《ニジノタビビト ―虹をつくる記憶喪失の旅人と翡翠の渦に巻き込まれた青年―》第90話 フルーツサンド
「そういえばレイン、よく俺のファミリーネーム覚えてたね」
「ん? そうかなあ」
ニジノタビビトはフルーツサンドを頬張ろうとした大きく開いた口の形のまま喋ったせいで子音が弱くて母音が強い話し方になった。
キラはニジノタビビトに自分のフルネームを伝えたのは最初の一度だけだった。それ以降、ニジノタビビトはずっと「キラ」と呼んでいたので、キラはニジノタビビトが先程自分のファミリーネームの「ラズハルト」を迷いなく打ち込んだことに驚いていた。
しかしニジノタビビトにしてみればそこまで不思議なことでもなかった。元々人との流が多くないため、人の名前を覚える部分のキャパシティが大きかったこともあるが、それを抜きにしたってあれほどの印象的な出會いをした人の名前をフルネームで覚えることは決して難しくなかった。それに加えてニジノタビビトとしても「ラズハルト」という名前は何となく語や長さが覚えやすいものでもあったのだ。
もう一つ、あえて理由を挙げるとすればキラのフルネームを忘れる間もなく彼が大切な友人になったというのもあった。
まあ、キラとしても一応気になっただけで些細なことではあったし、自分の名前を覚えて貰えていたことは純粋に嬉しいものなので目の前のランチに集中することにした。
本日のランチは味しそうなサンドイッチのお店を見つけたのでテイクアウトして近くの公園の芝生の上で食べていた。過ごしやすい風も強くない晴れた日なので、周りではレジャーシートをひいてピクニックをしている親子連れも何組か見られた。
二人はもちろんレジャーシートなんてものは持っていないのでお店の人がサンドイッチをれてくれた袋をおしりの下にひいた。ただ、キラはユニバーシティでも図書館前の芝生の上に座ってパンを食べることはままあったのでニジノタビビトがいる一応手前ビニール袋をひきはしたが、別になくても問題はなかった。
サンドイッチのお店はショーケース分の橫幅ほどしかないテイクアウト専門の店だが、ズラリと並んだストライプは整然たる様だった。
キラが選んだのはミックスサンドとニジノタビビトが悩んでいた片割れのみかんのフルーツサンドだった。かくいうニジノタビビトはカツサンドといちごとバナナのフルーツサンドを選んだ。
「どうしよう、まだ食べられる……」
「じゃあ買ってくか? 売り切れてもあれだから先サンドイッチやさん行こうか」
「でも、キラの晩ごはん……」
ものすごく食い意地が張っているようだと気がついてついすぼみになったが、まあ実際食い意地は張っている。キラはニジノタビビトがもう一つサンドイッチを追加で購するか悩む理由が自分がつくる晩ごはんであることが嬉し恥ずかし、どんな顔をしたらいいか悩んだが、理由がそれならばと言った。
「じゃあ、晩ごはん遅くすればいいよ。元々今日は晝が早かったんだから夜を遅くしたり軽めにしたらるだろ」
ニジノタビビトはまだしだけ悩んだが、キラがこの星はすぐに発ってしまうのだからと言ったら心を決められたようだった。
「あっ、じゃあ俺が買いしてるからその間に行ってくるか?」
「えっ、それはやだ。一緒に行こうよ」
キラは口をへの字にして驚いたものの、すぐに聲を上げて笑った。それと同時に頭の片隅でしだけ自分がいなくなった後のニジノタビビトが心配になったけれど、ひとまずは知らなかったことにして立ち上がって手を差しのべた。
「ほら、サンドイッチが売り切れちゃう前に早くいこう!」
ここまで読んでいただきありがとうございます! 次回更新は明後日、7日月曜日を予定しております。
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