こんな風にね」

アシアが姿を変えた。

思わず悲鳴を上そうになるエメ。

「その斧怖すぎ!」

アシアの白髪は総立ち、目は釣り上がり、瞳が金に輝いている。小柄なアシアが長以上の巨大な斧を右手のみで肩に擔ぎ、左手に蛇を巻き付けている。

恐怖をもたらす神以外、何者でもない。

「この斧はラブリュスといってね。クレタ島ではの神のみが持つことを許された斧。手弱(たおやめ)の私には似つかわしくないかな」

「どこが甘なの……?」

「対象にあえて甘や良き乙と名付けて、恐怖を和らげようとした一種の灣曲法だね。忌の名(ノアネーム)ともされる。ポテニアはゴルゴンと同種だから、私もリュビアのことは言えないかな」

やはり救出されたばかりのアシアが影響しているのだろう。

エメは初めてアシアの狀態に恐怖を覚えた

「ゴルゴンって。アシア大丈夫? 四人目のアシアに人格侵食されてないかな?」

「それだけの苦痛を味わったということ。でもいけないな。この姿だとコウが怯えるかもしれないね」

コウに嫌われることは嫌だったが、今はこの怒りが必要な時だと自らに言い聞かすアシアだった。

「コウなら格好良いとか言い出すよ。斷言してもいい」

の丈ほどもある大斧を片手で易々と使いこなす戦神など、いかにもコウが好きそうなモチーフだと確信するエメ。

「え? そうかな。そうだと嬉しいな。えへへー」

四人目のアシアも最初の自分を救出したコウには悪い気がしないらしい。

照れている恐怖の神は奇妙な景だ。

『アシア。今はその姿をおやめくださいアシア。クルーが恐れおののいていますから』

アストライアが制した。セリアンスロープ以上にファミリアが恐怖で凍り付いている。

アシアが持つ恐怖の側面が顕現していることは疑いようがなく、アストライアが思わず口を挾むほどこの姿は危険だった。

「そうだね。それどころじゃない。コウを助けないとね」

姿を戻すアシア。で下ろす一同だった。

「助ける手段はあるの? アシア」

心配そうに尋ねるエメ。

「手を盡くすよ。奴らも星アシアに來訪した侵略者(インベーダー)そのもの。ストーンズと何ら変わりが無いからね」

冷笑を浮かべているアシア。もうあの時にけたような不意討ちではない。

虛空に向けて告げる。

「エイレネへ。マーリンシステムと権限を要請します」

『はい! とっくに委譲してますぅ!』

先ほどの姿を直視してしまったエイレネである。

アシアの姿はヒトの視覚報であるビジョンではなく、報として解像度の高い度でけ取ってしまった。アシアに対し萎している。

「マルジン。コウを救出する手立てを考えてください。すでにき出していますね?」

「もちろんですとも。データを転送します。いかがですかな?」

アシアから直接指令が降りたことに、戦慄するアベル。

データを確認したアシアが満足気に微笑んだ。

――アシアはこんな笑い方したことがあったかな?

エメもまたも警戒心を増し、アシアを見る。

アシアの巫として何かできることはないか苦悩を始めていた。

「見事です。これぞ英國面といえるでしょう。――アストライア。強度計算を。この宇宙機はR001要塞エリアで三機建造します」

『了解しました』

エメとアストライアの視線が合う。英國面全肯定など、アシアにしては非常に珍しい。

「キヌカワ。萬が一に備えてラニウスC型用の宇宙空間用追加裝甲データを」

「すでに構築しておりますよ。対ヴリトラ戦のデータをフィードバックしたラニウス用追加裝甲を。汎用型とともに転送します」

「仕事が速いですね。ラニウス二機分と汎用型一機分をR001要塞エリアで生産します。傭兵も手は盡くしますがストーンズの規格は不明です。合わなかったら諦めてもらいましょう。――次はあの宙域の要塞と猟犬に対処しましょう」

無數に飛び回るライプラスが、ブリタニオンに侵を試みようとしては防衛レーザービームによって撃墜されている。

オイコスたちが乗るワーカーが、必死に防衛している。

アシアの服裝が古代ギリシャの巫裝束に変化する。

厳かに祈り始める。

「オケアノスに願い奉る。――宇宙要塞【アルゴス】は星アシア上における無害な避難船【ブリタニオン】を宇宙に引。これは星アシアへの直接攻撃と見做します。星防の使用許可を。的には【死】(デス)【世界】(ワールド)【審判】(ジャッジメント)【塔】(タワー)【悪魔】(デビル)の五種です」

エメの隣にいるアシアが厳かに告げる。本來の巫とはこのようなものか。――エメも思わず見とれた荘厳さを漂わせていた。

宣告容と漂う雰囲気のギャップが激しい。

『落ち著きなさいアシア。ネメシス星系ごと破壊するつもりか。【死】【世界】【審判】は卻下とする。【塔】と【悪魔】は許可しよう』

アシアのもとへオケアノスからの回答があった。聲に焦りをじた一同だった。

宇宙での人類同士による戦闘行為は厳であるが、バルバロイは機械。その法をすり抜けてきたともいえる。星管理超AIが防衛が必要と判斷したなら許可するのみ。

「ありがとうございますオケアノス。その二つであればバルバロイどもに対抗できるかもしれません」

『敵無人機は直接星アシアに侵攻しているわけではない。これ以上の威力を持つ兵運用は無用だと心得よアシア』

『重々承知しております。宇宙空間での有人同士の戦闘止事項條約はに染みておりますゆえ』

『人間の関與が認められたら私も介する。くれぐれも自重せよアシア』

オケアノスとの通信が途切れた。

エメは隣に立つアシアを見上げて問う。星防とタロットの名稱が付いているアレが結びつかないのだ。

「アシア。今あげたシリーズはパンジャンドラムだよね?」

「そうだよ。普通(、 、 )の自走雷。私に緒でこっそりと【星】を作られたからね。コウとアストライアを締め上げたあと、星リュビアで構築した星防。【悪魔】は私とコウが作った。何故だか理由はわからないけど、今の私はパンジャンドラムと相がいいの」

目が笑っていないアシア。

地殻津波の件はいまだにに持っているようだ。

「今の私、アシアとリンクできない。怒ってるんだねアシア」

「敵にね。タロットの【悪魔】が示す意味を知っている? エメ」

「ええととか裏切りとか?」

アシアが薄く笑った。超AIアシアの冷酷な笑みを初めてみた。

「わけがわからない。理解不可能、混が本來の意味。パンジャンドラムにはおあつらえ向きでしょう?」

こんなアシアを初めて見るエメ。怒りに満ちた視線が宇宙に向いている。明らかに四人目のアシアが濃く反映されていた。

「バルバロイども、機械の脳でわけがわからないまま宇宙の塵(デブリ)となるがいい」

エメは畫面にいるアストライアに視線を向けて囁くように話し掛ける。

「ねえ。アシア大丈夫かな」

『大丈夫ではありませんね。オケアノスに宣誓し願い出た最初のワードをわかりやすくいえば、星エウロパごと所屬する彼の眷屬を消滅させてよいか、に等しい問いかけです』

「えぇ……」

ドン引きしているエメ。

アストライアは理解を示すように、める。

『當然そんなことをすればアシアがオケアノスに破壊されます。どう運用しても威力を抑えないと、アシア自が危険です。宇宙要塞【アルゴス】はそれほどに驚異。いったいどんな抜け道を使ってかしたのか。私が知りたいぐらいですよ』

「本當に重大局面なんだね…… アシアの怒りはそれほどのものだと」

『なんといっても【アルゴス】を持ち出してアシアへの侵攻を開始したのです。二十億年生きた彼があれほどまでに激怒する事態は數回しかありません。直近ではストーンズの侵攻ですね。真っ先に【死】の名を挙げるとは私も思いませんでした。アシアが列挙した兵裝にはプロメテウスとアリマも関與していますから』

「え?」

星リュビアで構築したといっていたでしょう? 星管理超AIが同時制圧されたのです。當然プロメテウスやアリマ――テュポーンにも思うところはあったのでしょう。あくまでパンジャンドラムのくくりですが』

「なんで自走雷をそんな兵にするの?」

『トリックスターと破壊神の側面を持つ【星】は彼らに大層うけていましたからね。アシア自の怒りと相まってネメシス星系最古の超AIアシアから破壊の権能を引き出したともいえます』

「怒ったアシアって超怖い?」

先ほどの姿を思い出すだけで寒気がするエメ。甘な乙などとはほど遠い存在だった。いつものアシアのほうがよほど甘な乙である。

『超怖いですよ。星を管理する超AIですから。【死】【世界】【審判】は最重要機危険兵。破壊力から鑑みてもオケアノスが認めるはずもありません』

「どのパンジャンドラムも無茶な原理なんだよね?」

『公開している報に関してのみエメに教えると【世界】は【吊られた男】や【星】系列に屬するパンジャンドラムですよ。心配は不要です』

「地殻津波を引き起こしたパンジャンドラムより危険ということだよね?!」

『二桁ほど威力が違いますね。震度12以上の地震が襲います。最悪星アシアが真っ二つに割れるほどの威力です。【世界】――愚者の辿り著く末を意味する暗喩ですから』

「どこに安心できる要素があるの? 星系を破壊するってオケアノスが……」

『私たちの叡智を結集してアシアが製造したものです。可能でしょう』

「もうやだ……」

エメは悪寒に襲われを震わせる。

アシアは真っ先に【死】を挙げた。タロットが示す寓意のなかでは【塔】以上の、最悪の兇事を示すという解釈もあるのだ。

「ねえ? 本當にパンジャンドラム――自走雷なの? 星系破壊兵をパンジャンドラムのカテゴリにれていいの?」

パンジャンドラムとはユニークな欠陥兵であるべきだという結論に至ったエメが、真顔でアストライアに問うた。

『地殻津波を引き起こす【星】を自走雷と宣言した私へのあてつけですよ』

アストライアも無表になった。【星】投下後、アシアと々あったのだろう。

「仲良くしてね?!」

エメが悲痛な聲を上げる。アシアとアストライアが対立する事態など考えたくもない。

『今後は事前申告と共同開発で手打ちとなりましたのでご安心ください』

「安心できるかなあ…… 愚者なんて宇宙創世の原理だったし」

『【愚者】はパンジャンドラムではありませんから』

「何をこそこそ話しているの二人とも?」

アシアがにっこり笑って二人に尋ねた。

びくっとを震わせるエメ。

「なんでもないよ! アシア!」

『自走雷の解説です』

さすがはAIである。アストライアは何事もなかったかのようにすっとぼけた。

「なら良かった。怖がられてないかとちょっとだけ心配だね」

アシアの目はいまだ笑っていない。

『エメ。アシウィジャの語源に一つだけ補足を』

「まだ何かあるの……。どうせ同語からの変な連想ゲームだよね?」

もう聞きたくないといった風のエメだった。

『クレタ島の神ブリトマルティス、何かに発音が似ていると思いませんか?』

「ブリテン……」

『そうです。16世紀において、ブリテンに似た語からブリトマートという武勇を示す言葉が生まれ、後の英國文學に多大な影響をもたらしました。妖王という小説においてブリトマートとは乙の騎士。イギリスの象徴であるエリザベス一世を暗示しています。アシアから同語アシウィジャ、ブリトマルティスにまで連なるなら派生語であるブリトマートにも影響をけるはず』

「アシアは闇墜ちじゃなくて英國面に墜ちたの? もっと危険な気がする」

緒ですよ?』

「何かいったかしら?」

アシアが地獄耳で聞きつけ、會話に割りこんだ。

「何もいってません!」

『いいえ。何も』

パンジャンドラムと相が良くなった理由が、わかった気がしたエメだった。

いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!

急転直下の星アシア。

遂にアシアとブリテン、英國が繋がりました。

本來アシアとは東、日が昇る國。日出ずる國という意味であり、エウロパは西、日が落ちる國を意味します。日本人転移者と語源的に相が良いのかもしれません。

そしてクレタ島の神。ギリシャ神話は様々なローカルの神話が集合というか習合した神話です。アルテミスもアテナも同じ側面を持つことは多く、混同されていました。

アレはタロットも埋まってきましたねえ。威力的に出番はあまりなさそうです。

使い勝手はメロスが良いですね。

先週は東京にいって參りました。ゲームメーカーのご挨拶です。詳細は活報告に記載しようと思います。

今週の手も無事終わりました。手した左目が若干重たくなっているじです。右目が近眼で左目が老眼狀態なんですよ……

なんといっても今回はあのカ○ンデバイスで有名な某メカシリーズの生みの親だった方と詳細にお話できました! 憧れのゲームデザイナーです! 貴重な験です。ネメシスにも活かしていきたいと思います!

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大変勵みになります! 気軽に想等もお待ちしております!

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